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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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パウロ・カスティオンと言う男。

オーガスタ歓迎会の準備で、屋敷が騒がしくなってきた頃、エンリッヒ家の家臣に、招集がかかった。

マルガンダにいるのは、フィリップ、マンシュタイン、キートス、アルフレッド、ダルトン、ソドム、グレンとぐらいなものか。

アルマンドの護衛騎士筆頭である俺は常に共に行動する為、こういった会議に欠席した事はない。

屋敷の中ではシュナの一党に一歩譲るが、外に出れば自分達さえいれば、何に襲われようとアルマンドに指一歩触れさせる事はない。


仕事は俺の誇りになっていた。


貴族の庶子で、武芸以外は大した取り柄もなく、なんとなく冒険者になった自分が、今や侯爵直属の護衛騎士を率いているのだ。

今では、全部で五十騎ほどの部下がいる。

部下達を鍛え、指揮する事に気後れを感じた頃もあったが、マンシュタイン自ら俺を説きに来た。

エンリッヒ家は、まだまだ何処も人が足りていない状況だが、アルマンドの護衛が不足すると言う事態は避けたい事や、適任が他にいない事なとを懇々と諭された。

その時、俺はただ自分が好き勝手に動けなくなるが、苦痛だっただけだと、マンシュタインの言葉に気づかされた。

今思えば、開拓地に送られたラドマンと、何ら違いはない。

主と、自分の感情を秤にかけるなど、恥以外の何物でもない。


「パウロ、何か聞いてないのか?」


キートスが不安そうな顔をしている。

誰も彼もが、そんな顔をしていた。


皆、気付いている。


アルマンドは、もう限界だった。

難しい事を考えるのは得意ではない。フィリップやキートスがそれをやれば良いと、俺は思っている。

だが、フィリップはともかく、キートスの能力にまず限界が来た。

マンシュタインに、右腕だったメルヴィンを取られたのが、よほど堪えたのだろう。

自分の補佐ではなく、末端の人間を育てる事に主眼を置いた結果、領地には数えきれない程の村を建設する事に成功した。

交通の要所には大きな町も、建設され始めている。

だが、いざ物事が進み始めると、その全てをキートス一人では見ていられなくなったのだ。

結果として、アルマンドの負担が激増したと、俺の眼には映った。


アルマンドは、普通の人間だ。


剣はそこらの騎士程度、馬を見る目はあるし、馬上では余人にないものを見せるが、魔法はダメ。

読み書きは出来るが、書類仕事は減らす量よりも舞い込んでくる量の方が多く、些細な案件でも丁寧に見過ぎる。

エルロンドやシエーナに愛情はあるが、どこか屈折したモノを感じさせ、人として円熟の域に達するのは程遠い。

エリーゼを忘れられないのか、と思った時もあったが、今はそれだけではないようにも見える。


そして、まだ三十にもならない若者だった。


人生の半分以上を奴隷として過ごし、貴族社会に復帰して二年かそこらで領地経営に乗り出した精神力と行動力は驚嘆に値するが、同時に無理をしている姿も、俺はアルマンドの傍で見てきた。


優し過ぎるのだ。


悪く言えば人が良過ぎる。

貴族向きの性格ではないと言って良いだろう。


「何も聞いてない。まぁ、何を言われても良いように、覚悟だけはしといた方が良いだろうな。」


言うと、キートスは不安気な雰囲気を更に強くした。

一度、相談された事がある。

キートスは、アルマンドが暴君に豹変するのではないかと、心配していた。

アルマンドの優しさと孤独は、確かにその可能性を孕んではいたが、俺は即座に否定してやった。

アルマンドが耐えきれなくなった時、変わる方向は、多分そちらには向かない。


そうなるぐらいなら、アルマンドは自ら死ぬだろう。


それを言った時、キートスは青褪めていた。

それが、キートスの限界で、俺の限界でもあった。

誰も、アルマンドを救う手段を見つけられなかったのだ。

家臣として、忸怩たる思いはある。

だが、どうにもならない事だった。


アルマンドが、入って来た。

オーガスタとフィリップ、そして何故かシエーナを伴っている。

顔色は、良くなかった。

場が、静まりかえる。


「突然、呼び出してすまない。」


アルマンドの声は、信じられない程、弱々しい。


「俺は、明日の朝から旅に出ようと思う。」


ざわめきが広がる。

俺は腕を組んで、黙っていた。


「旅の間、叔父上がマルガンダに残って下さるそうだ。俺の代わりはフィリップに任せる。旅には、シエーナとパウロ、他に護衛騎士を二名、使用人を二名伴う。以上だ。」


「何故、この時期に旅など。」


言ったのは、グレンだ。

つい最近、家臣として取り立てられたばかりで、正確に物事を把握しきっていないのだろう。


「すまない。」


アルマンドはただ頭を下げた。

グレンはその様子に狼狽するだけだ。


「エルロンド様はどうされるのですか。」


キートス。

どこか、ホッとしたような表情に見えるのは、気のせいだろうか。


「置いていく。旅の途中で、万が一の事があってはならんからな。」


「アルマンド様に万が一の事があっても、困るのですが。」


「今の俺は、もうほとんど死んでいる。わかるだろう?キートス。」


アルマンドが、薄く笑った。

凄惨でさえある笑みだった。

俺達は、俺達の主君を、ここまで追い詰めたのか。

ゆっくりと俯いたキートスは、目を閉じ、何かに耐えるように、眉間に皺を寄せている。


「供が、少な過ぎます。」


「ダルトン、私がそう勧めた。今回に限って、人数を揃えるのは、意味がない。」


「しかし、フィリップ殿。領内には魔物がまだ多く、最近は野盗が出るとの報告も」


「やかましい。」


俺が怒鳴り声を上げると、皆の顔がこちらに向いた。


「アルマンド様には休んで頂かねばならん。ダルトン、お前は五十名もの騎士に囲まれて毎日過ごす日々を休暇と呼べるのか。」


「私はただ」


「なんなら、今すぐうちの奴らにお前を護衛させようか。アルマンド様が戻られるまで、昼夜場所を問わずな。張り付かれるのが、どう言う事なのか、教えてやる。」


ダルトンは、目を伏せた。

俺はただ、単純に腹を立てただけだ。

キートスと、こう言った場での発言を嫌うマンシュタインはともかく、他の連中は似たような事を考えているのが、透けて見えるようだ。

アルマンドの心配ではなく、滞る仕事の心配しか、していない。


誰もアルマンドを、休ませようとしていないのだ。

アルマンドが、屋敷を出ると言っても、そんな事は聞いていないかのように、行かせない理由をこねようとする。


「もう一度言う。全権を、俺が戻るまでフィリップに委任する。叔父上は相談役として、残って頂く。他に、聞きたい事はないか?」


弱々しいアルマンドの問いに、誰も、何も言わない。

オーガスタだけが、こちらを見てにやりと笑っている。


彼の事だ。

早い段階で、俺が言わないと、オーガスタが言っていたかも知れない。

ラドマンなど、他の者が躊躇うような事を平然と口にするので、こういった場では重宝したのだが、しばらくは不在である。


俺も、にやりとオーガスタに笑い返した。

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