しゃれこうべ系女子のウタコです
歌う骸骨から思いついたゆるふわ一人称小話です。
お暇つぶしにでもどうぞ。
どうも。良いお日柄ですね。
うら寂しく草を撫でる風が吹いて、太陽を暗雲が覆う。そんなお日和です。
申し遅れました。私、しゃれこうべです。
なーんて調子のいい挨拶が浮かんだところで、誰もいない。
今の私は、野晒しというやつだ。
ない手足の代わりに風で手招く萎れた尾花、ああ、異世界枯れススキ。
おっと、なんだかいいフレーズ。パッと浮かんじゃった。私って詩の才能があるのかもしれない。まあ、披露する相手なんていないんですけどね。
暇だから、誰かに語りかける体でこれまでを回想してみようかな。
とある日。
現代日本から気づいたらここにいた。
生憎、領土争いをするような荒っぽいファンタジー世界だったようで、平和ボケした私はホイホイ親切にしてくれたとあるお嬢さんに付き従い生きてきた。
ところがどっこい。そのお嬢さんは、とんでもない悪女。
麻薬密造、人身売買、犯罪網構築と悪事のオンパレード。
可愛らしいとは無縁の、それはもう恐ろしい人間だった。そこそこ安全圏と思ってた私でさえ、首チョンパの上に頭蓋骨を溶かした貴金属で特殊コーティングされたからね。
なんでも異界の人間である私なら、未知の呪い道具になるのではとかなんとか。この世界でも魔法なんて眉唾なのにね。
ただ、幸か不幸か異世界加護か。
なんでかはわからないけれど、地縛霊みたいな感じで頭蓋骨に私の意識は残り続けてしまった。なので、その後の悪事もばっちり見ていましたとも。
人の形をした悪魔かなと思ったけど、そんな悪女も凶刃には負けたので人間だったらしい。
あ、私の右後方に倒れているっぽく見える人骨がそう。もうほとんど骨らしい形はないけれど。
あの悪女、私を盾に逃げようとしたんですよ。けれど暗殺者が、そりゃもうえらい凄腕で。気持ちいいくらいすっぱりと葬り去ってくれたんです。本っ当にいい仕事をしてくれた。
以来、悪女の遺体が白骨化して風化するくらいまで、私はここに放置されているのでした。
そんなことあるかってなるでしょう。なったからこうなっているんですよ。
どうしてこうなったかは、すでに私が何度も思っているので突っ込まないでほしい。
いや、むしろ突っ込んでほしいかも。だって誰もいないから。
私を壊そうとする異形じみた異世界チックな獣も寄ってこれない土地なもんで、何年もぽつねんといるというわけなのです。
はい、回想終わり。長くなっちゃったね。まあ、主演私視聴者私だからいいけどね。
ああ暇だなあ。
風が吹いているから、遊ぶことはできるかもしれない。よし、次は歌ってみよう。
この風が特殊コーティングされた頭蓋骨を通り抜けると、ちょうど歌声のように音が鳴るのである。うまいぐあいに気合で通る音色を変えるくらいはできる。
「ひゅーう、ひゅうるー。ひろっておくれーえ」
切実な気持ちが音に乗る。うんうん、節だって良い感じだ。物悲しさがグッド。
「悪女ーゆーぅるすまじー、死後も苦しめーえ」
恨み節も絶好調。これは吟遊詩人だって涙を流すね。
「ひゅーう、ひゅうるー。つれてーいぃってえー。宝はこーこー」
伴奏は虫と鳥の鳴き声。オーケストラには物足りないけど賑やかさは抜群。
それを繰り返すことしばらく。
いつもなら、まあ誰も来ないよねえと自分を慰めるところだけど、今日は違った。
明らかに草を踏む音がした。
耳もない頭蓋骨だけど、視覚聴覚嗅覚はばっちりある。これも異世界転移保護かわからないけれど、あるったらあるのだ。
それに、元々お気楽な私の精神にも加護か保護がかかっていると思う。この状況でさえも正気保ってるからね。
さく、さく。
おっと。また、草を踏む音。
ためらいがちに、若い草の根を靴で踏んでいる。足取りが重いのはこの場の空気に当てられているからかもしれない。
ずいぶん怖がりらしい。風で揺れる尾花に息を呑んでいるのも聞こえた。
