3
――辛いだろう。
そうでもないよ。
――逃げたところで誰も責めない。
本人のことを忘れてるだろ。
――忘れろ、忘れろ。
簡単に言うな。
――実際、簡単だからさ。
死んだヤツの言葉だ。
――その通り。
あなたが埋め込んだ呪縛だよ。
――おれは単なるきっかけだろう。
そうかもしれんが、恨むわ。
――良かったな。
えっ。
――父子の葛藤がないとぼやいていただろ。
お見通しか。
――おれはおまえの想像物だ。
だが憎むほどじゃない。
――憎めば良いさ、どうせ死んでる。
あなた自身は憎まなかったのか。
――ばあさんのことか。
そうだ。
――わからんな。
玩具にされていたくせに……。
――自分で望んでいたのかもしれん。
つまりわかっていた、と。
――わからんはずがないだろう。
就職も世話してくれたし……。
――どんなマジックだったんだか。
あなたがかつて教師をしていた高校は二〇一一年三月末日で廃校になったよ、北海道由仁高等学校として。
――おれがいた頃は農業高校だった。
元々、道立空知農業高等学校の分校だからな。
――そうなのか。
今では大抵のことに調べが付く。
――その分、人情は廃れたか。
さて。
――友だちを作れよ。
今更ね。
――助けてくれるぞ。
あなたの場合はね。
――誰だって同じだ。
子供の頃から友だちなんていないよ。
――あの誕生会が原因か。
呼ばれなかった小学校クラスメートの誕生日当日に知らずに家まで遊びに行ったのは良い経験だったな。
――滅多に出来ない。
どうだろう。
――落ち込んだか。
居心地が悪くて、すぐに帰ったのかどうかすら記憶がない。
――話せばいいんだ。
誰に。
――別の友だちに。
簡単に言うな。
――簡単だろ。
それはあなたの場合だ。
――誰でも同じさ。
だが壁がある。
――作っているのは本人だよ。
最近になって、やっとそれがわかったな。
――結構。
遅過ぎるとは言わないのか。
――気づきに早い遅いはないだろう。
大人だな。
――おまえたちを育てたからな。
意味がわからない。
――子供を育てて、子供は大人になるんだよ。
誰の受け売りだ。
――何故、わかる。
わからいでか。
――俳優のNが日曜朝の同世代対談番組で言ってたんだ。
正しいかもしれないが、どの道わかりようがない。
――想像力があるだろう。
身体的なことは想像し難いんだ。
――おれだって子を生んだことはないよ。
それでも子を育てて親になった。
――まあな。
子育ては楽しかったか。
――思い出はすべて美化される。
だが実際は……。
――子供が可愛いのは子供の時期だけの話さ。
というと……。
――親子関係は変わらなくとも、やがて対等か、親を超えた存在になるだろう。