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そういえばヤクザにも知り合いがいたらしいな。
――経堂のT組だよ。
幼馴染か。
――いや、違う。
彫師を紹介されたとか。
――あれは仙台での話だ。
大震災のあった。
――言われてみればそうだが、そのずっと昔におれは死んでいるよ。
死ぬのは恐かった。
――当時はな。
今では恐くないのか。
――二度死ぬのは007だけだ。
旧いな。
――今でも作られているんだろう。
知らないな。
――そっちには興味なしか。
原作者がショーン・コネリーを嫌っていたという話を聞いたことがある。
――ジェームズ・ボンドのパロディー本からの誤解じゃないかな。
詳しいな。
――偶々だよ。
で、何と……。
――インタビュー本の中でボンド自身ががショーン・コネリーについて「何だあの男は」と批判したらしい。
記憶が良いとは知らなかったな。
――一度でもおれのことを知ろうとしたことがあるのか。
いらない情報は入ってきたな。
――聞きたくもないね。
ならば、言わないさ。
――『かためのトラック』を憶えているかね。
忘れもしない。
――子供の頃はあればっかりをやらされた。
好きだったんだからしょうがない。
――ぶーぶー国の、ぶーぶー王が……。
おい、やめてくれよ。
――災害に見舞われた小国に苦難の末に物資を届ける紙芝居だった。
そうそう。
――主役が片目だったから今では売られてもいない。
紙芝居自体がほぼないだろう。
――街頭紙芝居がパフォーマンスとして残っているくらいだな。
細かいところを憶えていない。
――ならば、おれも思い出しようがない。
役立たず。
――おれはおまえの想像物だ。
007には詳しかったくせに……。
――忘れていただけで、おまえが知っていたんだよ。
ということは本当に細かい部分を憶えていないんだな。
――残念か。
そうだな。
――おれについてだって同じだろう。
知らないことが多いのは事実。
――ばあさんのことだったら憶えているか。
似たようなものさ。
――ばあさん子だったはずなのに……。
玩具だっただけ。
――昔のおれの代わりか。
長じてからは、子を生む前のお母さんの代わりで……。
――おまえは子を産まないのか。
ないし、もう遅過ぎる。
――そんなことはないだろう。
かろうじてまだ上がっていないが、リスクが高い。
――思ったこともか。
実はあるんだな、それが……。
――ほう。
すべてに対する自信がある日突然無くなって他に創作物が思いつけなかった。
――安直過ぎる。
だろう、自分でも信じられない。
――だが思い直した。
さて、どうだか……。
――最近はどんなものを書いているんだ。
一つ前は結局、私小説みたいになったな。
――童話は。
書いていない。
――そうか。
向いてなかったんだろう。
――短歌と同じで。
俳句も他の短いものもダメだ。
――詩ならばいいと……。
いくらでも書けるけどパロディーで小説に埋め込む形式でしか最近は書いてないな。
――それじゃテーマがぶっ飛ぶだろう。
そんなことはないよ。
――自信満々だな。
じゃなきゃ、もう潰れるしかない。