血も涙もない荒くれなら、こんな声はそう漏らすまい。きっとそう。
ならば、拾われチャンス到来だ。
私は哀れっぽくもう一度歌ってみることにした。ちょうど風も吹いている。
「ひゅーう、ひゅうるー。ひろっておくれーえ」
「だ、誰?」
おやおや、可愛らしい声だぞ。
怯えたか細い声の女の子だ。こんなところにどうして。
良い感じにまた風が吹いたので、「こーこー。こーこでーすうー」と歌う。
すると、近くに寄ってきたのでその全容を拝めることができた。
「うう、声がするよお」
素朴で地味な生成りの服。いかにもな村娘のワンピースを着て、ススキと同じ色の髪をお団子にしてまとめている。
でも、それをもってしても素材が良すぎる。白い肌に桜色のほっぺ。恐怖をこらえる表情すらも愛らしい。
年のころは多分十六くらいと見た。
「アスマーザ様、どうかどうかお庭に入ることをお許しください」
村娘ちゃんはそんなことを両手を拝むみたいに組んで言う。
確かにここは悪女の秘密の裏庭だ。やばい草木がわんさかあるとんでもない土地。誰も知らない秘境らしいとはいえ、よく燃やされなかったなと今でも思うもの。
「の、呪うなら私を。ハチカをお呪いください。ですが、どうか一株でよいのです。銀弦草を分けてください」
これはあれか? 悪女が悪女過ぎて下手に触れたら祟られるとかそういう噂がやっぱり立ったのか?
私が考えている間も、村娘のハチカちゃんは震えながらあたりを見回していた。どうやらその銀弦草とやらを必死で探しているようだ。
そして怖さを誤魔化すために、必死に自分を励ましている。
「銀弦草さえあれば、エストアは助かる。頑張らなきゃ。エストア、待っててね」
銀弦草。なんだその草。
いや、待って。悪女が植えてた悪趣味な草の一つかも。この庭のやつ、大体毒草か麻薬だけどな。ハチカちゃん、大丈夫かな。
何やら訳ありのご様子だ。
それにつけても、あの悪女とは似ても似つかぬ純朴さ。それだけで、私の中ですでに好印象。そのエストアとやらを助けるために危険地帯に来ているので、さらにどーんと加点しちゃう。
何より、久方ぶりの他人。交流しない手はない。
良い感じの風よ、早く吹いてくれないかなあ。
「立派な格好の薬師様が仰るのだもの……きっとある。あるわ。はあ、銀色に輝くのは、どれだろう」
わお、それ怪しーい!
これでも悪女の傍で召使やってたからね。この世界の毒に詳しくなったし、悪どい奴の雰囲気は勘でわかっちゃうぞ!
焦りは注意の散漫さに繋がる。事実ハチカちゃんの不用心さはさらに増していた。
ああ、そこの花は手で触ると爛れちゃう。しなやかお手てがパンパンに腫れあがるのはよくない。
風よ吹けと祈っていたら、その手が触れる前にようやく吹いた。
「まーってー。さーわるとー危険ーんんー」
「えっ」
ぱっとハチカちゃんの手が毒花から遠のいた。よしよし。
「アスマーザ様、ですか?」
「いーっしょにーするーなーぁあ」
「ひい、ごめんなさいっ」
そこでようやくハチカちゃんは私に気づいた。
あたりに草が生えてても、私の飴色に輝く骨は目立つもんね。ちょうど日が照ってきたし、よく見えることでしょう。
ただ、自由に話せないのが難点。風が吹いている間に話さないと。
「ひゅうー、なあぜ、ここにーい」
両手を口に当てて驚くハチカちゃんは、私の前にやってくると屈んで言った。意を決した赤茶の瞳としっかり合う。
「私の幼馴染、エストアがひどい怪我を負ったのです」
「続ぅけーてー」
「は、はいっ。なのにエストアは、私をすごく心配してくれて。私なんかを庇ったせいなのに……! 怪我がなくてよかった、無事でよかったって」
「そーれでーえ」
「エストアが無事でないなら良くないんです! 私、私っ、エストアがいなくなるなんて嫌! 耐えられない!」
ぱあっと浄化された気がした。
いい具合にお日様の後光をしょったハチカちゃんはさながら聖女のようだった。
