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異能者に転生したから現代最強を目指してみる ~僕以外、全員モブってことでいいよね?~  作者: パラレル・ゲーマー


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第11話

 この世界には『表』と『裏』がある。

 人間たちが、煌びやかなネオンの下で経済活動を営み、笑い、泣き、死んでいくのが表の世界だとすれば、その薄皮一枚隔てた向こう側には、決して交わることのない深淵が広がっている。


 場所は、日本のどこでもない。

 座標にして深層次元。

 かつて『大江山』や『黄泉比良坂よもつひらさか』と呼ばれた概念的な領域の、さらに奥底。


 そこには巨大な円卓があった。

 物理的な家具ではない。強大な重力と魔力が渦を巻き、自然と円形に削り取られた岩盤だ。

 その周囲に、異形の影たちが座している。


 彼らは「怪異」ではない。

 「妖魔」や「妖怪」という安っぽいカテゴライズすら、彼らを表現するには軽すぎる。

 ここにいるのは、数百年、あるいは数千年の時を生き、人の世のルールを嘲笑う、正真正銘の『怪物』たちだ。


 アークの定める脅威度分類において、Tier 2(国家戦略級)以上。

 中には、世界そのものを書き換えるTier 0(規格外)に片足を突っ込んでいる存在すら混じっている。


「――して、定刻か」


 口火を切ったのは、闇そのもので構成されたような巨体を持つ影だった。

 『黒雨こくうの御前』。

 平安の世より都を恐怖に陥れてきた、天候操作と疫病の権化。Tier 1の上位に位置する大妖だ。


「人間どもが、また調子に乗っておるようでな。東京の結界濃度が上がっておる。呼吸がしづらくて敵わん」


 黒雨の声は、雷鳴のように低く、岩盤を震わせた。


「キャハハ! ほんとそれ! 最近のエージェント武装がガチすぎない? こないだウチの可愛い眷属ペットが、科学兵器で消し炭にされたんだけど!」


 甲高い笑い声を上げたのは、十二単じゅうにひとえを崩して着た絶世の美女。

 ただし、その背中からは九つの黄金の尾が揺らめいている。

 『九尾の狐・玉藻たまも』の分霊にして、現代の歓楽街を支配する女帝。


 彼らは退屈していた。

 そして同時に、苛立っていた。


 かつて夜は彼らのものだった。

 人間は彼らを恐れ、生贄を捧げ、神として崇めた。


 だが今はどうだ。

 科学と、八咫烏ヤタガラスと、マジェスティック。

 人間たちは「力」を持ち、あろうことか「狩る側」に回ろうとしている。


「……そろそろ、ひっくり返すべきではありませんか?」


 静寂を破ったのは、軍服のような衣装を纏った男だった。

 肌は青白く、口元からは鋭い牙が覗いている。

 『吸血公ヴァンパイア・ロード・アルカード』。

 西洋から渡ってきた比較的新しい世代の怪異だが、その実力はTier 2の中でも頭一つ抜けている。


「我々は、隠れ住む鼠ではない。この星の食物連鎖の頂点だ。人間ごときに怯え、結界の隙間で息を潜めるなど……屈辱以外の何物でもない」


 アルカードがテーブルを叩く(叩かれた岩盤が、瞬時に腐食して砂になった)。


「世界をひっくり返しましょう。東京を火の海にし、人間どもを家畜小屋に戻すのです。我々が手を組めば、造作もないことでしょう?」


 勇ましい提案。

 若手(と言っても300歳だが)の過激な意見に、数名の武闘派の妖魔たちが頷く。


「そうだそうだ! 食い散らかしてやろうぜ!」

「俺様の金棒が、血を欲してるんだよ!」


 殺気が膨れ上がる。

 この場にいる怪異たちが一斉に蜂起すれば、確かに東京どころか日本全土が、数日で壊滅するだろう。

 それだけの暴力がここにはある。


 だが。


 円卓の最上座。

 最も深く、最も濃い闇の中に鎮座していた『長老』が、ひとつため息をついた。


「……愚か者が」


 その声が響いた瞬間、騒いでいた妖魔たちが、氷漬けになったように静まり返った。

 物理的な威圧ではない。

 「格」の違い。

 存在としての質量が違いすぎて、逆らうという概念すら浮かばないのだ。


 『大賢者だいけんじゃ』。

 あるいは『山の主』。

 正体不明、年齢不詳。

 ただ、日本という国が生まれる前から、そこに「いた」とされるTier 0級の怪物。


「ひっくり返すだと? ……若造が。お主の言う『勝利』とはなんだ? 今日明日に人間を殺し尽くすことか?」


 大賢者は、枯れ木のような指で虚空をなぞる。


「人間とは雑草のようなものだ。刈っても刈っても生えてくる。しかも、危機に瀕すれば瀕するほど、異常な進化を遂げる」


「しかし長老……!」


「黙れ」


 一喝。

 アルカードが喉を押さえて後ずさる。


「よいか。我々の寿命は無限に近い。10年20年など、瞬きの一瞬だ。……勝つならば、完全なる勝利でなくてはならん」


