父と息子とシエーナ。
会議が終わり、夕食になった。
広いテーブルについているのは、俺とシエーナ、エルロンドだ。
久々に会った我が子は、また背が伸びたようだ。
夕食のメニューは、大人と子供で違っていた。
俺とシエーナは、ライ麦パン、こてこてのソースがかかったステーキ、キャベツのような野菜で数種類の根菜を包んだ冷菜、水菜っぽい野菜のサラダ、鶏と玉ねぎのスープ、デザートに蜂蜜をかけたスコーン。
エルロンドは、ライ麦パン、川魚のソテー、温野菜、野菜ポタージュ、デザートは凍らせたフルーツ。
侯爵家の食事にしてはかなり質素だが、抑えに抑えてまだこれだった。
三年前は、これに一品か二品は多く、もっと手のこんだ料理が並んでいたが、食いにくい上にそこまで美味くない。
ならいっそ、シンプルにしてくれ、と今の形に収まったのだ。
「父上。」
デザートの甘ったるいぼそぼそした物体と格闘していると、エルロンドが話しかけてきた。
飯を食いながら喋らせない。
これは、俺がエルロンドに徹底させている事の一つだ。
シエーナも、それは知っているので、三人揃っての食事は基本的に無言だ。
時折、話す時はフォークとナイフを置いてから話す。
「なんだ。エルロンド。」
「発掘の話を聞かせて下さい。」
多分、発掘の意味などまだわかっていないだろうが、俺が屋敷にいない理由として、大人達に教えられたのだろう。
「そうだなぁ。」
使用人がコーヒーを運んで来てくれた。
口をつけると、コーヒーのコクが残っていた甘みを消してくれる。
透明感とキレの良いブレンドを求め、豆もオーガスタ神から良いモノを融通してもらってかなり完成度が高い。
これぐらいの贅沢は許されても良いだろう。
コーヒーを楽しみながら、どんな話しを聞かせようか、思考を巡らせた。
エルロンドは、キラキラと目を輝かせている。
自分も、こういった冒険談に憧れた時があったような気がする。
ふと、エルロンドの向かいに目を移すと、そこには何故か目を輝かせているシエーナがいた。
お前の頭は三歳児と同レベルなのか。
いや、外に出る事がほとんどないので、そういった話しに飢えているのは、わからん事もない。
だが、身を乗り出すのはやり過ぎだ。
「難しい事が多かったが、その分、見えてきたモノも大きかったよ。」
森の中に、ポツンと放置されていた神殿。
だが、その周りには明らかに多くの人間が暮らしていた。
柱が並立する大通り、その両側に建つ大きな建物、未だ明らかになっていない神殿の全貌、周辺にあった墳墓、その中に納められていた財宝、飛び出してきたスケルトン、そんな話しを聞かせてやった。
「私も、いってみたいです。」
エルロンドは、何度もそう言った。
三歳児にして、一人称は私である。
フィリップや家庭教師、乳母、その他もろもろは、我が子にはしっかりとした、貴族としての教育を施しているようだ。
「もっと大きくならないとな。それに、勉強もしないと、楽しみが半分になる。」
「どうして、半分になるんですか?」
「それがなんなのか、わからないからだ。勉強をすれば、わかる事が増える。わからない事が、なくなる訳じゃないがな。」
言っても、エルロンドにはわからないだろう。
ただ、俺がきちんと説明しようとした事を察する聡明さが、エルロンドにはある。
我儘を言うことがないわけではない。
だが、蔑ろにせず、きちんと言葉を尽くせば理解はできなくても納得はする。
「私が、旦那様と御一緒するのは、無理でしょうか?」
あ、このやろ。便乗しやがったな。
「俺はかまわないが、フィリップが良いと言えば、だな。しばらくは、発掘の方には手が回らないから、領地の視察ぐらいだろうが。」
「それでもかまいません。今夜にでも、聞いてみます。」
言ってから、シエーナは顔を赤らめて俯いた。
この言ってしまってから恥ずかしがる癖が中々抜けない。
この自分に自信がない態度も、俺の神経に触れてくる。
「私は、いつ連れて行ってくれるのですか?」
焦ったようにエルロンドが早口で言った。
シエーナが良いなら自分も、と考えさせるあたり、二人の関係は悪くはないのだろうが、対等に近い意識を感じる。
「まだまだ先だな。だが、必ず連れて行くよ。」
「早く、行きたいです。」
「マルガンダを周るぐらいの視察なら、今度連れて行ってやるから、他のところは我慢しなさい。」
現金なモノで、それでエルロンドは満足気に笑った。
笑顔は、やはりエリーゼにそっくりだ。
コーヒーに口をつける。
ぬるくなっていたが、それはそれで良い。
美味いとは思わないが、嫌いではない。
こんなものでも、贅沢だど思ってしまい、残す事が出来ない。
俺がそうなので、エルロンドもシエーナも出されたものを残す事はしない。
スコーンを胃袋に流し込んで、俺は席を立った。
シエーナはともかく、エルロンドとの視察は俺も楽しみだ。
親子として過ごす時間が、前世からすればかなり少ない。
表情には出さなかった。
理由はないが、死んだ親父の気持ちがちょっとわかった気がした。