悪女の真逆。清らかの権化。
幼馴染のおそらく男の子なエストアくんとやらを思って、不安を押し殺してやってきたというのね。そこにあるのは感謝と恩返し、それ以上に大切なものを失うまいとする心。
そう、そうだった。愛って、恋って、こんなに輝いて素敵だった。
あっ、駄目、眩しっ。
「エストアに、元気になってほしい。私はどうなったっていいんです!」
「ほーう、ほほーう」
「町で評判だという薬師様が来て、ここの銀弦草を取って来れば救えるって。地図をいただいたんです」
「ちずー?」
「はい。あの、銀で出来た見事な蔓草で、人の背丈ほどの茎があるそうです……ご存知でしょうか」
「あかーーーん」
思わず頭から突き出るような高らかなダメだしが出ちゃったわ。
その銀弦草とやら、あの生贄草だよ。悪女お気に入りのヤバ草だよ。
人に植えて生き血を啜るとぴっかぴかに輝く、とってもお高く売れるやつ。依存性が高い麻薬だったはず。うわっ、「人ひとりでこれほどの価値になれるのだから幸せよねえ」と嘲笑うあの声が頭に。しっしっ。
「で、ですが、どうしてもエストアを助けるためにはっ」
「いーい薬ー。あるーよ、あるー。私をーおおーつれてーってー」
良い感じの風、ありがとう。長文を歌うと、ハチカちゃんは戸惑うように「でも」を繰り返した。
ええい、こうなったら誇張してでも目的を逸らさなければ。
「私ぃ、こーそー、悪女の宝ー。知識ー豊富よー」
「では、どうすれば」
「まーかせてー。持ってーえ」
素直なハチカちゃんは、私を言われるがまま抱えた。なかなか度胸あるねえ。物言うしゃれこうべに従うなんて。よっぽど切羽つまっていて、藁にも縋る気持ちなんだろうね。
私が救わねば……!
風任せで口ずさみながら、悪女の秘密のお庭のなかでも希少な金蜜花を教えてあげた。
あの悪女もよく毒を差し向けられてたからね。解毒に体調回復の万能薬みたいな貴重なお花も植えていると思い出してよかった。
やっと善行できて、あの世の悪女も報われることでしょう。まあ、輪廻があるかはしらないし絶対喜ばないから私なりの皮肉である。ざまーあ!
そんなこんなで、私を荷物袋に隠して、ハチカちゃんは金蜜花を手に急いで戻っていった。胡散臭い余所者の薬師に頼らなくても自分の手で救えるなら、そうなるよね。
約束だからと銀弦草も持っていこうとしたけど、そこは私が阻止した。
いざとなったらこの歌うしゃれこうべ、名付けてウタコお姉さんに任せよと歌って説得したのだ。
しばらく歩くと、村に到着したらしい。
粗末な荷物袋の生地って所々目が荒いから透けて見えちゃうのよね。
ハチカちゃんは迷いなく、簡素な家の一つに進んだ。なるほど、そこがエストアくんのお家ね。
「エストア、戻ったよ」
そう言いながら、荷物袋から私を出して置く。これは背の高い机かな? うんうん、部屋が見渡せるいい位置だね。
ハチカちゃんはベッドへ寄り添うようについた。心配そうにベッドの住人となっているエストアくんを見ている。アッシュブラウンの髪に精悍そうな顔つきの少年だ。
そして。おお、これは重傷。
肩から腹くらいまで巻かれた包帯。血も滲んでて、まあひどい。
「ハチカ……? 帰ってきたのか」
「うん、うん! 帰ってきたよ」
「そ、か。危ないとこ、いくなよ……今、俺、庇えないからさ」
エストアくんは力無く笑う。でも、悲壮感はなくて、むしろハチカちゃんを思いやる気持ちを感じる。そしてハチカちゃんが声を詰まらせていたら、その頬を震える手で撫でている。
あー、ああー、これーえ! 互いを思いやる気持ちー!
私、この世界にやってきてから一番癒されてるかも。見えない心臓がときめいちゃう。
「おお、ハチカ! 戻ってきたか!」
しかしそんな心癒され空間を壊す輩がきたみたいだ。
一見優しそうな低音。どれどれ。
古板の床を鳴らして無遠慮にやってきたのは着込んだ男。薬師っぽい格好で、皺が柔和そうな印象の顔。
んー? んんー?
