表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能者に転生したから現代最強を目指してみる ~僕以外、全員モブってことでいいよね?~  作者: パラレル・ゲーマー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

第10話

 9歳になった。小学三年生だ。

 世間一般の同級生たちがリコーダーの指使いや、割り算の筆算に苦戦している頃。

 僕は地下訓練場『鳥籠』で、もっと複雑で命に関わる計算式と格闘していた。


「――らぁッ!!」


「遅い」


 ドォォォォォン!!


 爆音。

 目の前から迫ってきたのは、Tier 3の『爆炎使い』のエージェントだ。

 彼が放った火球が、僕の目の前数センチで見えない壁に阻まれて弾け飛ぶ。


「なっ、またか!? 直撃コースだったぞ!」


「惜しいね。タイミングは完璧だったけど、貫通力ペネトレーションが足りないよ」


 僕はポケットに手を突っ込んだまま、一歩も動かずに攻撃を受け流した。

 煤汚れ一つついていない。

 僕の周囲50センチ。そこには今、極薄だが高密度の『念動力障壁サイコ・バリア』が展開されている。


「囲め! 障壁の維持で手一杯のはずだ!」


 背後から、別のエージェントが斬りかかってくる。

 さらに頭上からは、風使いによる真空の刃が降り注ぐ。

 三方向からの同時攻撃。


 普通なら、防御を一点に集中させるか、回避行動を取る場面だ。


 だが、僕は動かない。

 脳内のCPU(思考領域)をフル回転させる。


 プロセス1:『念動力障壁』の全方位維持。強度均一化。

 プロセス2:敵の位置情報の更新。3Dマップ展開。

プロセス3:反撃術式の構築。選択――『重力操作』。


(……キッつ。脳味噌が焼ける)


 こめかみに血管が浮くのを感じる。

 防御を維持したまま、別の攻撃魔法を行使する。

 口で言うのは簡単だが、これは「右手で円を描きながら、左手で四角を描き、同時に口で般若心経を唱える」ような作業だ。

 神経が削れる音が聞こえるようだ。


 だが、やる。


「――『排斥リジェクト』」


 カッ!!!!


