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短編2

真実を見ない事にしました

作者: 猫宮蒼
掲載日:2026/04/05



 村を魔物が襲って。

 その時に親が死んで。


 残されたのは幼子一人。

 野垂れ死ぬか、悪い人に騙されて奴隷として売られるか。

 孤児院すらない辺鄙な村で生き延びたこどもの未来など決して明るいものではなかったはずなのに。


 それでもその時たまたま旅人に拾われたのは、運が良かったのだろう。


 その旅人がこどもに一人生きていくための手段を教えてくれたことも。


 そうしていざ独り立ち! となって、地下に広大なダンジョンがあると言われている迷宮都市にやって来た男は、そこで気付いたのである。


「あっ、これ……転生ってやつかぁ……」


 まさかの前世の記憶を思い出した瞬間であった。


 しかもよくよく思い返してみると、前世で遊んだことのあるゲームと限りなく同じ世界である。

 マジかー、と呟いてどうしたものかと考える。


 ゲームタイトルは忘れてしまったが、内容は朧気に憶えている。

 主人公は冒険者で、迷宮都市の地下に広がるダンジョンを攻略していく。

 まぁよくある感じのやつだった。


 ダンジョンは入るたびに形を変えて、宝箱の位置も毎回異なる。

 出てくるアイテムも運が良ければいいのが出てくるし、そうでなくとも不要なアイテムを売って金を貯めれば他の装備や道具が買える。

 敵を倒してレベルを上げて、装備を整えて……と、やる事はとても単調だが毎回中身が変わるダンジョンやランダムに入手できるアイテムによってなんだかんだずるずると前世の自分はプレイしていたのであった。


 ちなみに仲間も数多く存在していて、自分にとっての最強メンバーを集めて攻略していったり、能力無視して好きなキャラで攻略したり、プレイヤーの数だけ編成パターンが存在すると言ってもいい。

 仲間キャラを実際仲間にするためにはイベントを進めたり仲間になるためのフラグが立っていないと無理なのだが、ダンジョンに行って戻ってくるだけのゲームなので仲間イベントは丁度良いスパイスでもあった。


 そういったあれこれを思い出した事で、男は今一度自らの事を思い返してみた。


 自分は旅人に拾われて一人で生きていくための技術を学んだ。

 その際に各地を巡ったりしたものの、別に冒険者をやっているわけではない。


 この時点でゲームの主人公と同じ立場ではないので、ダンジョンの最下層にまでたどり着かねばならないような目的もない。

 今世の自分の名前が、果たしてゲームで仲間になるキャラにいたかどうかも定かではない……という程度には存在感が薄いので、今世の自分の立ち位置は普通にモブでいいのだろう。

 もしモブじゃなかったらどうしよう……前世の自分がほとんど使う事のなかったキャラだった、なんてオチも無いとは言えない。


 確かに色んなキャラが仲間になったので、その可能性はゼロではないのだ。


 何せ戦闘職以外のキャラも普通に仲間に入れる事はできたので。

 非戦闘員をダンジョンに連れていってどうするという話だが、非戦闘員にも一応それなりに特技があるので、主人公一人で戦闘して残りの仲間は皆非戦闘員、なんてプレイをしていた人もいたと記憶している。仲間の組み合わせ次第では意外とどうにかなるものだった。


 そうはいっても、ゲームなら非戦闘員は敵に狙われないけれど、実際はそんなご都合主義にはならないだろう。

 多分普通に死ぬ。

 であれば、そんな危険地帯になんて行きたくもない。

 男がこの迷宮都市にやって来たのはあくまでも店を営むためであり、ダンジョンの中に危険を承知で足を踏み入れるつもりはこれっぽっちもないのだ。


 なので、もしダンジョン攻略をする冒険者たちに仲間に誘われたとしても断ろう。


 これが、男の出した結論だった。


 今更ではあるが男の名はルッツ。

 彼は鑑定士として迷宮都市にやって来た。


 他の地域でも仕事がないわけではないと思うが、ダンジョンがある迷宮都市なら少なくとも食いっぱぐれる事はないと判断しての訪れである。

 何せダンジョンで見つけたアイテムや武器防具の中には、未鑑定アイテムと呼ばれるものがあるので。

 未鑑定のままでも使えるし装備もできるのだが、場合によっては死ぬこともある。

 たとえば未鑑定の薬。回復薬に賭けて飲んだ場合毒薬で死ぬ、なんてのもあったし、未鑑定の武器や防具が呪われていて大幅ステータスダウンだとか、一気に窮地に陥るような事だってあった。

