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03

*転生物です。苦手な方はお控えください。

関が原駅についた。歴史的に有名な土地であろうに、意外と駅はちいさかった。

涼しかった電車をおりるのはためらわれたが、元の目的は電車のためではないのである。

古戦場に向かおう。

どう行けばいいのかわからないので、駅員に聞くことにした。

が、きいても要領をえない答えばかりで結局のところよくわからなかった。

これだから、思いつきで行動するのは困るのだ。下調べがあればこんなことにはならなかったはずである。

どうしようか、ここまで折角来たのに、帰るのは惜しい。かと言って、迷いたくはない。

「中学生がこんなところでなにしてるんですか?」

と、いきなり後ろから肩にポンと手が置かれた。

まずい。

警察だろうか。

「中学生じゃない」

腹をくくってふりかえるとそこにいたのはさきほど電車内で向かいに座っていた男だった。

その姿を見て、ほっと一息つく。よかった、警察じゃない。

「ほう?じゃあ社会人?」

「高校生。」

ぶっきらぼうにそう答えて、何で話しかけてきたのだろうと考える。

「学校は?」

しつこいな。ほっといてくれ。そう思いついついとがった声で

「あなたも仕事はどうしたんですか」

と言った。すると相手はにやりと笑い

「有休ですよ」

と一言。

大人はずるい。

「まあまあ、別に攻めてるわけじゃないんですよ?」

スタスタと歩き出そうとしたら、ついてきた。

「学校に連絡しませんよね?」

その言葉にくるりと振り向き確認をとる。

「ええ。俺が興味もったのはなんで高校生がこんなへんぴなところに学校休んでまで来るのかと思って」

「へんぴなところって?」

「古戦場、でしょう?」

さっき聞いてたじゃないですか。そう言って駅員のほうをさす。駅員はかるく居眠りをし始めていた。

「ついでに、道、わからないんでしょう?」

一緒にいきませんか、と言われとくに断る理由もなく男についていった。知らない人について行ってはいけない、などといういいつけを守らなくてはいけない年でもない。自分にとって安全かそうでないかぐらいの見分けはつく。

単純に、いい人だなあと思った。

「ところで、なんで古戦場に?」

暑い。蝉がうるさくないている。ここだけはまるで夏のようだった。

男の質問に少し首をあげ、顔を見る。いくつだろうか。たぶん老け顔だな、と思った。

「気分」

そう言うと男は、

「高校生が、古戦場に行きたい気分、ですか?」

と笑った。嫌味の無い、快活な笑い方だった。見ているこっちまですっとしてくるようだ。

「うるさいな、1人ぐらいいてもいいだろう」

年上に対して、敬語をつかえと仕込まれてきたことには仕込まれてきたのだが、今日はそんなに口うるさく言う奴もいない。それに、相手も気にしていないようである。

なら、いいか。

そう思い、敬語はなしにした。

男は笑い終え、ふと、そういえばといった。

「そういえば、名前聞いてませんでしたよね?」

「自分からいったらどうだ?」

もともとそっちから話しかけてきたのだし。そう言うと、迷って困っていたのはそっちでしょう、と気を悪くすることも無く軽くかわされた。

「石田だ」

下の名前まで言うこともないだろう。そう思い苗字だけを相手につげた。

そっちは?とかるくうながすと、

「何だと思います?」

と逆に問い返された。

そんなもの知るか、と見返すと男は笑い

「島です」

といった。

「島・・・さん、か」

「島でいいですよ、石田君」

さすがにさんをつけないのはいけないだろうとおもったのだが、さっきからべつに敬語も使ってないし気にするところじゃないでしょうと言われまあそうかなと思う。

「それならこっちも君は余計だ」

「おや、不快でしたか?」

「そういうわけじゃない。ただ---・・」

「じゃあ、いいでしょ。石田君」

上手く、まるめこまれてしまった。大人ってこんな感じにすぐ自分のいいほうに丸め込む。

「(でも、これはこいつの力かな?)」

大人が、じゃなくてこの目の前にいる男が上手いだけなのかもしれない。

きっと、そうだ。






「ここが西軍の陣屋跡ですね」

地図を広げ、島が言った。

ここが、か。

来て見れば、何も無い。たいしたこともない所。

何故自分はこんなところにやって来たいと思ったのだろう?

ただただ、疑問は広がるのみ。

「どうですか?」

「・・・どうですかって?」

「感想ですよ」

島の顔を見上げ、考えた。

「・・・何も無いな」

そう言うと、かれは苦笑し、そんなもんですよと言った。

ふと、おもいつく。

「そういえば、何故島はここに?」

自分は聞かれたが、彼にはきいてはいなかった。

島は微笑み、問うた。

「何故だと思います?」

「また、それか」

分からないことを聞く。それに苦笑した。

「おんなじようなもんです。気が向いた、といえばそうですが呼ばれた感じがしてね」

「呼ばれた?」

不思議なことを言う奴だ、そう思った。誰が呼ばれて、古戦場などへいくものか。

「知ってますか」

島が、何も無い古戦場を見まわした。

「何を?」

少し首をかしげる。

「今日はここで戦があった日なんですよ。西暦1600年9月15日関が原の戦い」

島の言葉に、驚いた。偶然か、それとも無意識下でそれを思ってしまっていたのか。

「驚いたでしょ?更にもうひとつあるんですよ」

島が、こっちを向いた。反射的に島を見る。彼の目いたずらっぽく光っていた。

「西軍大将の名前、知ってますか?」

「石田三成、だろう?」

小学校でも習う。覚えてるかどうかは別として。

島はそれをきき、満足気にうなずいた。

「さらにですね、その三成が大事にしていた家臣がいるんですよ」

「ふうん?」

「その人の名前が、島左近」

「島?」

島、といえば、今目の前にいる男も島という苗字じゃなかったか?

