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 といわれても見当が付かない。

 ――おまえは世間に疎いからな。

 本当に何にも知らないぞ。

 ――定年になったらどうするんだ。

 その先は作家で食って行くさ。

 ――楽観的だな。

 他に何も出来ない/知らない/知りたいとも思えない。

 ――恐くはないか。

 定年前に会社を辞めて路頭に迷ったあなたに言われたくないな。

 ――ぎりぎりの食い扶持は稼いだはずだ。

 バブル期と上手く連動すれば良かったのにな。

 ――紙芝居に弁士だから仕方がない。

 几帳面な字を書けて良かったというサゲか。

 ――あれは、ばあさんの教育だよ。

 息子に才能がないことを知っていたんだろう。

 ――大学とも繋がりがあったから卒業証書を書く仕事がもらえて食い繋げたが、今の時代だったら無理かもしれんな。

 さすがに見分けが付くだろう。

 ――さて、どうだか。

 フォントをf分の1で揺らがせるソフトでもあれば、わからないさ。

 ――それが時代か。

 情緒がないとは言わないのか。

 ――携帯電話も時代の情緒だ。

 物分かりがいいな。

 ――死者だからかな。

 関係ないだろう。

 ――じいさん世代ほど頑なじゃないよ。

 お母さんは携帯電話をを持っていないよ。

 ――おまえもだろう。

 貧乏だからな。

 ――今時、無職だって持ってるぞ。

 友だちがいないからいらないのさ。

 ――寂しいな。

 慣れれば煩わしくなくてスッキリするぞ。

 ――この先も……。

 お母さんが入院したら持つつもりだ。

 ――殊勝だな。

 好きではないが、親は親だ。

 ――お母さんが訊いたら泣くぞ。

 あの人もいつだって助けてくれなかった。

 ――また逆恨みか。

 あなたの母親と一緒だよ。

 ――子供の才能を信じていない。

 自分に才能がないと思っているから。

 ――切絵が上手いのを知っていたか。

 何年か前に見たよ。

 ――感想は。

 技術はあっても、その気になる気がないから個性が出ない。

 ――才能がないとは言わないんだな。

 才能はあると思うよ、ただ本人がそれを信じていない。

 ――あの父親の娘だからな。

 洋裁もそうだし、必要とあれば何でもできるのに、それが才能/才覚だとは認識できない。

 ――生きる才能はあるわけだ。

 ただ一つの間違いがあなたと結婚したことだ。

 ――若気の至りか。

 若い頃のあなたが格好良かったんだろうな。

 ――その上真面目で……。

 信じるよ。

 ――照れるな。

 だがあなたと結婚したのは仕方ないとして、東京に付いて来なければ良かったのに……。

 ――弟が死んだのだから仕方がない。

 プロジェクトXの検証を見る限り、当時もう身体がボロボロだったみたいだな、二十四歳にして……。

 ――テストレーサーの宿命だろう。

 元箱根の峠道。

 ――映画撮影の野次馬を避けて自分からトラックにぶつかって死ぬなんて、アイツらしいよ。

 閉鎖されていた撮影路に何故か紛れ込んだトラックと正面衝突して……。

 ――じいさんが好きなのはアイツの方だったから、すべての望みが絶たれたんだろう。

 その後のマン島レースではホンダが大健闘してるよ。

 ――だが、それで生き返るものでもない。

 じいさんが死んだときにホンダから花輪が届いたときに驚いたな。

 ――そういう会社なんだろう。

 お母さんから聞いたけど、葬式後もダンスパーティーをずっと開いていて、すべてのお金を使い切ったんだって……。

 ――おれの母親はそういう人間だ。

 あなたにもわたしにも一つも遺伝していない。

 ――おまえはじいさんを継いだだろう。

 だから、それを壊したのがあなたなんだよ。

 ――また言いがかりか。

 そう捉えるのは構わないが、素直に理系に進んで、悩むにしても小説のことなんかを考えずに仕事に取り組めたはずのわたしをこっちの世界でウダウダとあがかせる元を作ったのがあなたなんだ。


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