 大賢者は、濁った瞳で円卓を見回した。


「焦る必要はない。人間社会のシステムに食い込み、経済を操り、精神を腐らせ、自滅を待つ。……1000年後に勝っていれば、それで良いのだ」


 1000年。

 その気の遠くなるような数字に、若手の怪異たちがどよめく。


「せ、1000年!?」

「そんなに待てるかよ! 俺は今すぐ腹が減ってんだ!」


「はっ、人類なんぞ滅ぼそうぜ? 俺らが本気出せば一瞬だろ」


 声を上げたのは、剛力自慢の鬼神だった。

 彼は自分の筋肉を誇示するように叫ぶ。


「核兵器? 効かねぇよ。八咫烏? プチっと潰してやる。……ばーか、人間達も強いぜ? とかビビってんのは、爺さんたちだけだろ!」


 挑発。

 空気が凍る。


 だが大賢者は怒らなかった。

 ただ、哀れむような目で鬼神を見た。


「……ほう。人間が弱いか」


 大賢者は、誰にともなく問いかけた。


「では、誰かあの愚か者に教えてやれ。……Tier 0の人間が、現在世界に何人いるかを」


 その単語が出た瞬間。

 場を支配していた攻撃的な空気が、一瞬にして「恐怖」へと塗り替わった。


 Tier 0。

 怪異側にもTier 0はいる。大賢者がそうだ。

 だが人間側のTier 0は……意味合いが違う。

 あれは「理不尽」そのものだ。


「……20人よ」


 九尾の狐・玉藻が、扇子で口元を隠しながら、忌々しそうに呟いた。


「アークに所属する『神々の円卓』。……現在確認されているだけで、20人の化け物がいるわ」


「20人……」


 鬼神が絶句する。


「そうよ。あいつらは人間じゃない。人の皮を被った災害よ。……惑星ほしを割る重力使い、歴史を改竄する呪言使い、死という概念を消滅させる聖女……」


 玉藻の狐耳が、恐怖でぺたりと伏せられる。


「あいつらが動けば、私たちが束になっても消し飛ぶわ。……1000年前に封印されたあの大妖怪も、500年前に大陸を支配したあの魔王も、結局は『たった一人』の人間のTier 0に狩られたのよ」


 沈黙。

 重苦しい沈黙が、場を支配する。


 そう。

 彼らが表舞台に出てこない理由。

 それは、八咫烏が怖いからでも、科学兵器が怖いからでもない。


 ただ「調子に乗って暴れたら、アークの『神』が出てくる」という一点の恐怖によるものだ。


「20人いるアイツラを、どうにかしないと無理だろ?」


 黒雨の御前が、低い声で事実を突きつける。


「我々が全面戦争を仕掛ければ、アークは『惑星防衛』の名目で介入してくる。そうなれば終わりだ。我々は絶滅する」


「だからこそ潜伏し、力を蓄え、奴らが寿命で死ぬのを待つのだ。……まあ、奴らが寿命で死ぬかどうかは怪しいがな」


 大賢者の言葉に、誰も反論できなかった。


 人間は弱い。

 だが、その中から生まれる「特異点」だけは、神話の怪物すら凌駕する。


 それが、この世界の歪なバランスだった。


「……なら、食えばいいじゃねぇか」


 重苦しい空気を破ったのは、円卓の末席に座っていた一人の若い妖魔だった。

 パーカーのフードを被り、スマホをいじっている少年のような姿。

 『都市伝説アーバン・レジェンド・カシマ』。

 現代人の恐怖から生まれた、新種の怪異だ。


「とりあえず目ぼしいヤツを食って、力を付ければいい。そうだろ?」


 彼はスマホの画面をタップしながら、軽い口調で言う。


「Tier 0が怖い? なら、そいつらが育つ前に食っちまえばいい。Tier 3とかTier 4の才能あるガキを片っ端から襲って、俺らの血肉にする。そうすりゃ俺らもレベルアップするし、人間側の戦力も削げる。一石二鳥じゃん」


 カシマは、自分のアイデアを画期的だと信じているようだった。

 確かに論理的には間違っていない。

 敵の芽を摘む。基本戦術だ。


「……はぁ」


 だが返ってきたのは、大賢者の深いため息だった。


「これだから近頃の『概念系』は……」


「そうではないのか? 簡単な話だろ?」


「ハハハ、100年生きてねー妖怪風情がいいやがる。……単純なことじゃねーんだよ、ボウズ」


 笑ったのは、全身が刃物で出来た鎌鼬かまいたちの大妖怪だった。


「お前、人間を『ただの餌』だと思ってんだろ? スーパーに並んでる肉と同じだと」


「違うのかよ」


「違うね。……人間ってのはな、『毒』を持ってんだよ」


 鎌鼬は、自身の欠けた刃を撫でる。


「才能ある人間……特に『世界に変革をもたらす器』を持ったガキを食うということは、世界の因果律シナリオに喧嘩を売るってことだ。そんなことをすれば、世界そのものが『抗体』を生み出し、俺たちを排除しに来る」


「抗体……?」


「ああ。例えば偶然通りがかったTier 1のエージェントとか。たまたま封印が解けた古代兵器とか。……あるいは『食ったはずのガキが腹の中で覚醒して、逆にお前を食い破る』とかな」


