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02

*転生物です。苦手な方はお控えください。

何個か駅を通りすぎて自分が眠っていたことに気がついた。

目的の駅をとおりすぎてはいないか、急いでキョロキョロと見まわすも、分かるはずが無い。

と、一人の男の存在が目にとまった。自分と向いの席に座っている。

さっきまではいなかったのに。自分が寝ている間に入ってきたのだろうか。

しかし、なんでわざわざ向いに座っているのだろうか。三両編成のこの列車、座るところは腐るほどある。

同じ車両に座るとしても、なぜ向かいに座ったのか。

すこし居心地の悪さを感じ、しかしここを今更移動するのも変だと思ったので少しのことは我慢することにした。

男はおそらく社会人であろうが、とてもいまから仕事に行くような格好ではなかった。

どちらかと言えば、休日向きの格好である。

「(いまから出勤だとしたら、上のほうか)」

おちつきを持ったその態度からは、会社の重役にみえなくもない。

と。

さりげなく観察していたつもりが、ばっちりと視線があってしまった。

まずいと思い反射的に目をそらす。

やはり、相手を観察するのはよしたほうがよかったのか。さきほどよりさらに居心地が悪くなるのを感じた。

電車が、駅に止まった。ドアが今にも壊れるんじゃないかとさえ思うような動きで開いた。

外の熱気が車両に入り込んでくる。遮断されていたせみの声は、朝のものより元気になった気がした。






「いよいよですね」

「うむ」

翌朝。西暦1600年9月15日、関が原の戦いの日である。

朝から霧が晴れず視界が利かない日だった。

「殿、もし、の話ですが」

左近がまえまえから聞きたかったことである。

しかし、三成はその続きをゆるさず、

「もし、は無しだ。意味も無い憶測は無駄だ」

布陣は完璧すぎるほど。勝つ要素は大きい。

しかし、戦の相手、徳川家康はそれでも堂々と布陣している。

危ない賭けは、しないはずの老人であった。なにか、策があるとしか思えない。

その策が、思い当たってはいる。思い当たっているだけに負けるかもしれないという気持ちがどうしてもせりあがってきた。





戦が、始まった。

「左近、持ち場へ行け」

最後までそばにいてくれたが、やむをえない。

「殿」

「なんだ」

「もし、ですよ」

左近の言葉に三成が首をあげ、あきれた風に見上げた。

「またか」

さきほど意味も無い憶測は無駄といったばかりなのに、もうそれをしている。

「聞いてください」

しかし、左近も引かない。もしかしたら、一生もうあえないかもしれないのである。左近はこの戦で死ぬつもりであった。

左近の真剣な面持ちに光成も言葉を許す。

「きこう」

「ありがとうございます。ずっと考えていたことなのですが、もし―――・・・」

「伝令!」

と、突然兵が飛び込んできた。自体ははやくも切迫しているようである。

伝令兵の話をきき、三成はすばやく指示をだした。横で見ていた左近はこんな事をしている場合ではないと思い自らの武器を持って駆出そうとした。

もし泰平の世であったならば、自分たちは会っていただろうか。はたまた、こんなに親しき間柄になっていただろうか。

左近がいつからかずっと思いつづけていた事であった。聞こう聞こうと思いつつも戯言だと、きり返されるのがおちであろうからと、冗談でもいい、ちゃんと答えをかえしてくれる機会をうかがっていた。

今、聞こうと思っていたのだが、どうやら自分には機会は回ってこないようである。

しょうがない。もともと三成の言うとおり、たいした意味も無い無駄な憶測にすぎないのだから。

「左近!」

小走りに駆出した左近の背に、三成の声が飛んだ。左近は、振り向かない。そんな余裕など、この戦場には無いのだ。


「泰平の世であっても、左近は左近であって、俺は俺だからな!」


駆出した足が、止まりそうになった。

三成の言った言葉が信じられずに、もう1回と言いたくなる。

しかし意思とは反対に、足は戦場へ一刻も早くたどりつかんと止まろうとはしなかった。









午後2時。

西軍は敗走した。

西軍内の裏切りと主力戦力の喪失のためである。

左近は戦中に死に、三成はとらえられ後日京都の六条河原で斬殺された。











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