「石田三成と島左近が戦った古戦場で石田と島が会うって、すごい偶然じゃありませんか?」

偶然どころのさわぎではない。

誰かが、仕組んだのではないだろうか?

嫌でもそんな考えが頭をもたげる。

「お前、今年はじめてきたのか?」

「ええ。」

「呼ばれた気がするって言ってたよな?」

そう問いかけると、にこりと笑って

「もしかしたら、そうかもしれませんね」

と言った。

「・・・そうなれば、呼んだのは昔の武将か?」

少し冗談めかして言ったら、案の定かれも笑って、

「待ってたらまだ集まるかもしれませんよ?家臣が」

と。

しかしそうは思わなかった。来るのは、左近だけだ。いつも俺を一番助けてくれてたのは・・・

「ん?」

今、何を考えていた?

自分の考えに疑問を抱く。

「どうしました?」

「い、いや。なんでもない」

おかしい。あんな話をされたせいで、自分がはるか昔の戦国の武将の気にでもなっていたのだろうか。

笑えるな。小さな子供でもあるまいし、他人になりきるなどとは。

しかしそのわりにはあまりにも自然に頭にわきあがってきた考えだった。

暑さのせいかな?

そう言えば、日向にいたおかげで頭がすこしぼうっとした。

蝉は相変わらずうるさく鳴いている。

「向うのほうにも行ってみましょうか」

折角ですし、と島が歩き出した。

自分よりはるかに体格のよい彼は、きっとこの暑さなんてへでもないのであろう。

少し、うらやましい。





「島左近はもともとほかの家の牢人でしてね」

気がつけば、島が関が原のことについて話しはじめていた。

自分が知らない、と言ったからであろうか。

普段は頭にも入ろうとしない歴史の話が、すらすらと入ってきた。

「三成が高禄で召抱えたんですよ」

「まて、さっきさんざんほかの奴の高禄をけったと言ってたじゃないか」

と、質問まで入るほどである。

「左近はたぶん三成のなにかに共感したんじゃないんでしょうかね。気に入った、と言ったところでしょうか」

「ふうん」

「ま、三成はだいたいは嫌われ者だったんですがね」

「じゃあなんでその島左近は三成なんかきにいったんだろうな?」

「その人を十分に理解すればいいことじゃないんですかね?理解が足りないから、嫌ったりする、と思うんですがね、俺は」

「そうか」

よい主従だったのだろう。そう思った。

「戦場で島左近は鬼のようだった、そうですよ。関が原後、誰も左近の顔を恐ろしくて覚えていなかったんですって。」

「島左近は、死んだのか?」

「はい。関が原で鉄砲隊に撃たれて戦死しました。三成は捕らえられて処刑されたって話ですけど」

その後は、三成と左近のいろいろな逸話を話してくれた。

島は本当によく知っていて質問したらなんでも答えてくれた。

「本当、くわしいな」

「ま、職業なんで、ね」

「職業?」

「大学のセンセ」

さらっと答えられたその言葉にびっくりした。しかし、なるほど、それならうなずける。

「遊びに来てもいいですよ。ただ、会えるかどうかはわかりませんけど」

そう言って、大学の名前を教えてくれた。

遊びに行く気など、毛ほどにもなかったが。




彼との古戦場めぐりはすぐに過ぎていった。

気付けばもうそろそろ帰らなくてはいけない時間になっていた。

「今日は、有難うございました」

がたごととゆれる電車のなか、島に丁寧にお礼を言った。

「なにをあらたまって。いいですよ、別に」

ただ偶然いっしょの目的地だっただけでしたから。旅は道ずれって言うでしょ?

そう言った島の顔には夕日があたっていた。

1日、今日は長かったようで短かった。

来て良かった・・・・かな。

もう島とも会うことは無いだろう。だいたい、会うことの無いはずだったのだ。

朝あったばかりだけれど、もう昔からの知り合いのような感じだった。不思議な奴だ。

「さてと、俺は次です」

そう言って上着を着る。そうだった。こいつは自分より後に乗ってきたんだった。

もうすこし一緒にいられないのが、残念におもえた。

鈍行でも、こういうときだけ早い。次の駅はすぐにやってきた。

「じゃ」

そう言ったそれに軽くうなずく。

「今日は楽しかった。ありがとう」

まったく、下手な言葉だ。自分でもそう思ったがそんな言葉しか浮かばなかった。

島はにっこりと微笑み手を振った。

自分も手を振り返し、電車が動き出して、やがて見えなくなった。






「おや、石田君?」

「!島!!」

2005年、9月15日、鈍行の中。

「どうして、また」

二人はまた同じ道をたどった



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