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過去の古傷 マリアとの出会い

 カーテンを締め切り、リビングの床の上に膝を抱えて顔を伏せているメイの元にカイが家を訪ねてきた。マットもその後に続いて部屋の端で2人の様子を伺っていた。

「今日も、仕事休んだのか?」

 鞄を床の上に置き、カイはメイの顔にかかった長い髪を肩に掛けていた。俺はメイの住むマンションの屋上で彼らの様子を見守っていた。今日は、風が強い。掛けているイヤフォンの隙間から風が通り、耳元でびゅうびゅうと音を立てる。きっと、人間の生身の身体だとこの風は身震いするような冷たさなんだろうな……。次第に薄暗くなる空にビルのあちこちで煌々と光照らす窓の光。遠くでは繁華街のネオンや車のヘッドライトやテールランプが列を成して動いている。俺は、こういう人間界の外の景色を特に夜景と言われるものだが、それを眺めるのが好きだ。こんなふうに、高い所から眺めるのが。

「……病院、行ってきたの」

 メイは弱弱しく声を震わせながらカイに話していた。カイは目じりを上げメイを鋭く睨みつけていた。

「病院だと? まさか、メイ、カウンセリングか? 薬飲むようになっちまったのか?」

 カイの言葉は、メイの心をチクリチクリと刺しているようだった。メイは酷く怯え次第に涙がこぼれ出していた。

「……辛いのよ。分けわかんないのに、涙が出てくるの。苦しくて……。カイには、この辛さ、わかんないのよ!!」

 メイは両手で顔を覆い、声を震わせて言葉を吐いていた。やばいな……。この状況から、マットが仕事を時間ないにクリアすることができるだろうか。俺は腕時計の時間を確認した。残り30分しかない。最悪、俺が出て行けばいいかとスタンバっているけれど、後々報告書でバレるからショーンの野郎にグダグダ言われるのもいけ好かない。ここは、ギリギリまで見守るか……。

「あぁ。分かんないな! 俺は、強い人間が好きなんだ。今のメイじゃ、俺にはふさわしくない」

 おいおい……。ひでぇな。強い人間って、今酷く弱っている人間に言う台詞か? コイツは、単に弱っているメイを傷つけたいだけなんじゃねーか? 

「私だって、頑張ってるわよ……。頑張ってるけど、辛いのよ……」

 悲痛に泣き叫ぶメイの姿が俺は見るに耐えないが、マットはその場でじっとタイミングを見計らっているようだ。アイツ、結構落ち着いてるんだな。

「じゃぁ、もっと、もっと頑張れよ! 強くなれよ。こんな薬やカウンセリングなんかしなくていいくらい」

 カイはテーブルに置いてあった処方された薬の入った袋を勢いよく手に取ると、それを思い切り床に叩き付けた。カイ言葉にメイの気が触れ、張り詰めた神経をプツンとハサミで切れたように誘発し始めた。放心状態の中、開放された意識にもはや、何を言っても耳に入らないだろう。

 ヤバい! あの女、このままだと危険だ。マットは焦るでもなく、ただメイを見ていた。アイツ、何か策あるのか? 感じてるのか? このままだと、愛の使いじゃなくて……。

「-------!!」

 俺は、メイ達のいるマンションのテラスに見えた黒く輝く光を見つけ慌てた。

「お前、何してるんだっ!!」

 俺は死の使いに声をかけ呼び止めた。

「おや? カートさん。中にいるのは、彼方の所の新米ですか? 何って、メイと言う女を連れに着たんですよ。私たちの仕事の依頼が先ほど来たのでね」

 死の使いは、人間の骸骨を被り黒く艶やかな布に纏われ俺に向かってそう言った。

「違うっ! これは、この後、愛の使いに……」

「カートさん、何かの間違いでしょう? ほら。ここにちゃんと依頼書がございますから。じゃ。時間なので失礼」

 そう言うと、死の使いはメイにテラスの方に意識を傾け呼び寄せた。

「マット! 何してるっ! 死の使いを止めろ!!」

「ど……、どうすればいーんですかぁっ!!」

 マットは状況に混乱し、頭を抱えてしまっていた。その瞬間、メイはマットとカイの間を縫って速やかに窓の鍵を開け、強く風の吹くテラスの縁から前のめりになって身を投げ出した。

