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 ――本当は死にたくなかったんだ。

 急に正直だな。

 ――おれはいつだって正直だよ。

 まあな。

 ――気が弱いだけさ。

 それにしてもカキエキスを一瓶呑むとは……。

 ――いや、半分だ。

 それでも尋常な量ではないな。

 ――すぐに気持ちが悪くなったよ。

 上手くいけば死ねたのかな。

 ――腹を壊して終わりというサゲじゃないか。

 それでもしっかり胃洗浄か。

 ――医者は仕事をこなしただけさ。

 迷惑な急患だな。

 ――結局怒りもしなかったぞ。

 あなたの歳を考えたんじゃないか。

 ――そうかもしれんが、自殺に年齢は関係ない。

 別に死んでも良かったと思ったんじゃないか。

 ――その方が可能性は高いか。

 わたしにはわからないよ。

 ――金が稼げないなら死ぬしかないと思ったのは事実だ。

 いや、あなたは恥を掻きたくなかっただけさ。

 ――親に向かって失礼だな。

 わたしも格好悪いのはダメだからな。

 ――それがおまえの弱点か。

 弱点ならば、もっと多くあるよ。

 ――弱点を数え上げてどうする気だ。

 無論、そんなことをする気はない。

 ――治らんよ。

 それも知ってる。

 ――良いところだけを延ばすんだな。

 それがなかったらどうすればいいんだよ。

 ――おまえは正直でいい子だった。

 フン、急に親の面をする。

 ――事実、親なのだから構わんだろう。

 わたしの想像物ではなかったのか。

 ――そうだとしても親に違いない。

 なるほど、道理だ。

 ――地獄は恐いぞ。

 ならば、天国に行くさ。

 ――だが、天国は退屈だ。

 ならば現世で苦しむか。

 ――わざわざ苦しむ必要はないだろう。

 煩悩がなければ、それは事実だな。

 ――だから捨てろ、捨てろ。

 また簡単に言う。

 ――その気になれば簡単だよ。

 だが、その気になれずに足掻くのが多くの人間の生き様じゃないか。

 ――それがわかっているなら生きろ、生きろ。

 わたしはいつだって生きているよ。

 ――夢の中では弱気じゃないか。

 知り合いの編集者が出てきて、詰まらない、と何度も言われた。

 ――それで弱気になったのか。

 目を覚ましていれば大丈夫だ。

 ――わたしは幸せだという念仏だな。

 まったくその通りだが、力がある。

 ――本当に信じていれば、夢の中でもそうなるはずだ。

 あなたはわたしを潰したいのか。

 ――もしかしたら、そうかもしれんな。

 わたしが成功するのが悔しいんだろう。

 ――おまえはおそらく成功しないよ。

 酷い親だな。

 ――おれはおまえの想像物だ。

 つまり自分で信じていないと……。

 ――さて、どうかな。

 あなたは何のために、ここにいるんだ。

 ――オレを呼んだのはおまえだよ。

 それなら少しは力づけたらどうだ。

 ――そこがおまえに足りないところだ。

 というと。

 ――睡眠薬で死ねると思うな。

 独り暮らしならば、死に切れなくとも衰弱死があるだろう。

 ――人は自ら死ぬようにはできていない。

 そうだとしても気力が尽きれば死に至る。

 ――少しばかり疲れたのが原因か。

 いったい何の話をしているんだ。

 ――おれを恨んでいいから目を覚ませ。

 わたしはいつだって覚醒している。

 ――このままだと長くはないぞ。

 だからいったい何の話だ。

 ――仕方がないな、本当は反則なんだが、親ということで死神には飼ってもらうことにするか。(了)


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