 大賢者が引き取る。


「人間の可能性を甘く見るな。奴らは追い詰められれば、理屈を超えて進化する。……無闇に手を出せば、藪蛇をつつくことになるのだ」


 大賢者の目は、過去の苦い記憶を見ているようだった。


 かつて多くの妖魔が「将来有望な子供」を狙い、そして返り討ちに遭って消滅した。

 物語の悪役が、勇者の幼少期を狙って失敗するのと同じ理屈だ。


 この世界には『主人公補正』に近い因果の加護が存在する。

 老獪な怪異たちは、それを肌感覚で知っているのだ。


「100年にも満たん若造が、知ったような口を利くな。……我々の悲願は『生存』であり『支配』だ。『自滅』ではない」


 大賢者の威圧に、カシマは舌打ちをして黙り込んだ。

 だがその目は、納得していなかった。


 古い。

 臆病だ。


 そんな感情が、彼のフードの下で渦巻いていた。


「……本日の会議はこれまでとする。各自潜伏し力を蓄えよ。決して軽挙妄動は慎むように」


 大賢者の宣言により、円卓の灯火が一つずつ消えていく。

 影たちが闇に溶け、それぞれのテリトリーへと帰還していく。


 世界をひっくり返すための会議。

 だがその結論は、いつものように「現状維持」だった。


 会議が終わり、主要な大物たちが去った後。

 深層次元の片隅にある、歪んだ路地裏のような空間に、数人の怪異が残っていた。


 先ほどの『都市伝説・カシマ』。

 血気盛んな『剛力鬼』。

 そして『吸血公・アルカード』。

 さらに数名のTier 2クラスの好戦的な妖魔たち。


「……ケッ。あの大賢者のジジイ、ボケてんじゃねぇのか?」


 剛力鬼が、近くにあった岩を握りつぶしながら悪態をつく。


「1000年待てだぁ? そんな頃には俺たちの方が干からびちまうよ。俺は今すぐ暴れてぇんだ」


「同感だね。……臆病風に吹かれすぎだよ、あの人たち」


 カシマがフードを脱ぐ。

 その下にはのっぺらぼうの顔があり、口だけが裂けて笑っていた。


「Tier 0が怖い? 因果が怖い? ……やってみなきゃ分かんないじゃん。俺たちは新しい怪異だ。古い連中の常識なんて通用しない」


 彼らの視線が、中心に立つアルカードに集まる。

 この中では最も格が高く、知性も高い吸血鬼の貴族。


「アルカード、あんたはどう思う? このままジジイたちの言いなりになって、地下でカビ臭い血を啜り続けるのか?」


 アルカードは優雅にマントを翻した。

 その赤眼が、妖しく輝く。


「……まさか。私は誇り高き夜の眷属。家畜(人間)に怯えて暮らすつもりはありません」


 彼は懐から一枚の写真を取り出した。

 八咫烏のデータベースから盗み出した盗撮写真。


 そこに写っているのは、東京の街を歩く一人の少年の姿だった。

 アルマーニのスーツを着た、生意気そうなガキ。


「はっ、臆病者達をほっておいて、俺等だけで狩ろうぜ。……で、誰だそいつは? 美味そうなのか?」


 剛力鬼が写真を覗き込む。


六式ろくしき うつろ。……八咫烏が隠し持っている『最高傑作』だそうです」


 アルカードが舌なめずりをする。


「まだ8歳か9歳。ですが、その魂の輝きはTier 1……いや、将来のTier 0候補と言っていいでしょう。大賢者殿が恐れる『特異点』そのものです」


「へえ……。上等じゃん」


 カシマが笑う。


「そいつを食えば、俺たちはレベルアップできる。ジジイたちが言う『因果のしっぺ返し』なんて、来る前に最強になっちまえば関係ないだろ?」


「その通りです。強い人間とか企む輩を、先に潰す。……それが狩りの基本」


 彼らの間で意思が統一された。


 古い掟を破る。

 八咫烏の心臓部である東京に潜入し、その未来の希望(六式 虚)を摘み取り、その力を我が物とする。


 それは大賢者が最も忌避した「藪蛇」の行為だったが、彼らの欲望と自信はその警告を無視させた。


「狙うは東京。ターゲットは六式 虚」


 アルカードが宣言する。


「我ら『新世代ニュー・ウェーブ』の手で革命を起こしましょう。……まずは手始めに、そのガキの首を掲げ、八咫烏に宣戦布告といこうではありませんか」


「ヒャハハ! いいねぇ! 血祭りだ!」

「俺の伝説レジェンドの始まりだ!」


 闇の中で邪悪な哄笑が響き渡る。


 彼らは知らない。

 自分たちが狙おうとしている「獲物」が、彼らの想像を遥かに超えるとんでもない「贋作の怪物」であるということを。


 そして、自分たちがこれからその怪物への「経験値エサ」としてデリバリーされようとしていることを。


 夜が深まる。

 西からの風に乗って、あるいはインターネットの回線に乗って、悪意の群れが東京へと動き出した。

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