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異能者に転生したから現代最強を目指してみる ~僕以外、全員モブってことでいいよね?~  作者: パラレル・ゲーマー


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第12話

 深夜2時。

 首都高速道路湾岸線。

 オレンジ色の街灯が等間隔に流れていく中、僕は六式家の送迎車ブラックのセンチュリーの後部座席で、退屈そうに窓の外を眺めていた。


「……臭うな」


 僕がポツリと呟くと、運転席の田中(仮名)がバックミラー越しに視線を向けた。


「虚様? 何か?」


「いや、物理的な臭いじゃないよ。……魔力の臭いだ。

 それも、腐ったドブ川のような、古臭くて粘着質な悪意の臭い」


 僕は鼻を鳴らす。

 『魔力感知センス・マナ』のレーダーに、複数の強烈な反応が映り込んでいる。

 Tier 4や3の雑魚じゃない。

 このプレッシャー、この密度。……間違いなくTier 2(国家戦略級)の反応だ。

 それも一体や二体じゃない。


(……群れかよ。珍しいな)


 先日、ジェームズから聞いた「賢い怪物は徒党を組む」という話を思い出す。

 どうやら、その「賢い連中」が、わざわざ僕にご挨拶に来てくれたらしい。


「田中、次のパーキングエリアで止めて」


「は? しかしまだ目的地までは……」


「いいから。……お客さんが来てるんだ。玄関先で追い返すのも失礼でしょ?」


 僕の言葉に、田中は瞬時に状況を悟ったようだ。

 彼の顔から表情が消え、プロの従者の顔になる。

 車は滑らかに減速し、人気の少ないパーキングエリアの端に停車した。


「ここで待機してて。エンジンはかけたまま」


「……増援バックアップは?」


「いらない。呼んでる間に終わるし、何より……」


 僕はドアを開け、夜風の中に降り立った。

 9歳の身体には、少し肌寒い風だ。


「僕の新しいコレクション(経験値)を、横取りされたくないからね」


 僕は車から離れ、広大な駐車場のど真ん中へと歩き出した。

 周囲には大型トラックが数台停まっているだけで、人の気配はない。

 完璧なステージだ。


 僕は立ち止まり、両手を広げた。

 魔力を展開する。

 八咫烏の標準的な結界術式ではない。僕が独自にアレンジした、空間隔離と認識阻害を組み合わせた『隠蔽結界カーテン』だ。


「――展開セット


 ヴォンッ……。

 重低音と共に、僕を中心とした半径500メートルの空間が、現世から切り離される。

 外からは何も見えない。音も漏れない。

 僕と、これから来る「彼ら」だけの閉鎖空間コロシアム


 僕は虚空に向かって、挑発的に言い放った。


「準備はできたよ。……入ってこいよ。誘いに乗ってやるよ」


 ***


 僕の言葉に応えるように、アスファルトの影が揺らいだ。

 一つ、また一つ。

 闇の中から、異形のシルエットが染み出してくる。


 最初に現れたのは、フードを目深に被った少年のような姿。

 だが、その顔には目鼻がなく、口だけが耳まで裂けている。

 『都市伝説・カシマ』。

 現代人の恐怖心から生まれた、実体のない概念怪異。


 次に、アスファルトを踏み砕く重厚な足音と共に現れた巨体。

 身長3メートル、全身これ筋肉の鎧。額には二本の角。

 先日の鬼とは違う。より凶悪で、より知性を感じさせる眼光。

 『剛力鬼ごうりきき』。

 単純な物理破壊力においては、妖魔界でもトップクラスの武闘派だ。


 そして、優雅にマントを翻し、宙に浮遊して現れた男。

 軍服のような衣装に青白い肌、その赤眼は見る者を魅了し、同時に狂わせる魔力を帯びている。

『吸血公・アルカード』。

 Tier 2上位。この集団のリーダー格か。


 さらに彼らの背後には、数名の妖魔たちが控えている。

 鋭い鎌を持った獣人、全身が炎に包まれた髑髏、巨大な蜘蛛の女……。

 いずれも、Tier 2クラスの魔力を放っている。


「……うわぁ」


 僕は、わざとらしく顔をしかめた。


「雑魚がたくさん湧いてるじゃん! ここはゴミ捨て場じゃないんだけど?」


「減らず口を……」


 アルカードが、不快そうに眉をひそめる。

 だが、カシマはケタケタと笑った。


「ヒャハハ! 威勢がいいねぇ、最強くん!

