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――文句を言っても解決しないよ。
そうだな。
――では、どうする。
書くしかないな。
――ならば書け。
また簡単に言う。
――書きたいことがあるのなら書くのは簡単だろう。
確かに苦労はしない。
――だがそれは人のためのモノじゃない。
とは言いきれないだろう。
――かもしれんが、真実を含む。
それならば曝せ、と。
――曝す事実があるのならばな。
ないわけじゃないが、過去を振り返って見えるのは小説を書いている自分の姿だけさ。
――格好をつけるな。
事実そうだよ。
――だが友だちと遊びもすれば、学校に通ってもいただろう。
そこは人並みに……。
――生徒や学生のときは楽だったか。
友だちが苦労せずに出来たからな。
――昨今は出来ない子たちもいるよ。
それは事実だろうが、件数以上に大きく取り沙汰されている部分もある。
――情報発信が身近になったと。
自ら発信するのは誰かに認めてもらいたいからだろう。
――それだけか。
まず構って欲しいというコアがあるはずだ。
――無視は辛い。
苛められた方がまだマシという選択肢もあるぞ。
――おまえが小学生のときにも苛められっ子がいたな。
本人はそう思っていなかったはずだが……って言うか、知っていたのか。
――苛められるのは、苛められっ子のアイデンティティー確保策だな。
他のコミュニケーション方法がない場合は……。
――悲しいぞ。
同情は他人の特権だ。
――厳しいな。
せっかく金持ちの家に生まれたのに、それを利用する知恵が足りなかった。
――酷い言い方だな。
外れてはいないよ。
――ウチは貧乏だった。
確かに……しかしあなたが左翼系の出版社に勤めていた頃は、わたしの数倍の給与を貰っていたはずだ。
――おまえの給与が安いのさ。
中小で理系で昇格試験を受けなければ、こんなものだろ……。
――受ければいいんだ。
会社の存在はわたしにとって作家になる前の腰掛だから、いつでも止められるように受けないんだよ。
――律儀だな。
あなたに似たに違いない。
――それまで、おれのせいにするのか。
いや、決めたのはわたしだ。
――バカだな。
知ってる。
――友だちどころか、社会的な知り合いまでも無くすぞ。
既にいないよ、コミュニケーションを取るのが苦手なんだ。
――昔のおまえは人気者だった。
単なる幻想さ。
――種々の事実が残っている。
周りが盛り上げくれたお陰だよ。
――お遊戯会やお楽しみ会では中心人物を務めたぞ。
人形や小道具を作るのが好きだっただけだ。
――いつも盛り上がりのきっかけになった。
そんなことはないよ。
――おまえが出した企画やアイデアはかなりの確率で採用された。
他の子たちが意見を出さなかったんだ。
――照れるなよ。
照れてはいない、今と同じだ。
――ならば、それを生かせ。
箍が外れた話を選ぶ審査員が何処にいる。
――それは、何処かにはいるはずだ。
西田哲学を物理論理として世界を構築した話は、ほとんど誰にも理解してもらえなかったぞ。
――ストーリィ自体が面白くなかったんだろう。
ストーリィが面白くないアイデア系のお話はいくらでもあるよ。
――それでこんなところをウロついているのか。
誰にも似ていないお話はもう沢山。
――見せる努力の方が大切ではないのか。
別の分野で修行してから戻ってくるよ。
――ほう。
どの道、エンタメ系は向いていないんだ。
――かもしれんな。
ジャンルは本当に好きな人がやればいい。
――おまえはどうする。
わたしが好きなのは小説を書く、そのことだよ。
――ならば売れようなんて思わぬことだ。
下世話な話だが、飢え死にする。
――子供もいないし、蓄えだってあるだろう。
今と同じ公団に住み続けようと思えば、定年後一二年でなくなる金額さ。