 ゲームでは死んでもダンジョンの外に追い出されるだけで済むけれど、多分ここでは普通に死ぬので適当に未鑑定アイテムを使ったり装備する奴は流石にいないと思いたい。

 運が良ければ毒薬ではなくステータスアップアイテムだったりもするけれど、その可能性に賭けて未鑑定のまま使うのはあまりにもギャンブルだった。


 そういうわけで、恐らくこの迷宮都市にはそれなりに鑑定士が存在している。

 だが、鑑定士が何もかもを鑑定できるか、と言われればそうではない。

 武器を専門に鑑定する者、アイテム専門の者、と未鑑定品をなんでもかんでも鑑定できるわけではないのだ。

 オールマイティに鑑定できる者もゲームにはいたけれど、鑑定レベルが低かったりすると鑑定失敗なんて事もあったくらいだ。


 高レベルの鑑定士はゲームでも終盤近くにならないと出現しなかった気がする。


 呪いを解呪する事ができる者は割と序盤からいるので、そういった相手が仲間にいれば未鑑定でもとりあえず装備してみる、なんてごり押ししていたプレイヤーもいたけれど、仲間にできる人数は決められているので貴重な一枠をそいつに使いたくない、なんてプレイヤーも当然いた。

 解呪できる仲間は非戦闘員なのでメンバーの組み合わせ次第では確かに貴重な一枠に入れたくない、と思う者が出てもおかしくはない。


 ルッツはとりあえず師匠でもある旅人に鑑定のやり方をこれでもかと仕込まれたので、まぁある程度の物なら問題なくできると自負しているが、大っぴらに喧伝するつもりはなかった。

 何故って、ダンジョン探索に勧誘される可能性が高くなるので。


 だからまぁ、ルッツは迷宮都市の片隅にひっそりと鑑定屋を構えて、程々に食べていければいいかな、と思っていたのだ。


 ダンジョンで一山当てよう! と思っている冒険者は実に多く、ゲームでは鑑定も一瞬で終わるけれど、しかし現実ではそうもいかない。凄腕の鑑定士の店には毎日のように未鑑定の品を持ち込む冒険者が訪れるし、そういう意味では休む間もない。

 だが、やはり凄腕となるとその分鑑定料も高くなるので、比較的浅い階層で発見した未鑑定品を持ち込むのは割に合わなくなってくる。

 だからこそ、新米鑑定士などもここには大勢いた。

 鑑定失敗した場合は料金は発生しません、なんてところが大半だ。

 ルッツもここに来たばかりの新参なので最初の頃は他の新米鑑定士たちと同じように活動していたし、その結果最近はある程度の固定客もつくようになってきた。


 ゲームでは鑑定屋なんて精々三軒くらいだったし、武器防具の店や道具屋もそれほど多くはなかったけれど、あれはあくまでゲームの中だからであって実際は数多くの店がひしめいている。ゲームの中では情報収集くらいにしか利用しなかった食事処もそこかしこにあるし、宿屋だってそう。