「メーーーーイッ!!」

 カイがテラスに辿りつく間もなく、メイは10階の高さから落下した。死の使いはメイと同じスピードで宙を滑降するように飛んでいった。俺が落下寸前にメイの身体に触れようとしたその時、死の使いの鋭い手が俺の首元を掴んでそれを阻止した。

「いけませんよ、カートさん。私たちの仕事を覆すのは、天界でのルール違反。それは、昔、むかし彼方が犯しているから、ご存知でしょうに? この女は死ぬのです」

 身動きできない俺は、落下し身体を地面に強く叩きつけられたメイを見ていることしかできなかった……。メイは頭から鮮やかな血を流し、目は瞳孔が開き生気を失った表情をこちらに見せていた。

「では。私はこれで。失礼します」

 俺の首を掴んでいた手を離し、死の使いはメイの魂を持って天界に向かってしまった。俺の目の前には、メイの亡骸になった遺体が冷たい風にさらされていた。

「カートさんっ……。ぼ、僕……。失敗して……」

 マットは落胆しメイの遺体の傍で膝を地面につけていた。

「いや……。マット。そうじゃなさそうだ。何か、手違いが合った様だ。さっき死の使いも言っていた。依頼書は俺も確認した。間違いない。だから、心配するな」

「でも……。カートさん。僕、カイの後をつけている時、何となく変な気を感じたんです……。僕だけかと思ったんですが、カイの様子がだんだん強張ってきていて……」

「そうか……」

 マリアも言っていた。もしかしたらもう既にどこかで能力者によって何かが変化されてしまったのかも知れない……。それにしても、あの死の使い、俺の古傷蒸し返しやがって……。

「マット、もう依頼は終わった。お前は先に戻って報告書を作れ」

「カートさんは帰らないんですか? 報告書、どう書けばいいですか?」

 マットは少し困った顔をして俺を見ていた。

「起きた事、そのままだ。出来たら俺のデスクに置いておけ。俺は、寄るところがある」

「分かりました。寄る所って、もしかして、観覧車ですか?」

「------!?」

 マットは表情を変え、無邪気な子供の笑顔を見せていた。

「当たりですかぁ? えへへー。僕、カートさんの好きな物は知ってるんです。辺りが一番見渡せる高い建物の上で景色眺めるんですよね? ここじゃ、あの巨大観覧車がそうだろうなーって」

「お前、何処でそれを」

 コイツ、俺の人間界での楽しみを良く知りやがっている……。確かに、マリアにMP3プレーヤーを預かってもらうのも一つだが、観覧車に立ち寄る事は図星だった。

「えへへー。カートさんの好きな物は調査済みですよ。僕もお供したいところですが。報告書作らないとですし、お先に失礼します」

 にこりと笑い、マットは宙を舞い天界へ戻って行った。

「……ったく」

 悔しいが、俺はマットの言った通り、予定ではカイとメイも訪れたであろうアミューズメントスポットにある、巨大観覧車へと飛び立った。風は相変わらず強く吹きつけ、観覧車自体もほんの少しだけ煽られ、ゆらついていた。観覧車のネオンが一つ一つ滑らかな流れで点灯して行き、風車のようにクルクルと点滅し動きを見せたり、花火のように中央から徐々に外側のネオンに光が膨らんでいるようにそれは色とりどりの光を放っていた。

 俺は、天辺の鉄塔に座り音楽を掛けながら辺りを見渡した。真下には、小さめのコースターが緩やかな速度で滑走していた。それに乗りはしゃぐ人間の声が聞こえ、円を描きながらグルグル回る乗り物、小さなカート場ではカップルがぎこちない運転ではしゃいでいた。アミューズメントスポットのその更に先には港が見え、小さな船が観光客を乗せ夜の海の中を走っていた。

 やっぱり、胸騒ぎは的を付いていた。けれど、一体どこでどう変わっちまったんだ? マットのヤツも感じていたそれはやはり、能力者が近くに居たのか……。もしかすると、もう歯止めが利かないくらい、手に終えない事態になっているのか……?考えてもらちが明かない。いつもなら楽しむ音楽すら、今は耳に入ってこないくらいに。俺は鉄塔から降り、宙を風に乗るように舞いマリアの元へ向かった。