 僕を中心に、紫色の重力波が全方位へ炸裂した。


「ぐわぁぁぁぁっ!?」

「バリアを張りながら、広範囲攻撃だと!?」


 三人のエージェントが木の葉のように吹き飛ばされ、壁に激突する。

 勝負ありだ。


「ふぅ……」


 僕は大きく息を吐き、額の汗を拭った。

 障壁は解除しない。


 戦闘が終わっても、呼吸をするように、心臓を動かすように、無意識レベルで『念動力』を維持し続ける。


「……だいぶ馴染んできたな」


 最近の課題。

 それは『念動力バリアの常時展開』だ。


 寝ている時も、風呂に入っている時も、常に薄い膜で全身を覆い続ける。

 オート・ガード機能の実装だ。


 最初は頭痛が酷くて夜も眠れなかったが、一ヶ月も続ければ脳が適応してきた。

 今では意識のリソースを5%程度割くだけで維持できる。


「この状態で他の能力を使いつつ、大出力の能力を使えるようになるのが目標だけど……」


 僕は自分の手を見つめる。

 さっきの『重力操作』は、威力にして通常の6割程度。

 防御にリソースを食われて、攻撃の出力が落ちている。


 流石に大出力の能力(Tier 2クラスの極大魔法など)との併用はまだ無理だ。

 もしやろうとすれば、脳のヒューズが飛んで廃人コースだろう。


「まあ、名実ともに『最強(仮)』扱いになって来たから、敵はいないけどね」


 現状、僕の防御を貫けるのは、Tier 1クラスの猛者か、Tier 2の上位個体くらいだ。

 そしてそんな相手が出てきても、僕には『万象模倣』がある。

 相手の最強の矛をコピーして、同じ矛で殴り返せばいい。


「……とはいえ、借り物の力じゃ限界があるのも事実か」


 僕は苦笑する。


 例えばソウジさんの剣術。

 動き(モーション)は完コピできる。

 だが、彼が何十年もかけて練り上げた『剣気』や『間の取り方』といった、目に見えない経験値(熟練度)までは完全には再現できない。


 同じ技を使えば、オリジナルの方が僅かに強い。

 だからこそ僕は「複数の能力を組み合わせる(コンボ)」か、「基礎スペックの底上げ」で勝つしかないのだ。


 休憩スペース。

 僕はプロテイン入りのココアを飲みながら、タブレット端末で「ある極秘資料」を読んでいた。

 八咫烏のアーカイブからハッキングした、S級禁書指定の術式理論だ。


 『元素体化エレメンタル・ボディ』。


 肉体そのものを、魔力によって構成された「元素エネルギー」へと変換する奥義。

 ONE PIECEで言うところのロギア系能力。

 これさえマスターすれば、物理攻撃は完全に無効化される。


 斬撃も銃弾も打撃も、すべて僕の体をすり抜けるようになる。


「……難しいな、これ」


 僕は眉間にシワを寄せる。


 理論は分かる。

 自分の肉体の構成情報(DNA、タンパク質、水分)を一度分解し、指定した属性(火、水、雷など)の魔力配列に置換する。

 そして意識だけでその形を維持し、必要に応じて肉体に戻す。


 一歩間違えれば、人間に戻れずに霧散して死ぬ。

 あるいは、意識が元素に溶けて自我が消滅する。


 ハイリスク・ハイリターンすぎる技術だ。


「試しに、指先だけ……」


 僕は左手の人差し指に集中する。

 属性は『雷』。


 指の細胞をイメージの中で解きほぐし、電子の揺らぎへと変換する――。


 バチッ!!