どこかで見たことあるなあ。私がそう思うなら、間違いなく悪女関係者だぞ。
薬師の男は親し気にハチカちゃんに近づいて、肩に手をやった。
「どれ。銀弦草はあったかね? アスマーザの秘庭に行けたか?」
「薬師様……はい、どうにかお庭には。でもそのう、銀弦草はなくて。代わりに」
ハチカちゃんはそう言うと、私に顔を向けた。うんうん、教えた通りの動きだ。
薬師に銀弦草のことを聞かれたら、思わせぶりに私を見ろと伝えたのである。悪女の裏庭を知っていて地図も持っているなら、大体悪い奴の可能性が高い。
それなら、悪女を知っているはずだし、悪女愛用アイテムのしゃれこうべな私だって知っているはず。
「……骸骨? こ、これは」
ほーらほらほら! 案の定目の色変えた!
私を知ってるねえ! 高笑い出そう。
「ウタコの髑髏! おお、本当にあるとは……!」
そう言いながら、薬師の男は私を丁重に掴んだ。
「銀弦草なんて目じゃない。これだけでも相当な……」
「薬師様?」
「い、いや。なんでもない。銀弦草がなかったのなら仕方ない。私の考案した薬は与えられぬが、そうさな、かわりの薬をやろう」
おいちょっと、胡散臭い手つきで撫でるんじゃない。カチカチとコーティングを確かめるように鳴らすな。
私の貴金属コーティングってとんでもない鉱石や宝石溶かしてるから、削るだけでもすごい財産になっちゃうのよね。まあ、削れたら、だけど。
それはそうとして、ハチカちゃんの労わりタッチを見習え。
「この髑髏はきっと、あの悪女アスマーザにやられた被害者の躯だろう。憐れな被害者を弔うのは私がしよう」
「被害者ですか。それなら村のお墓に」
「いやいや、ハチカ、いいかい? これでも私は呪い祓いの心得もある。弔いはわかる者がしたほうがよかろう」
そんな心得、この世界にあるんだ。初耳。
そして薬師の男は言うが早いか、私を抱えて移動し始めた。おざなりに懐から薬の包みらしきものをハチカちゃんに押し付けて家を出て行く。
後ろから「ウタコさん」と躊躇うようなハチカちゃんの声と、エストアくんの呻きが追ってくる。
ああ、治療やお世話の場面が見られないのが悔やまれる。でも、この幸せ空間を守らねばならない。この男は任せておくれ。
薬師の男は着ていたローブに私を隠して、興奮冷めやらぬ様子で独り言をこぼした。
「これさえあれば……いや、この髑髏から他の根の種を。風を送ると話すのだったな」
おお、私の使い方を知ってらっしゃる。さては悪女と割と交友があった奴だな。商談の常連かな。
となると、なんとなく覚えがある。悪女が「善人面がうまい」とこき使ってた小物かな。
「アスマーザめが下手を打たねば、俺もこんなことには」
なるほどねえ。
悪女が死んで凋落したから、地方各地で荒稼ぎしようと踏んだのか。悪女の遺産みたいな麻薬や毒薬ってお金になるもんね。私を含めて、お宝だわ。
じゃあ、容赦する必要ってないねえ!
「髑髏よ、アスマーザの秘薬はどこだ」
吹く風が当たるように、薬師が私を掲げた。
私はもったいぶって、歌った。
「ひゅーう。ひゅうるー。にーしぃ」
「西だな」
それから、聞かれるたびに丁寧に方角と進む歩数まで教えてあげた。
東西南北、はいそこでぐるぐる。
儀式めいた順番に、薬師はすっかり私の言うことに夢中になっていた。
「下ーにぃ、下にい」
「おお、ここか!」
私を放って薬師の男は地面下の草地を掻き分け始めた。
「痛……くそ、棘がある。悪女め、死んでなお嫌がらせの性根は変わらん」
同感です。
ただ、そこに秘薬なんてない。秘薬はとっくのとうに、ハチカちゃんに渡した。金蜜花がそうだ。
だから、そこにあるのは。
「ん?」
薬師の男が不意に手を上げた。
ああ、早速。さすがヤバ草。もう入っちゃった。傷口から根がお目見え。
「銀、弦草……?」
そうです。人の傷口から入りこみ、ぴかぴか光る悪趣味麻薬草です。
吹く風に合わせて、私は思いっきり悪女の物まねをしてせせら嗤ってやった。
「ひゅーっほほほ! ほーほほほー!」
「あ、アスマーザァ!!」
半狂乱になって傷口を薬師が掻きむしっている。
残念、ざーんねん。
風がやむまで思う存分、明るく見送ってあげる。奇しくも悪女の骨の位置で薬師はつまづき転んで、骨を蹴っ飛ばした。
そうして、私を置いて必死で走り去った。走れ走れ、去っていけ。運が良ければ助かるかもよ。
「ほほほほー」
さみしく流れた風が止んで、私の声もぴたりと収まる。
さてさて。
これでまた静かな生活に戻るのだろう。曰く付きのしゃれこうべが番をする悪女の庭なんてホラースポット、真っ当な人は好んで近づくことはない。
その私の予想は当然のように当たった。
一日が経ち、二日、三日は経った。うーん、いつも通りの寂しい時間だ。つまらない。
あーあ、ハチカちゃんたちどうなったかな。
ひゅう、と風が吹く。
転がったまま正直な気持ちを音にした。
「ひゅーう、ひゅうるー。ひろーっておくれーえ」
ああ、人と交流したらよけいに人恋しくなっちゃった。
「はーちかちゃーん、ひろーってーえ」
悲しみの歌を捧げていると、またにわかに物音がした。誰かがやってくる音だ。
「ウタコさぁん、ウタコさん」
「おーい」
ハチカちゃんの声! ついでに一緒なのはエストアくんでは?
