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異能者に転生したから現代最強を目指してみる ~僕以外、全員モブってことでいいよね?~  作者: パラレル・ゲーマー


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第14話

 桜が散り、また桜が咲く。

 そんな日本の四季の移ろいを、僕はもはや、カレンダーのページをめくる程度の感覚でしか捉えていなかった。

 そうして、ついにその日が来た。


 10歳。

 二分の一成人式。

 桁が一つ増えた。


「……やっと10歳かよ。人生、長すぎない?」


 六式家の広大な庭園を見下ろす自室の窓辺で、僕は深いため息をついた。

 手には、使用人が恭しく持ってきた「誕生日祝い」のメロンソーダ(ヴィンテージ物のバカラグラス入り)がある。


 前世の感覚で言えば、10年というのは、あっという間だった気がする。

 だが、この世界での10年は濃密すぎた。

 0歳で覚醒し、3歳で訓練を始め、6歳で現場に出た。

 中身が30代のサラリーマンである僕にとって、子供の身体で過ごす時間は、まるで倍速再生できないクソ長いチュートリアルをやらされているような焦れったさがある。


「あと8年……いや、10年は待たないと、酒も飲めないし、車の免許も取れない。不便極まりないな」


 僕はグラスの氷をカランと鳴らす。

 今の僕のステータスは、名実ともに『現代最強(仮)』で安定している。

 Tier 2の怪異を単独撃破し、その眷属を使役し、八咫烏ヤタガラス内での発言権も幹部クラスになった。

 資産も潤沢だ。裏口座には、一生遊んで暮らせるだけの額が唸っている。


 だが、身体はまだ10歳。

 身長は伸びたが、まだ140センチそこそこ。

 マジェスティックから貰った13mm拳銃も、まだ両手で構えないと様にならない。


『――あるじよ。焦らずとも、時は我らに味方しております』


 足元の影から、優雅な声が響いた。

 『吸血公・アルカード』だ。

 彼は今や、僕の影の中に住まう執事兼参謀として、完全に馴染んでいる。


「お前ら長命種はいいよな。10年なんて昼寝の時間だろ?」

『左様。しかし、主の成長速度は異常です。たった数年で我らを取り込み、従える器となった。……あと10年もすれば、正真正銘の"魔王"として君臨なされるでしょう』

「魔王になるつもりはないよ。僕はただのプレイヤーだ」


 僕は苦笑する。

 影の中には、アルカードの他にも、筋肉バカの『剛力鬼』と、情報収集役の『カシマ』が控えている。

 彼らは僕の忠実な手駒ポケモンだ。

 最近では、彼らを影から出して自律行動させ、僕は高みの見物……なんていう「召喚士プレイ」も板についてきた。


「さてと。今日も今日とて、退屈な日常をこなしますか」


 僕はグラスを置き、立ち上がった。

 今日は学校(分身くん)が遠足の日だ。

 本体の僕はフリーなはずだったが、朝一番で父上――六式家当主・厳道げんどうからの呼び出しが入っていた。


「誕生日に呼び出しとか、ろくな用件じゃないな。また政治家の護衛か? それとも京都への牽制か?」


 僕はジャケットを羽織り、部屋を出た。

 廊下ですれ違うメイドたちが顔を赤らめて会釈する。

 最近、六式家の遺伝子のせいで顔立ちが整いすぎてきた。分身くんが学校でモテるのも無理はない。

 だが、それがまさか、あんな面倒な話に繋がるとは、この時の僕は予想していなかった。


          ***


「座れ」


 父の部屋は相変わらず重苦しい、墨と線香の匂いがした。

 六式 厳道。

 この国の裏社会を牛耳るフィクサーの一人。

 彼は僕の誕生日を祝う言葉など一つも口にせず、開口一番、とんでもないことを言い放った。


「10歳になったな、虚。……そろそろ**許婚いいなずけめかけ**を見繕うか」