 ビビって泣き出すかと思ったけど、意外と肝が据わってるじゃん」


「何か用? サインなら色紙持ってきてよね」


「サイン? いらないねぇ」


 カシマはフードを脱ぎ捨て、裂けた口をさらに大きく歪めた。


「いやー、ちょっとお前を食べてやろうかなと思ってな。

 ……お前のその『魂』、めちゃくちゃ美味そうなんだよ。極上のスパイスが効いてるっていうかさ」


「食べる?」


 僕は小首をかしげる。


「へー、そう。……でも僕、最強だよ? 大丈夫? お腹壊すよ?」


 僕の言葉に、妖魔たちがざわめいた。

 失笑、怒り、そして侮蔑。

 彼らにとって僕は「才能ある子供」に過ぎない。

 まだ成長しきっていない柔らかい果実。

 まさかその果実の中に、猛毒が詰まっているとは、夢にも思っていないだろう。


「はっ、言うじゃねーかガキが」


 ドスッと前に出たのは、巨体の剛力鬼だった。

 彼は太い腕を組み、見下ろすように僕を睨む。


「最強? 笑わせるな。お前なんぞ、俺のデコピン一発でミンチだぜ。

 ……おいアルカード、こいつは俺がやる。一番乗りだ」


「……好きになさい。ただし頭(脳)は残しておきなさいよ。知識を吸収したいのですから」


「おうよ!」


 剛力鬼が、全身の筋肉を膨張させる。

 バヂヂヂッ!

 筋肉の密度が高まりすぎて、周囲の空気が静電気を帯びる。

 『金剛皮こんごうひ』と『怪力乱神かいりきらんしん』。

 分かりやすいパワータイプだ。


「死ねやぁぁぁッ!!」


 剛力鬼が地面を蹴る。

 爆発的な加速。

 3メートルの巨体が、砲弾となって僕に迫る。


 ***


 速い。

 巨体に見合わない俊敏性。

 だが、僕の動体視力は、完全にその動きを捉えている。


(正面突破か。芸がないな)


 僕はポケットに手を入れたまま、無意識領域で展開している『念動力障壁サイコ・バリア』の出力を上げた。

 僕の周囲1メートル。

 そこに、戦車の砲撃すら防ぐ不可視の壁が存在する。


「無駄だッ!!」


 剛力鬼の拳が、障壁に接触する。

 ガギィィィィィン!!

 空間がきしむ音。


(……ん?)


 違和感。

 止まらない。

 僕の念動力が、物理的な質量と「概念的な破壊力」によって、ミシミシと押し込まれていく。


「オラオラオラァッ!! 薄っぺらい紙切れ一枚で、俺様の拳が防げるかよぉッ!!」


 パリンッ!!


 砕けた。

 僕が絶対の自信を持っていた『常時展開バリア』が、ガラス細工のように粉砕された。

 拳の勢いは止まらない。

 そのまま僕の顔面へと迫る、丸太のような腕。


「――へー」


 僕は僅かに目を見開いた。

 驚きはない。感心だ。

 Tier 2上位の物理特化。伊達じゃないな。

 僕のバリアを力技で破るとは、中々力強いね。フィジカル特化か。


 ドォォォォォン!!


 衝撃波が駐車場を駆け抜け、背後のトラックが横転した。

 土煙が舞う。


「ヒャハハ! やったか!?」


 カシマが手を叩く。


「呆気ないものです。……やはり人間など脆い」


 アルカードが冷ややかに呟く。


 だが。

 土煙が晴れたそこには。


「……なんじゃ?」


 剛力鬼が、呆けたような声を出した。

 彼の拳は、確かに僕を捉えていた。

 だが僕は潰れていなかった。

 吹き飛んでもいなかった。


 僕は左手一本で――剛力鬼の巨大な拳を受け止めていた。


「嘘……だろ?」


 剛力鬼がさらに力を込める。

 だが僕の手は、ビクともしない。

 蟻が象を受け止めているような、理不尽な光景。


「うん。合格」


 僕は剛力鬼の拳を握ったまま、ニッコリと笑った。


「コピーさせてもらうわ」


「あ……?」


 剛力鬼は理解できていない。

 なぜ9歳の子供が、Tier 2の怪力を真正面から受け止められるのか。

 答えは簡単だ。

 僕がバリアを破られた瞬間に『身体強化ブースト』を最大出力で発動させ、さらに接触した瞬間に衝撃を殺す技術(六式家古武術)を使ったからだ。

 それでも、骨がきしむくらいの重さはあったけどね。


「な!? てめぇ何をした!?」


「何をしたって……」


 僕は小首をかしげる。


「僕の能力、知らないの? 『コピー』だよ」


 ピロン。

 脳内で、インストールの完了音が鳴る。


 【獲得:剛力鬼の『怪力乱神(S)』および『金剛皮(A)』】

 【最適化:開始】


「だから、君の能力『剛力』を、そのままコピーしたってわけ」


 ***


「ふざけんな! 俺様の力が、そんな一瞬で……!」


 剛力鬼が激昂し、もう片方の腕を振り上げる。

 だが遅い。

 さっきまでは速く見えたその拳が、今は止まって見える。

 なぜなら僕の身体能力ステータスが、彼と同等……いや、最適化されて「以上」になったからだ。


「力任せに振り回すだけ。……芸がないね」


 僕は握りしめていた、彼の左手を軽く捻った。


 バキボキッ!!


