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第2話 「子離れしてください」

新しい環境と、少しばかり変わった家族の紹介です。

 三上悠あらためベルドルド・クリストファー・イスフェルトが僕の新しい名前になって5年の月日が経過した。悪魔の怒りを買い転生させられたこの身体はやはりと言うべきか、健康というには少々病弱で一週間に一度は体調を崩し寝込んでしまう。

 家族……主に僕を生んでくれた若い母はそのことを大層心配し心を痛め、あれこれと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる、それは申し訳ないくらい嬉しいことだしありがたいことなのだが……。


 日が沈んで久しく、夜の帳が下りた深夜。

 僕は病弱な5歳児らしく早々に寝台に入り、無駄に広い領主寝室を占領する広々とした寝台で一人静寂を楽しみながら足を曲げ伸ばししていた。

 死ぬ前の重く生命力の枯れた体とは大違いで、幼く活力に満ちた身体は多少病弱とはいえ新鮮な感覚を脳に送り込んでくれる。

 寒々とした広い部屋に、小さな身体に比して巨大すぎる寝台。

 ろうそく代をケチって暗闇に包まれた室内に幼児が一人というのは本来なら寂しさに押しつぶされることだろう。しかし僕は精神年齢でいえば合計27年は生きていることになる、日中は諸所の事情で一人にしてもらえないことから寝る前の一人時間は僕にとってむしろ貴重な時間だったのだ。


 ところで、物事の貴重さはそれがいかに希少かによって変動すると思う。

 僕の寝る前のひとり時間は“とても”希少だ。なぜかって?それは……。


「……う~、寒い寒い。ようやくベッドに入れるわぁ。」


 領主寝室のドアがノックもされずに徐に開かれ、隙間から一人の女性が入ってきた。

 母、ミリア・エドラ・イスフェルトは御年19歳。つまり14歳のころに僕を生んだことになる。

 近隣でも評判の器量良しだった彼女を先代のイスフェルト伯が熱烈アタックの末にゲットしたのだが、その美しさは今でも健在。ネグリジェ姿の彼女がチャコールの髪を揺らしながら寒さに頬を赤く染める姿は可憐と言っても良い。


「……。」


「うふふ……もう寝ちゃったみたいね。」


 僕はドアが開いた瞬間慌てて目を閉じて眠ったふりをしていた。

 昨日も熱を出した僕がこの時間に起きているのを見られるのはいろいろとマズイ。

 蝋燭の明りが瞼を刺激する、ゆらゆらと動き、やがて衣擦れの音。寝間着に着替えた彼女がこちらに歩み寄ってくる気配がする。


「……。」


「あーもう!かわいいッ!たべちゃいたいッ!」




 一応起こさないよう気をつけてくれたのだろう、そっと布団をめくるや隣に潜り込む気配。


「……! ……っ。」


 次の瞬間、徐に彼女がこちらに抱きついてきた。体温が身体を包む。

 そっと腕を回して頬摺りをしてくるのだが、鼻腔をくすぐる蜂蜜のような芳香、肌に触れる柔らかな髪の毛の感触はなかなかに心地よい――…ただし、血の繋がった親子でなければだが。


 僕の中身は27歳になる男だ、正直自分より年下の少女を母親と思うことは難しいし、手を出すことは肉親的にも身体的にもあり得ないとはいえこの状態は生殺しだ。一日の大半を病院で過ごした男に女性に対する免疫などあろうはずもなく、これではとても眠れない。生殺しどころかむしろ死んでしまう!


 僕は昔好きだった大河ドラマの某軍師のように心の中で「迷惑!」と唱えながら必死で揺れる鼓動を沈めていたのだが。




「……はふぅ。――…スー、スー。」



 

 息子を抱きしめ安心したのか。極寒の地とはいえ人の入った寝台の中は暖かく、抱きしめるや満足のため息を吐いたミリアは身体の力を抜いてやがて規則正しい寝息を立て始める。

 

 この間せいぜい10秒、すばらしい寝つきの良さである。

 少し待ってゆっくりと目を開ければ至近距離に彼女のあどけない寝顔、こちらの気苦労など知らず眠りこける姿に苦笑が浮かぶ。こんなに幸せそうな寝顔をされては怒る気も起きない。

 

 まったく羨ましいものだと思いながら寝返りを打ちミリアの寝顔を眺める。

 長い睫毛がぴくぴくと動き、緩んだ顔でなにやら寝言を呟く姿は母親というよりむしろこちらが保護者のような気がしてきてしまう。

 西洋人種にしては小顔で鼻も低く、綺麗というよりは可愛い感じの少女だが、これで凄まじい人生の荒波を潜り抜けてきたりしているのがこの世界の恐ろしさだ。


 息子だからだろうか。

 あるいは前世から含めれば年下だからだろうか、自然と自分が守らなければという情がわいてくる。

 彼女が経験した苦労、その人生の殆どを僕はまだ知らないが、侍女の話から知ったのは結婚に関する逸話だ。


 父、先代イスフェルト伯の求愛とは熱烈アタックといえば聞こえは良いが実態は実力行使による略奪に近かったという。舞踏会で見初めた彼女を嫁がせるよう要求、母の父はとある敵対派閥の豪族に仕える騎士でこれを断固として拒否、豪族に援軍を求めて城に立てこもる。

 イスフェルト伯は領内騎士に号令をかけ軍を編成、野戦にて豪族軍を打ち破り、3日3晩城を攻め立て根をあげたミリアの父が降伏し娘を差し出したのだという。


 ……どう考えても略奪です、本当にありがとうございました。

 とはいえ、この野蛮で貧しい北方地域ではごく当たり前の光景だったりするそうだ。

 その後、戦死するまでなんだかんだで母を愛し、大切にして相思相愛の夫婦関係を築いた父はこの世界では比較的善良な方だったのだろう。中には奪った女性を奴隷のごとく扱う君主も居るそうだから。


「むにゃむにゃ……、がぶー。」


 ……まぁ、この目の前で僕が身動きとれないほどガッシリ腕でホールドし、食べ物の夢でも見ているのだろうか、僕の頭をガジガジ齧る女性がとてもタフだったことも結婚生活が上手くいったことの大きな理由の一つではあるだろうが。


 さて、明日も早い。

 僕の生まれる前に父が戦死したおかげでイスフェルト伯爵号は生後間もない僕が継ぐことになった。

 父の弟、つまり僕の叔父が補佐という形式をとって政務を代行している。おかげで今はさほど役割も無いが、領内の様子も伝聞でしか知らない。


 聞く端々から想像するに相当酷い状況のようだけど……生まれた当日に農民蜂起が起こるくらいだし、いつかは僕が当主になるのだから今のうちから知っておかなければいけない。

 近いうちに外出の許可を貰わなくては、そう思いながら5歳児の身体は思考を放棄し、母親の腕の中、深い眠りに入るのだった。

両親の結婚の経緯。伯爵のアタックは文字通りアタックだったわけですね、攻勢的な意味で。さておき物語のテンポが難しいです、もっと出したい情報はたくさんあるのに……文字数だけが増えていくぅ。


それにしても、デザイン機能がよくわからなくて旧バージョンにしているのですがやはり新バージョンの方が見やすいのでしょうか。

文体も1人称に変えてドキドキ、アドバイス、要望、感想などありましたらぜひよろしくお願いいたします。

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