「……は?」


 僕は耳を疑った。

 聞き間違いかと思った。

 だが父の目は真剣そのものだった。事務的に、次の事業計画を発表する経営者の目だ。


「な、何言ってんの親父。僕、まだ10歳だよ? ランドセル背負ってる小学生だよ? 法律って知ってる?」

「法律など、表の世界の飾りだ。我ら六式家には適用されん」


 父は筆を置き、僕を直視した。


「お前は『最高傑作』だ。六式家が数百年の悲願の末に生み出した、完全なる器。……だが個体である以上、不慮の事故や寿命で失われるリスクは常にある」


 彼は淡々と続ける。


「完成品の血を残さねばならん。お前という個体が消滅しても、その因子が次代に継承されるよう、バックアップを用意する必要がある」


 バックアップ。

 自分の子供をデータの保存先みたいに言うな。

 僕は呆れて溜息をついた。


「あのさぁ。……僕の能力『万象模倣オール・ミミック』は、僕という個体の特異性によるものだよ。遺伝子だけで決まるもんじゃない。お前の子が、そのまま能力を受け継ぐことはないよ」

「分かっている。お前と同じ『完全な器』が、そう簡単に再現できるとは思っていない」


 父は頷く。


「だが『芽』を残しておくことは必要だ。数打てば当たるかもしれんし、隔世遺伝で発現するかもしれん。何より、六式家という組織の求心力を維持するためには、直系の血脈が必要なのだ」


 要するに、お前は種馬になれと言っているわけだ。10歳にして。


「えーマジかよ……」


 僕は頭を抱えた。

 前世では35歳まで独身だったのに、転生した途端、10歳で強制お見合い?

 極端すぎるだろ。


「この歳から、そういうこと考えないと行けないの? めんどくせー! まだゲームして遊びたいんですけど!」

「遊びは許さん。これは義務だ」


 父は懐から分厚いファイルを机に放り投げた。

 『釣書つりがき』と書かれている。お見合い写真の束だ。


「すでに手配は進めている。……分家から選りすぐりの嫁候補たちを集めた」

「分家……」


 六式家には全国に散らばる分家が存在する。

 彼らは本家ほどの力はないが、それぞれが特化した能力を持つエリート集団だ。

 彼らにとって、本家の、それも「最高傑作」である僕と縁付くことは、一族の悲願であり、最大の権力闘争のカードなのだろう。


「国内だけではないぞ」


 父はニヤリと笑った。


「ヨーロッパの『オルド・クロノス』とも交渉中だ。……あそこには『大神体質ティターン・ブラッド』と呼ばれる特殊な母体を持つ一族がいる」

「大神体質?」

「うむ。母親よりも強い魔力を持った子を確実に生む特異体質だ。それを輸入して、お前の妾にする」


 輸入って。

 人間をサラブレッドか何かだと思っているのか、この親父は。


「親より強い子を生む……ねぇ。サラブレッドの配合理論かよ」

「最強の種と最強の畑。……素晴らしい果実が実ると思わんか?」


 父の目は狂気じみた期待に輝いていた。

 マッドサイエンティストだ。

 自分の孫の顔が見たいとか、そういう情緒的な感情は一切ない。

 ただ、より強い能力者(兵器)を作りたいという執念だけ。


「……はいはい。分かりましたよ」


 僕は投げやりに答えた。

 ここで拒否しても、この親父のことだ、寝込みを襲わせて既成事実を作ろうとするに決まっている。

 なら、適当に話を合わせて、のらりくらりと躱すのが得策だ。


「でもさ、実際に『子作り』云々は大人になったらね。身体が出来てないのに無理だよ。それまでは遊ばせてくれよ」

「ふむ。……まあ実働は数年後で構わん。だが婚約(予約)は今すぐ済ませる」

「予約ねぇ……」

「今日の午後、候補者たちを大広間に集めてある。……顔合わせだ。行ってこい」


 有無を言わせぬ命令。

 僕はファイルを手に取り、立ち上がった。


(……ま、いいか)