「あっ、エストア気をつけてね。ウタコさんが言うには、ここは毒がいっぱいなんだって。だから待ってて」
「馬鹿。お前一人じゃ危ないよ。それにこれ、何に使うんだ」
「これはええと風。風を送るの」
「風?」
明らかに本調子ではなさそうな声音で、エストアくんがハチカちゃんを引き留めている。
というより、ここまで二人で来たのか。万能秘薬とはいえ、そこまでの効果はないぞ。エストアくんったら、ハチカちゃんが心配すぎてムリして歩いてない? 大丈夫かな。
そうこうしているうちに、すぐに大風が吹いた。自然な風とはなんだか違う。
「う、ウタコっ、さあん! はあ、ふう、返事をくださーい!」
なんと。ハチカちゃん大きな布を手にしてばっさばさ仰いでいる。素晴らしき力業だ。
四方八方に仰いで進んでいるので、足元が危なっかしい。おまけに怪我人あがりのエストアくんまでいる。
ああ、ああ、そこはヤバ草も近い。一生懸命なのはいいけど足元見て!!
うおーっ、近寄っちゃダメ!
風、風! はやくここ!
エストアくんが触れるか触れないかくらいのところでようやく風が来た。
「こらーっ! 止まれーい! すすーむなーあ」
「そこですね!」
おお、ばさばさ。力強い風だ。
どうにか返事をしてあげていると、二人が慎重に私のところにやってきた。
「ウタコさん、遅くなってすみません! 助けにきましたっ」
「待てよ、ハチカ。俺もそっちに」
よたよたと二人寄り添って歩いてくる。
「あなたのおかげで、エストアが歩けるようになったんです」
「ええと、その、しゃべる骨ってのは意外だけど……恩人だ。ありがとう」
「いーいえー」
ところでハチカちゃん、ずっと布で仰がなくてもいいのよ? 一生懸命だから突っ込まないけど。
「ご無事でしたか? 危ないから、一緒に戻りませんか?」
「お礼になるかわからないけど、つれてってと歌ってたのハチカきら聞いたので。えーっと、あなたが良ければで」
二人そろって謙虚にたずねてくる。
ちょっと、私がいない間になんか進展してない?
手を止めたハチカちゃんとエストアくん、互いに見つめあいながら「ね」「うん」とか交わしちゃってさ。甘くなあい?
これ、お祝いすべきでは。
「おーおおーお熱ーい。ひゅーうひゅうー」
冷やかしの歌を真心込めて贈ってあげよう。
すると、二人は不思議そうな顔をしてから同じタイミングで顔を赤くさせた。
「も、もうっ。行きますよ、ウタコさんっ」
「合点承知ーい」
「なんか、思ったより愉快な人だなあ」
そうして、私は可愛らしい二人に拾われることとなった。
優しい村娘ちゃんと村人くんが暮らす新居に鎮座する私。
悪女から盗み知った知識で、いっぱい助けて。
そこそこ裕福に、それでも欲に溺れることなく過ごす家庭の中。
私は今日も気ままに歌っている。
異世界にきて、しゃれこうべになって。
人生何があるかわからないねえと私は風を鳴らして、幸せ家庭を見守るのだった。