 高層ビルが建ち並んだりはしていないが、しかし人口密度的には大都会と言ってもいい。


 食うに困らなくなってきたルッツは、ある日実は自分って思った以上に凄いのでは……? と思うようになっていた。

 それというのも、ダンジョンで見つけた未鑑定品以外の物も鑑定できるようになっていたからだ。

 今までは家を見ても、壁だの屋根だのといったパーツはそりゃわかっていたけれど、しかし最近はその壁に使われている材料だとかがわかるようになってきたのだ。

 ついでに、道行く人たちの種族も。


 ゲームで主人公の仲間になるキャラは、何も人間だけじゃなかった。

 ファンタジー作品でお馴染みのエルフにドワーフといった王道的な種族だけではなく、妖精、精霊なんでもござれ。神族だっていたのである。


 ただ、ゲームの中ではキャラのステータスを見れば種族は記されているのでわからないわけじゃなかった。

 エルフはエルフだった。

 けれども、肌の色が異なるエルフ――他作品だとダークエルフと呼ばれていそうな相手もステータス画面ではエルフとしか表記されていなかった。


 いかんせん古いゲームなので、容量的な物をケチった可能性は充分にある。

 なのでエルフもハイエルフもダークエルフもエンシェントエルフもハーフエルフも全部一纏めにされてエルフとなっていても、おかしくはなかった。

 見た目もそうだが、それらエルフのキャラのステータスも大きく異なっていたので。

 弓と魔法が得意なエルフたちではあるが、キャラによっては弓特化だとか、魔法特化だとか、結構幅広い感じになっていたのである。


 そこら辺が実際本当のところはどうだったのか。

 前世では知りようがなかった。

 何故なら公式から明確な答えが出ていなかったから。

 設定資料集だとかが出版されていたのなら、そこにもうちょっと詳しく記されていたかもしれない。

 けれどもそんな物は存在しておらず、公式から得られた情報はゲームだけでしかなかったのだ。


 なので一部のプレイヤーは公式が明確に言わないのをいい事に、それはもう様々な妄想や想像をして己の中で情報を自分なりに納得できるよう非公式な情報を追加しまくった。

 主人公である冒険者もロクな個人情報がないのでこちらも実に様々な自己設定がつけられたりもしていた。


 公式で何も言ってないけどこのキャラとこのキャラは実は生き別れた兄弟かもしれないだとか、オタクの妄想が炸裂し二次創作は混沌と化していたのである。


 ただ見ただけでは別にハッキリと相手の情報がわかるわけではない。

 けれどもルッツは見ようと思ってみれば相手の種族がハッキリとわかる事に気付いて内心で打ち震えた。


 エルフのくせに魔力低いなこいつ……ほんとにエルフか? と思っていたキャラを見かけた時に思わずそっと鑑定してみれば、ハーフエルフどころかクォーターエルフと表示されて、謎は全て解けた! という気分になったのである。エルフの血が薄くなったから魔力もそんな高くなかったんだなぁ……と納得できてしまった。

 でも一応エルフの血を引いている事は事実なので、エルフというのは嘘ではない……と。

 若干でもそれ詐欺じゃね? という気持ちはあるのだけれど。


 そこからルッツは暇な時に通りを行く人々をぼーっと眺める振りをしながら鑑定していった。

 想像を裏切らない結果だったり、予想もしていなかった結果だったり。


 成程なー、なんて思いながら日々人を観察するのがすっかり日課になってしまったくらいだ。


 そんなある日、ルッツは見てしまった。


 恐らく主人公かもしれない相手を。


 主人公は冒険者である。それ以外は何の説明もされていなかった。

 なのでまぁ、プレイヤーの脳内で色んな主人公が生成されていたのだけれど。


 冒険者 人間 英雄候補


 そんな風に鑑定できてしまった人物がいたのである。

 ゲームで主人公はダンジョンを踏破しラスボスを打ち倒し、そうして英雄と讃えられるのだが、つまりそれってそういう事なのでは……? とルッツが思うのも無理はなかった。


 ところがもう一人近くに全く同じ表記がされた相手がいたのである。


(つまりこれって誰がダンジョンを踏破してもおかしくないって事なのか……?)


 そんな風に思いながらも、つい目は推定主人公を追ってしまう。


 どうやら二人の冒険者は知り合いらしく「よう」なんて片手をあげて声をかけ挨拶をしている。


「お前か」

「最近そっちはどうだ?」

「どうもこうも……今んとこカツカツだな」

「仲間かえたら?」

「いやでもあいつら神族だぜ? 大器晩成型だと思うんだよな」

「それを信じて序盤苦戦しっぱなしってのもどうかと思うけどなー。やっぱ序盤はある程度バランスとった方がいいって」


 そんな会話が繰り広げられていく。

 大声ではないし、あからさまに謎の単語を口にしているわけではないから周囲もそこまで気に留めたりはしていないが、しかしルッツは気付いてしまった。


(あいつらも転生者か……!?)

 自分以外にもいるかもしれない、と思っていたが実際お目にかかるとなんとも言えない衝撃だった。


 そこからルッツはそっと耳をそばだてて二人の会話に注目する。


 二人の冒険者のうち片方はそれなりに良い装備をしている。

 そちらはどうやらゲーム序盤の安定攻略型で仲間を揃えたらしく、ダンジョン探索も順調なようだ。

 もう片方はというと、あまり良い装備ではない。ダンジョンで見つけた呪われていない、とりあえず使えなくもない、という装備を一先ず身につけている……といった感じだ。


 実際マトモに装備を整えている方は一式きちんと揃っているので見た目もそこまでおかしくはないけれど、もう片方はというとちぐはぐな印象がどうしたって否めないのだ。

 とはいえ装備に関しては他の冒険者も似たような感じのがいるので、彼だけがおかしいというわけではない。


 ない……けれど、なんていうかそれにしたってもうちょっとマシな装備はあるだろうよと言いそうになる。


 みすぼらしいとも言える装備の冒険者は、どうやら仲間に神族を迎え入れたらしい。


 神族。

 神とつくも、何の神かまではゲームではわからなかった。

 ただこちらもエルフ同様に複数名の神族たちはステータスに大きな差があって、強い奴は本当に強いがそうでもない奴に関しては本当に神なのか……? と言いたくなるようなもので。

