12
――超然とはしていないさ。
だが、物分りが良くなった。
――それは昔からだ。
嘘ばっかし……。
――実生活では嘘が下手だったよ。
知ってる。
――おまえも同じだな。
小説にもその傾向があってウンザリするよ。
――そうか。
でも、それも含めて自分の個性だと思ってる。
――死者になると、個性が幻想だと思えてくるぞ。
あなたは無個性なのか。
――何度も言うが、おれはお前の想像物だ。
それがどういう。
――このおれがおまえの見たい、あるいは見たくないおれってことだよ。
そうなのか。
――想像物とはそういうものだ。
創作物も似たようなものだな。
――本人ばかりが可笑しなモノになる
悪かったな。
――昔はおまえも人好きだったはずだ。
それだって、あなたの押し付けだろう。
――無理強いした覚えは一度もないぞ。
まあ、今でも人嫌いというわけではない。
――コミュニケーション難民か。
そこもあなたと違うところだ。
――おれは普通だよ。
あなたの基準ではね。
――そうかな。
そうさ、例えばあなたがわたしの小学校のクラスや学校の課外行事に積極的に参加した理由は自分が楽しかったからだ。
――行事を楽しんで何が悪い。
悪くはないが、わたしが出汁だ。
――今度は被害妄想か。
あなたにわたしという子供がいなかったら、学校の課外授業にあなたが参加できなかっただろうという程度の意味だ。
――おまえのクラスの子供たちは喜んでくれたがな。
それは、あなたの紙芝居が上手かったからだ。
――褒めてくれて、ありがとう。
わたしは、あなた自身のことは否定しないよ。
――だが、自分に関わったところは嫌なんだろう。
今更さ、終わったことだ。
――いや、まだ何か言いたいだろう。
感情表現が過剰過ぎてウンザリしたよ。
――子供たちに、その方がわかり易いんだ。
知ってる。
――なら良いだろう。
家での練習が煩かったな。
――おまえは聞いていなかっただろう。
ああ、あなたがスズナリでやったときのお母さんの思い出話とごっちゃになった。
――スズナリ九龍城の「少女椿」か、懐かしいな。
あなたが死ぬにはまだ間があったが、おそらくまともに動けたのは、あの頃までだろう。
――そんなことはないが、荷物は若いもんに任せたな。
わたしとまったく無縁の世界だ。
――一度も来てくれたことがないからな。
積極的に、あなたに呼ばれた呼ばれたことだってないよ。
――ビデオではいろいろあったらしいが……。
当時のPC映像ソフトは信じられないくらい重くてね。
――おれにはわからん。
そうだった。
――感想もないのか。
ビデオの中のあなたが、いつもの紙芝居をするあなたと同じで可笑しかったな。
――違いようがないだろう。
いや、そうなんだが、面白いと思ったのさ。
――ところで、おまえは気づいていいるか。
何のことだ。
――おまえのことだ。
いったいどんな。
――今何処にいると思っている。
おそらく夢を見ているのだろうな、白昼夢か。
――それがおまえの見解か。
見解ということはないが……
――戻れ、戻れ!
いったい何処にだ。
――おまえは本当に気付いていないのか。
わたしは苦しむのは嫌いだ。
――胃洗浄を経験したこともないくせに……。
あなたにはあるのか。
――憶えていないか。
ああ。あのカキエキスのときか。
――そうだ。
あんなんで本当に死ねると思ったのか。
――死ねたら楽だとは思ったな。
ならば薬を飲んだなんて言わなければ良かったんだ。
――夜中のことで迷惑をかけたな。
一番迷惑だったのはお母さんだ。
――知ってるよ。
無責任だな。