 路地裏の積み上げられたダンボールの上で丸くなって眠っていたマリアを見つけた。

「マリア」

 俺が呼ぶと、マリアは顔を上げて俺を見た。

「おや、もう終わったのかい?」

「……あぁ。なんか腑に落ちないが。突然死の使いが来て仕事を横取しちまった」

「……。カート、もしかして、アタシが感じた怪しい気配が影響及ぼしたのかい?」

「不確かだが、多分そうだろう……」

「そうかい。何か、ざわついている気がする。その辺の猫達や、カモメ達、ネズミ達だってそうさ。何か、途轍もない事でも起きるのかね……」

「なぁ、マリア」

 俺はMP3プレーヤーをマリアに差し出しながら話した。

「マリアにお願いしているほかの猫達にもさ……」

「ん? この機械を預かっている猫達の事かい? それがどうしたんだい?」

「あぁ。その猫達にもさ、俺がいない間何かあったら教えて欲しいんだ」

 マリアは起き上がり前足を行儀よく揃えて俺を見た。

「お安い御用ね。けど……」

「けど? なんだ?」

 マリアは両耳をペタンと潰し、周りの音に気を傾けていた。

「カート、上手くやらないとアタシ達の身も危ういこともあるわ。ソイツら、手強いでしょうからね」

 マリアは目を細めた。

「たしかに、そうだな……」

「それと……」

 マリアは前足で顔を洗いその手を止めた。その手に触れなと、声にならないマリアの声が聴こえ、俺は艶やかな漆黒色をしたマリアの前足に触れ、心の中の声を聴いた。

「------!?」

「いや……気のせいかもしれないけどね」

 マリアは再び顔を洗い直した。

「…………」

 俺は、マリアの言葉を受け止めきれず、仕事の事もやりきれない思いのまま人間界を後にした。


 天界に戻ると、俺は自分の事務所ではなくフリッツのいる死の使いの事務所を訪ねた。殺風景な事務所には、フリッツの姿がなく近くに居た使者に尋ねた。

「フリッツさんでしたら、資料館に行ってくると先ほど席を離れました」

「そうか……。ありがと」

 俺は事務所を出て資料館に向かった。中に入るとフリッツの姿を捜した。閲覧室には気配がなく、上の階の個室に居ないか探すと、廊下を歩くフリッツの姿を見つけた。

「カートか? どうした?」

 フリッツは本を数冊手にしていた。

「まだ、調査か?」

「いや、能力者について調べてた。お前は?」

「お前の所にさ、今日、メイと言う女の仕事入っていたか?」

「……いや。無いはずだ」

「やっぱりな……」

「どうした?」

 フリッツは俺の様子を察し、個室に案内した。

「フリッツ、お前は俺の信頼おけるヤツだ。お前はどうだ?」

「突然何だ? お前とは古い付き合いだ。気心も知れてるのはお互い様だろう。言うまでもない」

 フリッツは淡々と話すと、俺はその言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。

「サンキュー。お前だけが、頼りだ」

「何のことだ?」

 俺達はイスに座り俺は、今日の出来事を話した。

「おかしな話だな。能力者の影響が、二転三転してたちまちの内に変わっていっているのか? それにしても、俺が通さない訳がない。誰だ? その依頼を受けていたヤツは?」

「それなんだが……。ソイツ、あの時俺に“古傷”の話を持ち出しやがったんだ」

「あの話か……」

 

 俺たちの世代より上のヤツラなら大抵が俺のこの話を知っている。俺が、まだ愛の使いをしていた頃だった。俺は仕事を終え大きな時計台のある街を、その建物の天辺に座り眺めていた。石畳の道と濃い霧が広がる街だった。天気がよければもっといい景色なんだろうなと思いながら、俺は辺りを見渡していた。と、時計台の少し先の家からピアノを弾く一人の男の姿が見えた。俺は時計台から移動し、そいつの家の窓辺に座った。アップライトのピアノが壁につけられ、それに向かって中年くらいの男は、ノーネクタイのワイシャツの袖を捲くり、くわえタバコに黒縁メガネ、近くにはウォッカがロックで入っていた。男はジャズを黙々と弾き続け、それを譜面に書き落としては何度も同じフレーズを弾いたり、書いた譜面を消しては書き直したりしていた。しっとりとした大人しいメロディーに俺は聴き入っていた。

