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天罰戦線の殺神者  作者: 有栖
第五章『もうひとりの仲間』
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第15話『強き味方は…』

「紬さん! 後ろ!!」


フェリスティナの危険を知らせる声に反応し、紬は剣を顕現させて防御の構えをとる。その剣に、重い一撃がのしかかった。


「なっ……。ロベルトさんっ!? どうしたんですかっ!!」


紬に斧を振り下ろした主であるロベルトに紬は狼狽えつつも呼びかけた。しかし、ロベルトは感情のない瞳を紬に向けるだけでなにも言わない。


「ロベルト……さんっ!!」


剣を思い切り振り上げて斧を弾き、紬はロベルトから距離をとる。そして周りを見回すと、


「くそっ! レイっ!!」


――高速で円を描くように飛ぶ燐を、レイがレーザーで撃ちぬかんとしている光景が目に入った。


「隊長、どうなってるんですか! っ!?」


燐に通信を入れた瞬間に、アレスの声が紬の耳に入ってきた。


「残ったのは貴様らか! 自分以外は全員敵のこの状況……さあ、どうする!!」


アレスのその言葉を聞き終わったとたんに、紬の目の前に剣士の形をした人形が現れて剣を振り下ろしてきた。紬はその剣をぎりぎりでいなして目の前にいるものの分析をする。


―これは、アリシアさんの……? 状況はよくわからないけど人形ならっ!!


思い切り人形の剣を振り払い、切りつける。人形は糸が切れたように地面に向かって落ちてゆくが、紬の目の前にはさらに二体の人形が。そして目線の端には向かってくるロベルトの姿も見える。


「紬君、聞こえるか!!」


燐からの通信が紬に届く。その燐は、レイと空偵隊のレーザーの猛攻に晒されていた。変幻自在の飛行術でそれをかわし、よけきれないものは剣で弾きつつ、必死の形相で紬に呼びかける。


「アレスによる人心掌握術式だっ!! 私はとっさに聴覚を遮断したから操られなかったが、おそらく私と君以外は奴の支配下にあるだろう。殺さぬようにみんなを無害化しつつ、何とかこの場の打開をっ!!」


「ははははっ!! どうやって打開するというんだ!!」


戦場にアレスの高笑いが響き、彼の振った槍が次々と衝撃波を放つ。


四番(フィーア)!」


雷の壁を作り、空偵隊からのレーザーとアレスの衝撃波を受け止める。しかし、どうしても受けきれずに押し戻されて体勢を崩されてしまう。その隙に、遠距離攻撃の間を縫うように迫ってくるアリシアの人形の猛攻を辛うじてさばきつつ、雷の鎖を放ち焼き切ってゆく。


「っ! 二番(ツヴァイ)!」


ライフル型の銃を召喚し、ロベルトに向けて放つ。だが、斧でそれを受け止めながら突っ込んでくるロベルトの勢いは一切衰えない。


五番(フュンフ)! 六番(ゼクス)!!」


槌を持ち、砲台を肩の上に浮かせてロベルトを迎えうつ。斜め上から振り下ろされる斧に槌を当てて弾き飛ばし、がら空きになったロベルトの胸部目がけて雷の砲弾を放つ。だが、その砲弾をアレスの衝撃波が吹き飛ばす。


「くそっ!!」


悔しさをあらわにした顔で、アレスの方を見る。


「そんな顔でこっち見てる余裕があるのかあ?」


「紬さん! 弾幕来ます!!」


アレスのその声に同調するように、空偵隊による弾幕がいっそう激しく紬に襲いくる。精鋭達による弾幕は隙が少なく、慌てて壁を張ったものの数発が紬をかすめる。

状況は燐も同じようで、飛龍の真紅の装甲に傷が見られる。



「分が悪すぎる……。」


―レイの正確な射撃を避けるだけでもきついのに空偵隊の弾幕もあるとはな……。


近距離攻撃特化の燐にとって張られている弾幕を支援なしで抜けるというのは至難の業である。


「だが……、やらねばどうしようもないのだっ!!」


気合の入った声を出し、弾幕の数少ない間隙を縫って進む。そして、あと一歩で空偵隊のひとりに剣が届くというところで、進路をアレスの衝撃波が進路を遮るように放たれる。


「くっ……。」


歯痒そうな顔をして再度距離をとり、彼女は最初と同じことを呟くのであった。


「分が悪すぎる……。」



数と質を兼ね備えた猛攻の前に、ふたりは詰将棋のようにゆっくりと追い詰められてゆく。そして、追い詰められて音をあげたのは紬であった。


自分に迫る弾幕をかいくぐるように動きつつ、斧と槌が数十合打ち合ったとき、振りかぶった紬の腕にレーザーが直撃する。装甲のおかげで体には届いていないものの、衝撃で槌を落とす。その隙を見て、ロベルトの斧が紬を襲う。


