いけにえ
パイロットに選ばれた青年は、人型操縦メカを繰って飛来した大型の特撮映画でよく見る怪獣のような地球外生命体を撃退した。
ある街の被害は決して少なくないが、止めなければ滅亡は免れなかったと思うと、かなり小さな犠牲だった。
青年は地下整備場に戻りメカから出て、被害に遭っていない故郷の街に戻った。
青年は暖かい出迎えを期待したが、街の人間は青年を避けた。そして青年を見てヒソヒソと何かを言っていた。
青年は不思議に思って友人の家にたずねた。友人も青年を見ると眉根を寄せていたが、青年が食い下がると渋々と青年を家に入れた。
リビングの椅子に座り、さっそく青年は聞きたいことを尋ねた。
「俺は選ばれたパイロットとしてあの気色悪い怪獣を倒したってのに、街の人間は俺を迎え入れないどころか俺を避けやがるんだ。わけが分からない」
「わけが分からない? お前自分のしたことを分かってるのか?」
「何を言ってるんだ? 怪獣を倒したことで地球の危機を救った。こんな大きなことをしたんだぞ?」
「これは参った。罪の自覚も出来ない人間が操縦メカのパイロットなんて政府もどんな選び方をしたというんだ。話を聞くのも馬鹿馬鹿しい」
そう言って友人は電話をかけると、少ししてサイレンが響き渡った。
「何やってんだお前」
「犯罪者を通報した。当たり前のことだよ」
「なんで俺が犯罪者なんだ? 俺は世界の滅亡を防いだ救世主だろ?」
友人は青年の言葉を無視して警官を家に招き入れた。たちまち警官は青年を手錠で捕らえて、パトカーの後部座席に押し込んだ。
「何故悪いことをしてないのに捕まらなければならないんだ。俺はちゃんと怪獣を倒したぞ」
「お前は気づいてないと思うが、怪獣による被害は相当だ。お前が散々暴れたせいで街はめちゃくちゃで復興するのに一苦労なザマだ。さらにメカに踏み潰される等で死んだ人間が多い。」
「多少の犠牲はどうしようもないだろ。きっと俺じゃなくても被害は変わらないはずだ」
青年の言葉を聞いた警官は肩をすくめて、
「あんたは人の活動している街で怪獣を殺してしまった」
「それがどうしたというんだ。倒した場所がどこだろうと関係ないはずだ」
「倒れた怪獣の遺骸から出てきた毒を持った体液が流れ出て、街は人が住めなくなった。さらに怪獣の周辺は人を殺すほどの腐卵臭が広がったこともあり、被害の範囲を広げてしまった。人の住んでない場所まで行って撃退したならこんなことにはならなかっただろうがな」
青年は呆然とするしかなかった。人の住んでないような場所など、発展の進んだ現代にはなかったからだ。青年が選ばれたものは世界を救う救世主ではなく、犠牲による罪を被るための生贄だった。