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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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仕事納め。

今年最後の書類に判を押して、俺は深くため息をつき、天井を見上げた。

今年も、しんどかった。

来年、俺は二十八歳になる。あっという間だった。

ここのところ、前世ではほとんど感じなかった重い疲労感が、襲ってくる事が度々ある。

エルロンドは来年の秋で五歳。

エルロンドが二十歳になる頃には俺は四十前半のおっさんである。

自分が老いていく姿が、上手く想像できない。

気持ちが老いていかなければ、若々しいままでいられる、と前世ではよく耳にした。

精神だけで言えば、俺は五十年以上生きているのだ。

若々しくはないだろうが、老いてもいない。


「コーヒーでも、お持ちしましょうか。」


俺付きの執事が声をかけて来る。

フィリップは、シエーナに付けているので、最近は自分の仕事をしている時以外は、シエーナと一緒にいる事が多い。

この執事は、悪くはないが、フィリップにはやはり及ばない。

ここで、俺が頼むと言えば、しばらくしてコーヒーは出てくるだろう。

だが、フィリップはほとんど待たせる事がない。

俺がどのタイミングでコーヒーを欲しがるか、きちんと理解していて、準備してあるのだ。

それでいて、煮詰まったコーヒーなど飲まされた事もない。


コーヒーに限った事ではなく、全ての意味でフィリップに劣る。

決して無能ではないのだろうが、いつでも替えのきく人材でしかなかった。


「そうだな。夕食まで、俺の部屋で過ごすから、運ばせてくれ。」


ここで、いらない、と言う事が俺にはできない。

本当は欲しくなくても、気を遣われると、逆にこちらも気を遣うところが、俺にはある。

いらないと言った方が楽になれるのだろうが、気がつけばそんな事を言ってしまっている自分がいる。

前世でもその傾向があったが、奴隷だった頃の影響が大きいと、俺は思っている。

つい顔色を伺ってしまうのだ。

それが返って相手を不愉快にさせてしまう事がわかっていても、ついやってしまう。


立ち上がり、執務室を出ると、眩暈がした。

疲れは、間違いなくある。

それは否定できる事ではないが、気持ちは萎えていない。

心さえしっかりしていれば、俺は働ける。

溜息ではなく、深呼吸して俺は私室に向かった。

歩いている内に、眩暈は収まったが、今度は浮遊感がある。

気のせいだと、思う事にした。


部屋に辿り着くと、窓際に置いた椅子に腰を降ろした。

四人掛けのテーブルも置いてあり、最近はソファで寛ぐより、こちらの方が好きになった。

マルガンダの風景が、変わって行くのが見えるのだ。

日に日に建物が増え、少しずつだが人も増えている。

夕暮れ時に、それを眺めるのが最近の日課だ。

徹夜が続くような案件があったとしても、必ずこの時間に休憩をとって、この風景を眺めるようにしている。


「アルマンド様。」


しばらくぼんやりしていると、ノックの後に、サラの声が聞こえる。

コーヒーを持って来てくれたんだろう。


「入ってくれ。」


言うと、サラがトレイを片手で持ち、入って来た。


「お疲れ様でした、アルマンド様。」


言って、サラは俺の前にコーヒーシュガーやフレッシュ、マーブルクッキーを並べていく。

どれも、前世では廃棄処分になるほど溢れていたのに、こちらでは一生口にできない者の方が多い高級品である。


「ありがとう。サラ。」


普段はブラックしか飲まないが、今日は少し甘いモノが欲しかった。

サラはフィリップよりも、こういった心遣いでは上を行く事がある。

もう少しサラが若ければ、手を出したかも知れない。

まぁ、今はサラも結婚して子供が二人いるそうだが。


「本当にお疲れですねぇ。年が明けたら休暇をとって、旅行にでも行かれたらどうです?」


コーヒーをすすりながら、俺は苦笑した。

そんな事、できやしないし、例え出来たとしてもシエーナやエルロンド、それにパウロや護衛騎士の皆もついてくる。

王都まで、行って帰ってくるだけでも二月半かかるのだ。

時間と金の無駄でしかない。更に疲れに行くような旅行に、そんな無駄遣いをするつもりはない。


「難しいだろうな。今のままだと。」


言って、口にクッキーを放り込む。

甘さは控えめで、バニラの優しい香りが口に広がる。美味い。

個人的には、もう少し甘くても良いぐらいだが。


「そりゃぁ、うちの旦那にも色々聞いてますけどね。うちの旦那ですら、年明けにはお休みを頂けるそうじゃないですか。アルマンド様も、お休みになられても良いと思いますけどね。」


ん?


「うちの旦那って。お前の夫、うちにいるのか?」


「あれ、言ってませんでした?」


キイテナイヨー。


「誰だ?」


「サルムートですよ。庭師が代官にしてもらったのに、まったく。少しはアルマンド様を見習って欲しいものです。」


おお、サルムート。

お前、子供がいたのか。

土ばっかりいじってるもんだから、てっきり独身かと思ってた。


「なら、尚更サルムートには、休みをきっちりとらせんとな。確か、子供がいただろう?」


サラがふん、と鼻を鳴らす。

これだけ見ると、かかあ天下の肝っ玉かあちゃんである。

昔は、本当に美人だったんだがなぁ。


「アルマンド様にも、エルロンド様がいらっしゃるじゃないですか。」


「俺は、会いたければすぐに会える。」


「会いに行かれる事なんか、ほとんどないのに?」


コーヒーカップを持った手が、思わず止まった。


「働き過ぎですよ。アルマンド様は。そりゃぁキートスさんみたいなのも、いますけどね。あの人は好きでやってるんですから。」


「そうか。」


カップに口をつける。

心なし、さっきよりも苦い気がする。


「とにかく、一度お休みをとられた方が良いですよ。アルマンド様は。一年ぐらい放っておいたって、うちの旦那がなんとかしますから。」


いや、それは無理だろう。多分過労死するぞ。

少なくとも、サルムートの性格なら確実に禿げる。



「考えておくよ。サラ。ありがとう。」


言うと、サラはニッコリと笑って一礼し、部屋を出て行った。

窓の外に目をやる。

美しい夕暮れは、まだ続いていた。

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