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あなたにしてみれば、わたしは対等以下だろう。
――そんなことはないさ。
謙遜。
――おれには特許は取れんし、理系のこともわからんよ。
その世界に浸かれば大したことじゃない。
――同じ言葉を返そうか。
あなたは人間好きだろう。
――人間嫌いが小説を書くのか。
嫌いというわけじゃないが、似たような誰かが近くにいなかった結果かな。
――前例のないことをやっても誰も認めてはくれんよ。
そうだな、選者の意気込みは別にして……。
――商業出版社が向こう受けしない話をピックアップするはずがない。
親や親戚に有名人がいない場合には。
――僻みか。
いいや、でもそうかも。
――素直になったな。
ストレスはいらないと学んだだけさ。
――辛いと感じるのなら止めれば良い。
書くことそれ自体は楽しいんだ。
――それなら、それで良いじゃないか。
人には煩悩があるんだよ。
――だったら、煩悩は恋愛にしろ。
沢山だ。
――というほど経験豊富とも思えんが……。
あなただって同じだろう。
――根がビビリだからな。
それはわたしも継いでいる。
――ビビリなおもて全方位外交。
親鸞は人によるだろう。
――壁。
知ってる。
――失敗なんて恐くないよ。
だとしてもアレだろう。
――アレとは。
就活中の学生がエントリー先に相手にされず、されてもあっけなく落とされて、弾かれた会社の数が数十件となく増大して絶望する感じか。
――ああ。
世の中におまえは要らない人間だと何度も言われれば、いずれ思い知らされて自信をなくす。
――おまえには居場所があるじゃないか。
会社は腰掛に過ぎないのさ。
――それじゃ楽しいわけがないな。
実験しているときは楽しいよ。
――実験には人が関わらないから。
さて。
――関わった方が楽しいぞ。
そうかもしれないが、時間がない。
――遊べ、遊べ、小説なんて打っちゃておけ。
無責任だな。
――死者だからさ。
今度止まったら、そっちへ行くぞ。
――ビビリだから死ねないよ。
腹が立つ言い方だな。
――多摩川の水は冷たかったか。
セーヌ川ほどじゃ無いな。
――ジョン・ヒューストンは職人だ。
ああ、『赤い水車』のことか。
――いつのことだ。
高校生のときだろうな、きっと、中学の頃はもっと子供だったはずだ。
――場所は。
最後は飛田給駅に行き着いた記憶があるが、西武多摩川線を覚えているから、競艇場近くだったんだろう。
――恐くて止めたか。
最初から死ぬ気なんてない、とわかって止めた。
――お母さんに電話しただろ。
一生の不覚だと思うが、証拠が欲しかったんだ。
――今にして思えば。
今思えば、また違う答もある。
――それ一回だけか。
気づいたんだよ。
――何を。
格好良く言えば、負けるのは嫌だって……。
――バカだな。
知ってる。
――それに頑固だ。
いや、そうでもないよ。
――おれよりは頑固だろう。
同じくらいさ。
――負けると思ってるのはおまえだけだぞ。
そりゃそうだろ、自分のことだ。
――だが相手がある。
懸賞小説に応募する限り、確かにそうだな。