13
――本当は死にたくなかったんだ。
急に正直だな。
――おれはいつだって正直だよ。
まあな。
――気が弱いだけさ。
それにしてもカキエキスを一瓶呑むとは……。
――いや、半分だ。
それでも尋常な量ではないな。
――すぐに気持ちが悪くなったよ。
上手くいけば死ねたのかな。
――腹を壊して終わりというサゲじゃないか。
それでもしっかり胃洗浄か。
――医者は仕事をこなしただけさ。
迷惑な急患だな。
――結局怒りもしなかったぞ。
あなたの歳を考えたんじゃないか。
――そうかもしれんが、自殺に年齢は関係ない。
別に死んでも良かったと思ったんじゃないか。
――その方が可能性は高いか。
わたしにはわからないよ。
――金が稼げないなら死ぬしかないと思ったのは事実だ。
いや、あなたは恥を掻きたくなかっただけさ。
――親に向かって失礼だな。
わたしも格好悪いのはダメだからな。
――それがおまえの弱点か。
弱点ならば、もっと多くあるよ。
――弱点を数え上げてどうする気だ。
無論、そんなことをする気はない。
――治らんよ。
それも知ってる。
――良いところだけを延ばすんだな。
それがなかったらどうすればいいんだよ。
――おまえは正直でいい子だった。
フン、急に親の面をする。
――事実、親なのだから構わんだろう。
わたしの想像物ではなかったのか。
――そうだとしても親に違いない。
なるほど、道理だ。
――地獄は恐いぞ。
ならば、天国に行くさ。
――だが、天国は退屈だ。
ならば現世で苦しむか。
――わざわざ苦しむ必要はないだろう。
煩悩がなければ、それは事実だな。
――だから捨てろ、捨てろ。
また簡単に言う。
――その気になれば簡単だよ。
だが、その気になれずに足掻くのが多くの人間の生き様じゃないか。
――それがわかっているなら生きろ、生きろ。
わたしはいつだって生きているよ。
――夢の中では弱気じゃないか。
知り合いの編集者が出てきて、詰まらない、と何度も言われた。
――それで弱気になったのか。
目を覚ましていれば大丈夫だ。
――わたしは幸せだという念仏だな。
まったくその通りだが、力がある。
――本当に信じていれば、夢の中でもそうなるはずだ。
あなたはわたしを潰したいのか。
――もしかしたら、そうかもしれんな。
わたしが成功するのが悔しいんだろう。
――おまえはおそらく成功しないよ。
酷い親だな。
――おれはおまえの想像物だ。
つまり自分で信じていないと……。
――さて、どうかな。
あなたは何のために、ここにいるんだ。
――オレを呼んだのはおまえだよ。
それなら少しは力づけたらどうだ。
――そこがおまえに足りないところだ。
というと。
――睡眠薬で死ねると思うな。
独り暮らしならば、死に切れなくとも衰弱死があるだろう。
――人は自ら死ぬようにはできていない。
そうだとしても気力が尽きれば死に至る。
――少しばかり疲れたのが原因か。
いったい何の話をしているんだ。
――おれを恨んでいいから目を覚ませ。
わたしはいつだって覚醒している。
――このままだと長くはないぞ。
だからいったい何の話だ。
――仕方がないな、本当は反則なんだが、親ということで死神には飼ってもらうことにするか。(了)