 僕は心の中で別の計算を弾いていた。

 分家のエリートたち。

 それはつまり、**「そこそこ使える能力を持った便利なサンプル」**ということだ。

 嫁選び? 知るか。

 僕にとっては新しいスキルの見本市トレードショーだ。


          ***


 午後。

 六式家の本邸、一番大きな座敷である『百畳の間』。

 普段は一族の重要会議や正月の挨拶くらいでしか使われないその場所に、異様な緊張感が漂っていた。


 ズラリと並んだ、華やかな着物姿の少女たち。

 年齢は僕と同じ10歳前後から、上は15歳くらいまで。

 総勢十名。

 それぞれの背後には、分家の当主と思われる親たちが脂汗を流して控えている。


 僕は上座に用意された、一段高い座布団に座った。

 その隣には父ではなく、世話役の老女が控えている。

 父は「子供の遊びには付き合わん。結果だけ報告しろ」と言って執務室に籠もった。

 つまり、この場における生殺与奪の権は、全て僕に委ねられている。


「……六式家次期当主、虚様のおなり!」


 世話役の声と共に、少女たちとその親が一斉に平伏する。

 衣擦れの音だけが響く。


「面を上げよ」


 僕が言うと、彼女たちが恐る恐る顔を上げた。

 どの子も化粧をして着飾っているが、その表情は硬い。

 恐怖、緊張、そして微かな野心。

 「ここで選ばれれば一族の地位は安泰だ」という親のプレッシャーを背負わされているのが丸わかりだ。


(……つまんないな)


 僕は頬杖をついた。

 見た目は悪くない。流石は選りすぐりだ。

 清楚系、活発系、お姉さん系。属性は揃っている。

 だが、僕が欲しいのは「心の安らぎ」でも「家庭」でもない。


 「強さ」だ。


 僕は彼女たちを女性としてではなく、能力者ユニットとしてスキャンする。

 魔力回路の太さ。

 属性の適性。

 保有している固有能力。


「……ふーん」


 僕は小さく鼻を鳴らした。

 悪くない。

 Tier 4(一般能力者)の枠は超えている。全員、Tier 3(戦術級)には届いている。

 一般社会なら「天才」と呼ばれるレベルだ。


「初めまして、許婚いいなずけ候補の皆様」


 僕は子供らしい人懐っこい笑顔(営業スマイル)を浮かべて、口を開いた。


「よろしくー」


 僕の軽い口調に会場が少しざわつく。

 もっと厳格な恐ろしい「化け物」が来ると身構えていたのだろう。

 目の前にいるのが、ただの無邪気な少年に見えたことで、彼女たちの表情に少しだけ安堵の色が浮かぶ。


「よ、よろしくお願いします、次期当主様……!」


 最前列にいた長い黒髪の少女が、声を震わせながら挨拶した。

 彼女は『六式分家・水無月みなづき家』の娘か。

 周囲に漂う魔力は……水と氷の複合属性。防御寄りだな。


「丁寧な挨拶どうも。……で、単刀直入に聞くけどさ」


 僕は笑顔のまま、声のトーンを一段階落とした。

 営業スマイルはそのままに、目だけを「査定者」の冷徹な光に変える。


「君等、どれだけ使えるの?」


「……え?」


 少女が固まった。

 周囲の親たちも息を呑む。

 「どれだけ愛してくれるの?」でも、「どんな趣味があるの?」でもない。

 「使えるか(・・・・・)」という道具に対する問いかけ。


「いや、だから能力の話だよ。六式家の嫁になるなら、ただ可愛いだけじゃ困るんだよね。僕の背中を預けるに足るか、あるいは僕の足手まといにならないか。そこが一番重要でしょ?」


 僕は視線で会場全体をなぞる。


「僕の目から見たところ……そうですね、全員Tier 3という所ですか」


 Tier 3。

 その評価を下された瞬間、何人かの親が「おお……!」と安堵の声を漏らした。

 Tier 3は、プロのエージェントとして一本立ちできるレベルだ。

 世間的には高い評価だ。


「へー、優秀じゃん」


 僕は手を叩く。

 だが心の中では舌打ちしていた。

(……やっぱりTier 2はいねーか。まあ、そんな怪物がゴロゴロいたら困るけど)