「ギャアアアアッ!?」


 剛力鬼の悲鳴。

 鋼鉄よりも硬いはずの骨が、飴細工のようにねじ切れる。

 『金剛皮』同士の衝突。

 だが僕には、そこに『柔術』のことわりが加わっている。


「格闘術で圧倒するって、こういうことだよ」


 僕は、よろめく巨体の懐に、滑るように潜り込む。

 小さな拳を握りしめる。

 そこに込めるのは、今コピーしたばかりの『怪力』。

 さらに、僕が元々持っていた『身体強化』。

 『念動加速』。

 『重力付加』。

 全部乗せ(フルコース)だ。


「教育してあげる。……力っていうのはね、こうやって点に集中させるんだ」


 ドンッ。


 軽い音だった。

 僕の拳が、剛力鬼の鳩尾みぞおちに触れた音。

 だが、その一瞬後。


 ドゴォォォォォォォォォン!!!!


 剛力鬼の背中から衝撃波が突き抜けた。

 彼の背後の空間が歪み、遥か後方の駐車場のフェンスが吹き飛ぶ。


「カハッ……」


 剛力鬼の目が飛び出し、口から大量の血と内臓の破片を吐き出す。

 彼の自慢の筋肉鎧は表面は無傷だったが、内部が完全にミンチになっていた。

 浸透勁しんとうけい

 武術の奥義を、Tier 2の怪力で放った結果だ。


「ななんだ……それ……」


「終わり?」


 僕は冷淡に告げる。

 剛力鬼の膝が折れる。

 その体から力が抜けていく。

 いや、存在そのものが崩壊を始めている。

 コアを粉砕された怪異の末路だ。


「俺は……最強の……はずなのに……」


「うん。強かったよ、筋力ステータスだけは」


 僕は、崩れ落ちる巨体を、ゴミを見るような目で見下ろした。

 剛力鬼の体は黒い灰となってサラサラと崩れ落ち、夜風に消えていった。


 ***


 静寂。

 さっきまでの喧騒が嘘のように、駐車場は静まり返っていた。


 残された妖魔たち――カシマ、アルカード、その他数名――は、言葉を失っていた。

 彼らは、理解できないものを見た顔をしていた。

 仲間内で最もタフで、最もパワーがあった剛力鬼が。

 一撃も当てられず(バリアを割ったのはノーカンだ)、逆に力負けして殺された。

 それも、たった9歳の子供に。


「……バカな」


 アルカードが、初めて動揺を見せた。

 彼は知っていたはずだ。八咫烏の『最高傑作』だと。

 だが想定していたのは「強力な魔法使い」か「特殊な異能者」だったはずだ。

 まさか肉弾戦で鬼を圧倒するとは、計算外だっただろう。


「コピー能力……。あそこまでの精度と出力で、即座に模倣するなど……あり得ない」


 カシマも、引きつった笑みを浮かべて後ずさる。

「美味そうな魂」だと思っていたものが、喉に詰まるどころか、顎ごと食いちぎりに来る「爆弾」だったと気づき始めたようだ。


 僕はポケットからハンカチを取り出し(アルマーニ製だ)、拳についた剛力鬼の体液を丁寧に拭き取った。

 そして、凍りついた観客たちに向かって、ニッコリと微笑みかける。


「さて、準備運動は終わり」


 僕はハンカチを捨て、一歩踏み出す。

 それだけで、妖魔たちがビクリと肩を震わせた。


「消滅する剛力鬼を見て、感想はどう? 革命を起こすんじゃなかったの?」


 挑発。

 だが彼らは容易には動けない。

 僕という「底知れない深淵」を、覗き込んでしまったからだ。


「……チッ。舐めるなよ、人間風情が」


 アルカードが、プライドを振り絞って牙を剥く。

 彼の周囲に、無数の血の槍が出現する。

 カシマも姿をブレさせて、臨戦態勢をとる。


 いい度胸だ。

 そうでなくては面白くない。

 僕は、剛力鬼から奪った『怪力』の感覚を確かめるように、拳を握りしめた。

 うん、悪くない。

 これでしばらくは、身体強化のコストを節約できそうだ。


「で、次は誰がくる?」


 僕は楽しそうに、獲物を品定めする視線を向けた。


「まとめてでもいいよ? どうせ全員、僕の経験値エサになるんだから」

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