「アンタ、どっからやってきたんだい? 見たところ、天使でもなければ死神でもなさそうだけど」

 窓辺に近寄りながら俺を見上げ声をかけたのは、一匹の黒猫だった。艶やかな光沢のある短い毛並みと琥珀色の瞳がとても綺麗な猫だった。

「お前、俺が見えるのか?」

「えぇ。これでもアタシは魔女様に仕えてた猫ですからね。アンタ、何しにきたんだい?」

「俺は、あの時計台から丁度この男がピアノを弾く姿が見えたから、聴きにきたんだ」

「そう。このご主人は、プロのジャズピアニストなのよ。けどねぇ……お酒とドラック中毒でね……そこが玉に瑕なんだけど」

 猫はマリアと呼ばれていた。俺は、仕事が終わると良くこのマリアの主人のピアノを聴きに通うように立ち寄った。男は鍵盤に顔をすれすれになるほどの位置まで近づけながら、黙々と曲を弾いていた。

「……最近、スランプのようだわ」

「マリアが俺に話しかけた」

「そうなのか? 俺達は与えられた仕事をやるだけだからなぁ。創造するってのは、俺には素晴らしい事だと思う。そこから、聴いた事も見た事もない物が生まれるんだろうから」

 マリアは俺の顔を見て微笑んでいた。

「なんだよ?」

「いや、カートは天の使いとやらなのに、やけに人間の事に興味があるんだね。それを楽しそうに話するからさ」

 俺はマリアに指摘され表情を強張らせ威厳あるように顔を作った。

「あはは。いいよ。地をだしたらいい。そう……、このヒトはねぇ。創る事に困ってるんじゃない。ドラッグのせいで指が思うように動かないのさ。最近特に……ほら」

 男はたどたどしく鍵盤に指を滑らせるが、その音が時折飛んでしまっているかのようだった。

「俺、あの男の弾くピアノも好きだが、あの男の指も好きだ。ほっそりと長い指が滑らかに動くのが……ほんとだな。音が飛んでってるな」

 マリアは黙ったまま俯いた。俺は見るに耐えなくなり、窓の外に視線を逸らした。すると、一人の男がガソリンの入った瓶とマッチを手に家の近くをうろうろしていたのを見つけた。何をするのか、少し様子を見ていると、男は足を止め鞄の中から新聞紙を取り出した。俺は、思わず辺りを見渡し、巡回していた警察官を見つけると、近づき意識を男の家の方に向けた。怪しい男はガソリンをマリアの主人の住む家にまき、片手に新聞紙をそしてマッチをすり始めていた。警察官は怪しい男を見つけ、駆け寄り声をかけた。

「お前!! そこで何している!!」

 警察官に声をかけられ、男は慌ててマッチと新聞紙を鞄に仕舞ったが、警察官に放火未遂で取り押さえられた。

「若造! よくも俺の仕事を台無しにしたな!!」

 俺の後ろで低い声が聞こえ俺は振り向いた。

「!!!」

 目の前には死の使いが身を凍らせるような冷たい目で俺を睨みつけていた。

「……そうだったのか」

 俺は、すぐに何が起きる予定だったのか悟った。

「神からの任務だ。それを覆す事がどうなるか分かっているか、若造!」

「……すまない。知らなかった」

「間違いなく報告する。処罰はお前の所の上司か神から直接下されるであろう」

 死の使いが立ち去ろうとしていたため、俺は慌てて声をかけた。

「あの……。彼方の仕事は、あの男だろ? それ以外はないのか?」

「あぁ。あのピアノ弾きの男だけだ。他に何かすれば大問題だろ」

 俺に言葉を吐き捨て、死の使いは天界に戻っていった。俺はマリアの下へ行き、事情を話マリアの気持ちを確認した。マリアは小さく溜息を吐き、男の背中を見上げて見つめていた。

「猫は、死ぬ前に姿を消してしまうっていうのよ。無様に死ぬ様なんか見せたくないからね……アタシも、この男が死ぬ姿は見たくはない」

「いいのか……」

「えぇ。どこか、適当に。カート連れて行ってちょうだい」

 マリアはそう言いながら、琥珀色の目に涙を溜めていた。俺はマリアを連れ、とある街の一角で彼女を下ろした。オフィス街の路地裏は繁華街だったため、食べるものには困らない。ダンボールも店の仕入れた野菜などで使われた物が積み重なっているから寒さもしのげるだろう。

