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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
三章 〜心と領地〜
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花の絨毯。

それからの道中も、結局は様々なものが気になり、しばしばシエーナと護衛達が足を止める羽目になった。


村人の表情はどうか、希少な作物の具合、井戸の位置、区画の仕切り方、途中からシエーナはただ苦笑するだけで、何も言わない。


「そろそろ、見えて参ります。」


村の端、入った側とは反対側を北に向かっている。。

坂道をもう十数分歩いていた。

先導の兵士は、うんざりしているだろうに、表情1つ変えない。

シエーナはやや疲れたような顔をしている。


「疲れたか?」


隣を歩くシエーナに尋ねると、彼女は微笑んで首を横に振った。


「あっ。」


「ん?」


声につられて、前に目をやると坂の向こう側に花畑の端が見えた。

窪地になっているのか、遠くに見える丘の頂上は一面真っ赤だ。

シエーナが小走りで先導の兵士を追い抜いていく。

慌てて追いかけるような事はしない。


坂の頂上で、シエーナが立ち止まる。


「どうだ?」


「とっても、すごい綺麗。」


ゆっくりと、シエーナの背中に近づきながら、声をかけ、隣に並ぶ。


眼下に、様々な色が広がっていた。

四方形に区切られた花畑が、丘に丸く囲まれた窪地に密集しているのだ。

そして、丘の頂上付近には赤の花が帯のようにぐるりと植えられている。

かなり広い。

所々で花吹雪が舞っている。

反対側の花を見分ける事はできず、色とりどりの絨毯を敷き詰めたようだった。


「サルムート様ご自慢の花畑です。ここだけは、これからもずっとこのまま残すとおっしゃってますよ。」


先導の兵士も自慢気だった。

この花畑は、美しいだけではない。

鑑賞用の花もあるが、薬の原料や香料になったり、蜜が希少であったりするものが大半だ。

小さな町1つの約半年分の利益を、この畑は毎月生み出す。

サルムートがこの辺りを自らの足で歩き回り、見つけた土地だった。


「中に休憩所がございます。サルムート様も、そこでお待ちです。」


惚けたように立ち尽くしているシエーナに、兵士が声をかけた。

思い出したように、シエーナが歩を進める。

地面には、踏み固められた道の他には花しかない。

複雑に入り混じった香りが、はっきりと感じられる。


頂上付近に帯状に植えられた赤の花は、かなり強力な魔物避けらしい。

薔薇によく似た花だ。

棘があるが、それよりも魔物が嫌がる匂いがするらしい。

各地の村で育てられれば良いのだが、土地の条件や世話にコツがあるらしく、花を咲かせるのが難しい品種らしい。


他にも、これはあれの原料になる、あれはどこどこで人気の蜜を産む、などと兵士から説明を聞きながら、窪地の底に向かって歩いていく。

シエーナは、頻りにすごい、すごい、と言いながら楽しそうにしていた。

上から見た景色も素晴らしいが、降りていく従って、花畑はまた表情を変えた。

元庭師らしい仕事ぶりだ。

窪地の斜面も、いくらか調整したのだろう。

どの色も、見えなくなる事はなく、そして見苦しくなる事はなかった。


「アル、川がある。すごい。」


言って、シエーナが駆け出した。

敷き詰められた花の下に、幾筋もの水路が掘られている。

道の地中を跨いで反対側にも流れていた。

特に、豊富な水が必要な品種なのだろう。

地面を這うように咲いた、白い大きな花だった。


「こっち。見てみて。」


シエーナが指差す下流に目をやると、反対側は背が膝ほどの、淡い桃色の小さな花だ。

こちら側では水路はまとめられ、一本だけしか見えない。

舞い落ちた花びらで、様々な色にに染まった川の中で、白い大きな花が流れていく。


「すごいね。」


お前、さっきからそればっかりだな。

我が妻ながら、語彙力の乏しさに、少し呆れた。

感動し過ぎて、言葉が出てこないのかもしれないが。


「サルムートが自慢するだけはある。」


言うと、シエーナは何度も首を縦に振った。

兵士達は満足気な笑みを浮かべている。

流れていく白い花から、目を離せない。

懐かしいような、そんな感覚が湧き上がる。


再び歩き出したのは、流れていった花が見えなくなって、随分経ってからだった。

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