「あああっ!!!」


思いきり打たれた紬は、地面に叩きつけられる。


「紬君!」


燐は慌てて紬のもとに降りてくる。


「大丈夫か!?」

「俺は大丈夫……です。四番(フィーア)で装甲を厚くしていました…。」

「そうか……。しかし、普段は心強い彼らもこうなってしまうと本当にやっかいだな。」

「ええ……。隊長、ここからどうします?」

「アレスの意思に操られている彼らの武器の威力は上がっている。だが、救いは守護隊が幻影解放(イマジネーション・ブースト)を使えないであろうことと、我々の位置が特定されていないことだろうか。」


そう、森の中に落ちたことが幸いして頭上から降ってくるレーザーはふたりを捉えていない。恐らく木々が邪魔して大まかな位置しかつかめていないのだろう。


「かなりまずいな……。だが、勝機はある。今、我々の位置はうまく特定されていない。ここから少し移動したところから全速力で飛び出し、アレスまで一点突破して奴を倒す。これしか道はあるまい。同胞を殺すわけにはいかんからな。」


燐の指示に頷き、壁を上に張ってレーザーを避けつつアレスの近くまで移動する。


「合図、お願いします。」


紬はゆっくり起き上がり、飛び出す準備をする。


「3、2、1……」


燐は剣を刺突の姿勢でブースターの準備をする。


「――行くぞっ!!」


その合図で、ふたりは地面を蹴り飛ばす。全速力で飛び出し、燐を先頭にアレスに迫る。


『おおおおおおおおお!!!』


「なにっ!?」


アレスは迫りくる燐に気づくと、槍を燐に向けて突き出す。

その槍を、燐が斜めから体ごとぶつけるように弾き飛ばす。


「紬君っ!」

「はいっ!!」


道を開けた燐の影から紬が飛び出て、召喚していた剣をアレスに突き出す。そして、それは確かな手ごたえで突き刺さった。


―やったか!?


紬は自分の剣の突き立った場所を見ようとする。と、微かにアレスの口から息が漏れているのを聞いた。それは痛みをこらえているようなものではなく、むしろ笑いをこらえているようなものだった。


「っははははははははは!!!」


紬がそう感じた瞬間に、アレスは堰を切ったように笑い始める。


「流石だなあの人形使いは! お前らが飛び出してくるのを見てすぐさま人形をすべり込ませやがった!!」


そう、紬の剣が突き立っているのはアレスの体ではなくアリシアの人形のうちの一体、舞踏師(ダンサー)であった。捨て駒として扱われた人形は、アリシアの支配を受け取れなくなったのか、力が抜けたようにガクッと首を落とし、手に持っていた扇子を落とす。

その様子を見て、燐の顔に怒りの色が浮かぶ。


「その人形は、アリシアが作り上げた手製のものだ。あいつはそんな捨て駒のような使い方はしない! そんな風に使わせたお前を、私は絶対に許さない!!」

「許さない? ふん、その言葉を行動で示せるといいなぁ!」


怒りを露わにする燐をあざ笑うように手を広げ、アレスは高々と声を上げる。


「もういい、飽きた。 お前らふたりとも殺してやらあ!!」


彼が手を振り上げると、その場にいる空偵隊、守護隊の操られた目がすべてふたりの方を向いた。

その時、戦場に響いたのは鬨の声でも悲鳴でもなく、どこか場違いな雰囲気すら醸し出す声だった。


「あっれ~? みんな盛り上がってないよー?」


その声に激しく反応したのは燐だった。周囲をぐるりと見回してなにかを見つけると、口を開けて驚いたような顔をする。


「よーしっ! 帰ってきたばっかりだけど特別にリリのライブで盛り上げちゃうよ~!」


紬も燐の見ている方を見ると、遠くに派手に装飾されたショッキングピンク色の機体が見えた。なにがなんだかわからずに首をかしげると、再びその機体かららしい声が聞こえる。


「それじゃあ、一曲目いってみよー!! 『恋の戦闘狂(バーサーカー)』!」


それを聞いた瞬間に、紬の耳に慌てたようなふたつの声が合わさって入ってきた。


「耳を塞いください紬さん!! あれは……」「耳を塞げ! 紬君!!あいつは……」


フェリスティナと燐のものであるその二つの声は、紬に同じようになんらかの危機を伝えようとしていた。


地獄の咆哮(ヘル・ハウンド)だ(です)!!』



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