「ったぁっ!!」


 激痛が走った。

 指先が焦げている。


 変換に失敗し、自分の魔力で自爆したのだ。

 すぐに『再生リジェネ』を発動して治すが、ジンジンとした痺れが残る。


「まだ無理か……」


 肉体を捨てるというのは、生物としての根本的な恐怖を乗り越えなきゃならない。

 今の僕にはまだ、『念動力バリア』という物理的な盾の方が性に合っているらしい。


「まあ、今はバリアの常時使用が安定してきたし、焦ることはないか」


 マスターするべきことは山積みだ。

 伸び代があるというのは、ゲーマーとして喜ぶべきことだ。

 カンストしてやる事がないよりは、ずっとマシだ。


 午後。

 僕は訓練場の一角にある、初心者用の講習エリアにいた。

 最近僕はここで、新しい「副業」を始めている。


「――はいそこ。イメージが散漫してるよ。もっと魔力を一点に絞って」


「ははいッ! すみません、六式先生!」


 直立不動で頭を下げるのは、20歳そこそこの青年だ。

 彼は最近覚醒したばかりのTier 4(潜在的脅威)。

 能力は『発火能力パイロキネシス』だが、制御ができずに自分の服を燃やしてばかりいる落ちこぼれだ。


「君の悪い癖はね、『火を出そうとしすぎてる』ことだ。火は結果であって、過程じゃない」


「ははあ……?」


「見てて」


 僕は指を鳴らす。

 『万象模倣』発動。


 彼の発火能力をコピーし、さらに僕の演算能力で最適化アップデートする。


 ボッ。


 僕の掌の上に、美しい球体をした炎が浮かび上がる。

 揺らぎもしない。まるでガラス細工のように安定した炎だ。


「すすげぇ……。俺の能力と同じはずなのに、なんでこんなに綺麗なんですか?」


「酸素の供給量をコントロールしてるからだよ。君はガソリンをぶち撒けて火をつけてるだけ。僕はガスコンロのつまみを調整してる。……この感覚、共有するから覚えて」


 僕は炎を彼に近づける。

 そして言葉だけでなく、魔力の波長を通じて「制御のイメージ」を直接伝達する。


 コピー能力者だからこそできる『模範解答の提示』だ。


 普通の教官は「気合だ」とか「丹田に力を」とか抽象的なことしか言わないが、僕は「正解のデータ」を見せることができる。


「あっ……分かった! こういう感じか!」


 青年が目を輝かせる。

 彼の手元にも、先ほどよりずっと安定した小さな炎が灯った。


「そう、それ。忘れないうちに100回繰り返して」


「はいッ! ありがとうございます!」


 青年は感動した様子で、練習に戻っていった。


 続いて、隣にいた女子高生(風使いの新人)が手を挙げる。


「六式せんせー! あたしのかまいたち、全然飛ばないんですけどー!」


「君は出力不足。筋トレが足りない。あと風の刃を薄くしすぎ。もっと分厚く、ナタみたいなイメージで撃ってみて」


 僕は彼女の能力をコピーし、見本として訓練用マネキンの首をスパンと飛ばして見せる。


「うわエグっ。……でもイメージ湧きました!」


 そう。

 僕は最近、八咫烏の新人教育係も兼任している。


 理由は簡単。

 「教えることは学ぶこと」だからだ。


 他人の能力をコピーし、それを解析し、より良く使う方法を考える。

 そして、それを言語化して伝える。


 このプロセスは、僕自身の『万象模倣』の精度を飛躍的に高める。


 彼らは生徒であり、同時に僕の実験台モルモットであり、生きた教科書でもあるのだ。


 それに評判も上々だ。


 「六式先生の指導は分かりやすい」

 「天才の視点をインストールできる」


 と、予約待ちが出るほどの人気講義になっている。


 9歳児に頭を下げる大人たちを見るのは、まあ悪い気分ではない。


 夕方。

 講義を終えた僕はスーツに着替えて、別の現場に向かっていた。

 今度は「先生」ではなく、「護衛」の顔だ。


 場所は赤坂の高級ホテル。

 政財界のVIPが集まるパーティー会場。


 僕の護衛対象は、以前命を救った烏丸議員だ。


「やあ虚くん。今日も頼もしいな」


「どうも。……今日は少しきな臭いですね」


 僕はシャンメリーのグラスを片手に、会場を見渡す。


 煌びやかなドレスやタキシードに身を包んだ人々。

 だがその中には、明らかにカタギじゃない「魔力」を纏った連中が混じっている。

 海外のマフィアか、あるいは対立政党が雇った傭兵か。


「先生、あまり窓際には立たないでください。今日は『虫』が多い」


「ふむ。分かった」


 烏丸氏は素直に下がる。


 その直後だ。


 パリンッ!!


 窓ガラスが砕け散り、数体の黒い影が飛び込んできた。

 『式神』だ。


 紙や呪符で構成された、人工の暗殺者。

 会場に悲鳴が上がる。


「キャアアアア!」

「な、何だあれは!?」


 SPたちが拳銃を抜くが、式神の動きは速い。

 天井を這い回り、鋭利な爪で烏丸氏に殺到する。


「――おイタが過ぎるよ」


 僕はグラスを置くのと同時に、能力を解放した。


「『重力操作』――【ダウン】」


 ズドンッ!!


 会場の重力が、局所的に10倍に跳ね上がる。

 空中の式神たちが、見えない手で叩き落とされたように床にへばりつく。


 ビタンッ、ビタンッ!


 紙の体が重さに耐えきれず、ベリベリと裂けていく。


「ななんだ!?」

「動けない……!」


 式神だけではない。

 会場に紛れ込んでいた術者(操り手)たちも、重力に捕まって膝をついていた。


 一般客には影響がないよう、ピンポイントで敵対者だけを識別して重力をかけたのだ。

 これも日々のマルチタスク訓練の成果だ。


「はい、確保」


 僕は指を鳴らす。


 床に這いつくばった術者たちの前に、念動力で拘束具(近くにあったカーテンコード)を巻き付け、芋虫のように縛り上げる。


 戦闘時間3秒。

 グラスのシャンメリーが泡立つ間もない早業だ。


「すすごい……」

「あれが六式家の……」

「現代最強の子供……」


 招待客たちの視線が集まる。

 畏怖。称賛。そして媚びへつらい。


 彼らは理解しただろう。

 この会場で一番権力があるのは、政治家でも財閥の長でもなく、この9歳の子供なのだと。


「……ふん」


 僕は鼻を鳴らす。


 この程度の雑魚、コピーする価値もない。

 式神使いの術式も、お粗末な三流品だ。


「先生、片付きました。デザートの時間には間に合いますよ」


「カッカッカ! さすがだ。君を敵に回さなくて本当に良かったよ」


 烏丸氏が笑いながら、僕の肩を叩く。


 帰りの車中。

 僕は窓の外を流れる東京の夜景を眺めながら、今日の戦闘データを脳内で反芻していた。


(重力制御の精度は上がってる。マルチタスクも問題なし。……でも)


 満足はしていない。

 今日の敵は弱すぎた。

 Tier 3程度なら、もはや準備運動にもならない。


「……足りないな」


 呟く。


 僕は「最強(仮)」だ。

 周囲は僕を「現代最強」と持ち上げるが、それは僕が『Tier 1の能力をコピーできるから』だ。

 つまり、僕の強さは「他人の強さ」に依存している。


 もしコピー元がいない無人島で、オリジナルのTier 1と戦ったら?

 もし初見で対処不能な『ことわり』を持つTier 0と遭遇したら?


 勝てるか?

 今のままじゃ怪しい。


「やっぱり『元素体化』は必須だ」


 物理無効。

 それは防御の最終形であり、人間を辞める第一歩だ。


 それを習得して初めて、僕は「借り物の最強」から「真の最強」へと進化できる気がする。


「……帰ったらまた練習するか」


 指先の痺れを思い出しながら、僕は拳を握りしめた。


 9歳。

 人生はまだ長い。

 だが世界は、僕が大人になるのを待ってくれないかもしれない。


 京都の動き、マジェスティックの干渉、そして未だ見ぬTier 0の神々。


 焦燥感と、それ以上の高揚感。


 僕はシートに深く体を預け、目を閉じた。

 瞼の裏には、いつか到達するべき「完成された自分」の姿が、ぼんやりとだが浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