「いいのか? さっきみたいに飼い猫じゃなくて」

「えぇ。しばらくは、あの男を思い出すでしょうから、他の人間には飼われないでいたいわ。それに、一度、野良暮らしもしてみたかったのよ」

 マリアは少し強がっているように見えた。俺は時々会いに来る口実に、持っていた(当時は、カセットテープとウォークマン)を預かってもらうことにした。

「聞いてもいいかしら?」

 マリアは琥珀色の目を光らせ俺を見た。

「あぁ?」

「どうして、あの男から私を引き離してここにつれてきたの?」

「あの時、俺が手を加えてしまったからだけど、あの男は放火魔に家ごと焼かれて殺される予定だった。また、放火とは限らないが、間違いなくあの男は死ぬということと、何か危険な目にマリアが遭わないように……と思ってな」

「……アタシの為にかい」

 マリアは静かに俺にそう言った。

「あぁ。余計なお世話になっちまったかな?」

 マリアは黙って小さな頭を横に振った。

 これがきっかけで、俺達は長い間そんなに頻繁にではないが顔を見せ合うようになった。


「あの後、しばらくお前は神から酷く注意されて、停職くらっていたな」

「あー。自業自得のお陰で、天界中の注目の的になった。人目避けるために、よーくここに来て本読んでた」

 俺はフリッツの持っていた本に視線を当て、話を戻した。

「人間界じゃ、死の使いはお決まりのグロテスクな装いするからな。顔は誰だか、声色も変えてるし検討も付かない……」

「俺を通さずに仕事をしたという事は、神からの依頼書を偽装したか……到底、報告書なども出てくることはないだろう」

 俺は当たりに気配が無いか確認し、フリッツに小声で話した。

「マリアは、フリッツも知っているだろう?」

「あぁ。あの魔女の使いだった猫だろ?」

「さっき、マリアから聞いたんだ。『カートと同じ気配を持ったのは、カートともう一人で、死神みたいな恐ろしい気配は感じなかった』って」

 フリッツは首を少しかしげ考えていたが、ハッと何かに気づいた様子だった。

「一人は、お前の部下のうるさいヤツ。死の使いなら暗黒の気配を作るため依頼書に神がそれを仕込んでくれている為、動物も気配を感じ怯えるはず。しかしそうではない、そして簡単に依頼書を偽装できるヤツ……」

「ある程度、絞れるだろ?」

「……あぁ。でも、まさか、上層部の中に能力者が居ると言う事になるぞ!」

「そうなんだ。けど、今のままじゃ、漠然としすぎていて神に報告は出来ない。少し、俺達で探ってみないか?」

 俺の意見にフリッツは直ぐに返事をしてくれた。

「あぁ。多少危険な匂いはするがな。しかし、ある程度の限度を超えたら神にも相談すべきだろ」

「サンキュー! そうだな。……ところで、フリッツ何を調べてたんだ?」

 俺は、フリッツが手にしていた数冊の本が気になり尋ねた。見たこともない本は、神の重要書類マークの印が付けられていた。

「俺もお前も、上層部の者だからな。せっかく上に上がれたんだ。能力者の事について更に調べられる範囲が広がっているだろう?」

「そうか! 昔は、資料は上司から閲覧できる範囲が決められていたからな。能力者について、調べようとしていたのか?」

「あぁ。お前も少しは能力者については知識があるだろう?」

「まぁな。学校時代の勉強程度だが……」

 フリッツが一冊の本のページを開いた。すると、そこにあったのはまるで俺たちの肖像画のような数枚の絵画だった。

「------!! これ、能力者が描いたのか?」

「だろうな。俺達の姿が見えるが故に、俺達はクソめんどくさい事に、人間の風体や骸骨を被り実際の姿を隠しているんだからな」

 絵は4枚あり、それらには、俺達使者の姿が事細かくありのまま描かれていた。顔のない俺達をまるで人物画でも描いたようにキャンバスに描かれていたのを見て俺は身体が凍りついた。


 

今回は、カートの過去を少し描いてみました。(今となっては、懐かしい代物も登場しました。ある程度若い方だとご存知ないのでしょうか……^_^; )

カートとフリッツが2人だけである調査をし始めました。真相はいかに……。


ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました。

もう少し、お話が続きます。よろしければ、お付き合いお願いいたします。

m(__)m

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