 それでもコツコツと育てていけばいずれ使えるのではないか、と言われていたが、いかんせんレベルが上がるまでも相当かかるので前世のルッツの周囲ではそういった神族を育てる、というプレイヤーはいなかった。

 ウェブ上でならいたかもしれないが、ルッツはあまりネタバレを知りたくなかったから極力避けていたのである。


 噂ではレベルを最大まで上げたら最強になるなんて言われていたけれど。

 けれども前世のルッツの身の回りでそこまで育てた相手はいないので噂は所詮噂だ。


(一見人間に見えても獣人の血を引いてるとか、そういうのもいたしな……

 思えばゲームでは育て切った覚えがないから、神族って言われても俺もよく知らねんだよなぁ……)


 そうなると、気になってしまうもので。


 ルッツは二人の冒険者の話を聞きながらも、神族を仲間にしたという冒険者の動きを窺っていた。


 普段ならやらないが、気になったので会話が終わって立ち去ろうとする冒険者の後をつける事にしたのだ。


 そうして特に怪しまれる事もなく男の後をついていけば、武器屋の前で足を止める。


「またせたな」

「うぅん、全然。それで? どうだった?」

「あぁ、一応質に入れてきたから金はどうにかなるぜ」

「やったぁ、それじゃああの武器ちゃんと買えるね」

「これで少しはダンジョンも楽になるはずだよ」


 女たちはきゃらきゃらと花が咲いたような笑みと声をあげているが、ルッツは危うく顔を引きつらせるところだった。


 男と三人の女たちの会話を要約すると、武器屋に売られていた女が使えそうでなおかついい感じの武器を入手するために、男は自身の装備を質入れしてランクダウンさせたらしい。

 つまりは、ルッツが彼を見る前には、彼の装備もそれなりに良いものだったのだと知る。


 男は自分の実力を理解したうえで、自身の装備のランクを下げても彼女たちの武器を良いものにした方がいい、と考えた。

 まぁそういう事もあるだろう。ゲームだったらコツコツお金をためて買うだけだが、しかし現実ではいつその品が売り切れてしまうかもわからない。

 早急に入手する方を選んだのだとはわかる。


 これが装備ではなくドレスだの宝石だのといったものなら単に貢がされてるだけじゃねぇか、と言われたかもしれないが装備なので周囲も特に口を挟むでもない。


 だが、ルッツは見てしまった。


 確かにゲームでもあの三人いたような気がするな……と思えた相手の正式な種族名を。


 ゲームでは神族としか表記されていなかった。

 だからこそ多くのプレイヤーは大器晩成型だと信じて育成したりもしていた。なおルッツは前世で途中で飽きて他の仲間に乗り換えたクチである。

 見た目はとても良いので、ビジュアルだけで決めて育てる、という愛がなきゃやってらんない系だったのだが、ルッツは別にそこまでの愛も情熱も持てなかったので。


 しかし今、神族、という一言だけしかなかったゲーム情報よりも更に詳細にルッツは知ってしまったのだ。

 三人の女性が何の神であるのかを。


(あっ、あいつ終わるんじゃね……?)


 素直にそう思ったが、しかし口には出せなかった。

 余計な事を言って彼女たちに目をつけられたら恐ろしい事になるからだ。


 だからルッツは彼らには一切注目していませんよという雰囲気のままに、自然に通り過ぎて別の道へ歩いていく。そうやってぐるっと遠回りをして自分の構える店に戻ってきて。


「いやマジかぁ……確かに神だけどさぁ……」


 誰もいないので思わず呟く。


 三人の美女は確かに神だった。

 ただし、神は神でも貧乏神だ。


「そういえば……前世の俺がいた国だと貧乏神って爺さんみたいな見た目のイメージだけどあれって確か、妖怪アニメの影響だったっけ……?」

 そこから芋づる式に思い出す。


 日本の貧乏神のイメージは老人、だが、実のところ海外の貧乏神には美女であるところがある、なんていう事を。ちなみにアニメではなく某ゲームの影響ならもう少し若いがやはり男性のイメージなのは間違いない。


「確か……なんか森の中とかで一人泣いてる美女を見つけて、不憫に思って親切に家に連れてったらそっから貧乏になるとかだったっけ……?」


 いかんせん前世の朧げな記憶なので正確には憶えていないけれど。


 けれども確か、そんな感じだったはずだ。


「あー、いや違うな。確かアレだ。

 えっとー……貧乏な家の百姓が、自分の娘が地主に見初められたものの親も娘も地主の事嫌ってて、無理矢理結婚させられる前に逃げ出そうとしたら家に潜んでた美女が貧乏神、だったっけ……?