 Tier 3。

 僕の「影の軍団アルカードたち」には遠く及ばないが、使い捨ての手駒としては十分な戦力だ。

 あるいは特定の状況下で輝く特殊能力ユニークスキルを持っているかもしれない。


「Tier 3なら、まあ合格ラインかな。……全員キープってことで」


 僕がそう言うと、少女たちの顔がパッと明るくなった。

 選ばれた。

 その事実だけで、彼女たちのプライドは満たされたようだ。


 だが、僕の目的はそこじゃない。

 僕は座布団から立ち上がり、階段を降りて、彼女たちの前へと歩み寄った。


「で、これから長い付き合いになるわけだし、お互いのことを深く知る必要があるよね?」

「は、はい……!」

「だからさ」


 僕は一番近くにいた水無月家の娘の手を取った。

 彼女が顔を赤らめる。

 その手を握りながら、僕は囁いた。


「とりあえず、能力コピーさせて!」


「……は?」


 彼女の思考が停止する。

 ロマンチックな展開を期待していたところに、いきなりの実利要求。


「え、ああの……?」

「減るもんじゃないし、いいでしょ? 君のその『氷結結界』、構造が面白そうなんだよね。多層構造になってて、物理衝撃を分散させる仕組みかな? 便利そう」


 僕は彼女の同意を待たず、脳内の『万象模倣』を起動する。

 握った手を通じて、魔力のパスを繋ぐ。

 ハッキング。

 彼女が長年かけて磨いてきた術式の構造図が、僕の脳内に流れ込んでくる。


 【解析完了:『氷華の盾(ランクB)』】

 【インストール……完了】


「うん、頂きました。ありがと」


 僕はパッと手を離し、次の候補者の元へ向かう。

 呆然とする水無月家の娘を放置して、次は金髪の少女――風使いの手を握る。


「次は君だ。へー、真空刃の射程延長スキル? 地味だけど使えるね。コピー!」


「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり何を……!」

「何って、お見合い(データ収集)だよ。君たちの価値を、僕が直接確かめてあげてるんだ。光栄に思ってよ」


 僕は次々と少女たちの手を握り、肩に触れ、その能力を吸い上げていく。

 炎熱操作。

 植物生成。

 精神感応。

 身体硬化。


 質はそこそこだが、バリエーションは豊かだ。

 Tier 3クラスの能力が、食べ放題のビュッフェのように並んでいる。

 こんな美味しい状況、逃す手はない。


「あ、君のその『毒耐性』はいいね。実用的だ。貰っとく」

「いやぁぁ! 中に入ってこないでぇ!」

「大袈裟だなぁ。魔力をちょっとスキャンするだけだって」


 大広間は阿鼻叫喚……とまではいかないが、奇妙な悲鳴と困惑に包まれた。

 親たちは、次期当主の奇行を止めるべきか、それとも「気に入られた」と喜ぶべきか判断できず、オロオロしている。


 僕は10人全員の能力をコピーし終え、満足げに息を吐いた。


「ふゥー……。ごちそうさま」


 脳内のスキルリストが一気に充実した。

 これらは『回数制限保存』を使って、大事なストックとして倉庫にしまっておこう。

 嫁候補?

 ああ、そういえばそんな名目だったか。


「うん、みんな良い能力そざいだったよ」


 僕は上座に戻り、怯える少女たちを見下ろして、ニッコリと笑った。


「君たちの能力は、僕が有効活用してあげる。……せいぜい僕の子供を産めるくらい強くなって出直してきてね。今のままだと、僕の『因子』に耐えられなくて壊れちゃうかもしれないからさ」


 傲慢。

 不遜。

 10歳の子供が吐くには、あまりに無慈悲な言葉。

 だが、ここにいる全員が理解しただろう。

 この少年は夫となる人ではない。

 人の形をした貪欲な『捕食者』なのだと。


 僕は凍りつく会場を後にした。

 ポケットの中には10個の新しい能力オモチャ

 誕生日のプレゼントにしては、まあまあの収穫だったかな。

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― 新着の感想 ―
なんかどっかの女の夫とか殺して抱きしめながら俺の子を産め!とか言いそう(笑)
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