 で、なんか私は貧乏神ですとか名乗っちゃって、家を出て行くなら自分も連れてけみたいな事言うんだっけ……?」


 福の神ならいざ知らず貧乏神を連れてく奴はいないと思う。

 ルッツはそんな風に突っ込みを入れつつも、もうちょっとだけ頑張って記憶を掘り起こしてみる。


「それで、親がその貧乏神を巧妙に騙して木の割れ目とかに手を差し込ませて抜けないようにした上でアディオスアミーゴだかアリーヴェデルチだかしてとんずらかまして? 置いて行かれた貧乏神は手も抜けないし困り果てて泣いてたのを娘の事を諦められなかった地主が追いかけてきて貧乏神を発見。娘に逃げられたが貧乏神は大層美しかったから代わりに嫁に……だったっけ?

 貧乏神から逃げた一家は別の土地で裕福になったけど貧乏神と結婚した地主は貧乏になっていったとかどうとか」


 確かそんな話だったような気がする。

「どこの国の話だっけ……ロシア……いや、シベリア? イメージ的に寒いとこな感じだったような気がすんだよなー……」


 ガシガシと頭を掻いてみるも、生憎それ以上は思い出せなかった。


 とりあえずその昔話と言っていいかも微妙なやつで言える事は、貧乏神は他の寄生先を見つけたし、元々憑かれていた百姓一家は逃げ出して裕福な生活ができたし地主も美人の嫁さんゲットできたから皆ハッピー。そういう事にしておく。元々貧乏神に知らず居座られていた百姓一家が不幸だとか、置いて行かれた貧乏神が可哀そうだとか、美人の嫁さんが貧乏神であっという間に貧乏になった地主とか、不幸ポイントがないわけではないけれども。


 ただまぁ、その話に言える事は、貧乏神は一人、いや、一柱? だった事だ。


 だがしかしあの冒険者は違う。

 三人も貧乏神を連れているのだ。


「こっわ」

 そのうち内臓とか売りそう。

 ルッツはそんな感想を抱いた。

 そもそもここで臓器移植だのなんだのといった技術はないので、内臓を売るにしても何に使えるのかルッツにはよくわからないが。

 それでもそのうち質に入れる物もなくなりダンジョンで稼げなくなった時に。


 あの冒険者が貧乏神三人と上手い事お別れできるのならばいいが、そうでなければ。


「そのうち高額バイトだと思ったら生贄になるやつだったとかありそー……」

 洒落にならないし笑い話にもならないものではあるけれど。


「……まぁ、触らぬ神に祟りなしって言うもんなぁ……」


 恐らくは転生者仲間だろうとは思う。

 思うのだけれど、だからって他人であるあの冒険者にルッツが忠告をするにも突拍子が無さ過ぎる。

 一歩間違ったらあの三人の美女のうちだれかを狙っているから嘘を吐いて引き離そうとしているとか思われるかもしれない。


 仮に穏便にお別れを決める事になったとしても。

 そうなればあの貧乏神たちが次にどう動くか。


 貴方のせいで彼とお別れする事になったんだから、なんて言われて店に居座られるかもしれない。

 そうなればルッツの店は経営が傾いて最悪破産するかもしれない。


「老人の姿の貧乏神は確か丁重にもてなすと福の神になるとかいう話があったような気もするから、あの貧乏神たちもワンチャンあるか……?」


 どうだろう?


 前世の記憶で正解を確認しようがない現在、ルッツのあやふやな言葉を伝えたところでむしろ自分の方こそが下手な恨みを買いそうな予感しかしない。


 考えに考えた結果、やっぱり触らぬ神に祟りなし、という言葉に行きついたので。


 当分人の種族とか鑑定するのやめよう……と思いながら、そっと何もかもを見なかった事にしたのであった。

 実際美女貧乏神はどっかの国の民話にあったと思うんですがいかんせん詳しくないので詳しく知ってる有識者の方がいたらそっと教えてください。この話はそのためだけに出来た物です。


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