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 ――魚ねえ。

 可笑しいか。

 ――可笑しくはないが変わっているな。

 だから多くの人と話が合わないんだよ。

 ――おまえから合わせる気はないのか。

 ないわけではないが、学校を出て一回友だち関係が途切れてからわからなくなった。

 ――やり方が。

 おそらく、そうなんだろう。

 ――恥を掻くのが恐いだけだ。

 そうかもしれないが、知らない人だと平気だぞ。

 ――JAIMAのフィージスタビリティー会議のときはそうだったな。

 周りが旧帝大出の博士号取得者ばかりだったわりには忌憚なく意見を言えた。

 ――居心地が良かったのか。

 あのレベルの集まりだとヘンな縄張り意識もないし、みんな現場の技術者だし、純粋に工学的な話だから良かったんだろうな。

 ――研究者にだって派閥はあるよ。

 それは大学に残った場合が大半だろう。

 ――そうなのか。

 いや、詳しいことは知らない。

 ――おまえは博士課程に進む気はなかったのか。

 頭が良くなかったからな。

 ――頭が悪かったら大学院さえ受かっていないだろう。

 それは程度問題だ。

 ――おれには無理だよ。

 いや、あるレベルまでは慣れの問題なんだ。

 ――わからんな。

 まあ、絶対に入ってやる/受かってやる、という拘りみたいなものは必要だが……。

 ――精神的な後押しか。

 何かが上手くいくときは、いつだってプラス思考になっているものだ。

 ――おまえが言うか。

 これまでは確かにネガティブ過ぎた。

 ――気づいたのか。

 まあな。

 ――良い傾向だ。

 だが、ネガティブを拗らせた全原因は小説の賞に落ち続けたことだよ。

 ――昨今の求職学生と同じか。

 自分では十代の頃から作家だと思っているのに、いつまでも自己同一性が得られない。

 ――だから気持ちを切り換えたわけか。

 もっと早く気づければ良かったんだろうな、きっと。

 ――きっかけは。

 それが思い当たらないんだ。

 ――ないことはないだろう。

 いろいろと化学変化が生じたのさ。

 ――自己啓発本じゃなかったのか。

 読まずにバカにしていた点は反省する。

 ――というと。

 科学を作ったのは人間だが、人間は科学だけでは理解できないと教えてくれた。

 ――当たり前だな。

 わたしには当たり前ではなかったことだ。

 ――自分の心を覗いただけでもわかる事実だろう。

 それはあなたの場合さ。

 ――面倒臭いヤツだな。

 知ってる。

 ――まあ、知っているだけでも良くなったってことか。

 そう解釈しておいてくれ。

 ――小説を書くことが辛かったんだな。

 正直言って、過去には苦痛だった時期がある。

 ――今ではないのか。

 楽しいよ、時間的な拘束は別にして……。

 ――料理もしたい。

 PCで画も描きたい。

 ――でも、それが出来ないと。

 あなたみたいに器用ならば全部出来たのかもね。

 ――おれは不器用だよ。

 坊主も役者も教師も、やりたかったことは全部やったんだろう。

 ――本式じゃないさ。

 パフォーマーのセンスがあったんのが良かったのかな。

 ――人にはそれぞれ特技がある。

 あなたも初めは創作を目指していたらしいね。

 ――誰に聞いた。

 酔って、あなた自身が言ったんだよ。

 ――憶えてないな。

 その昔、稲庭桂子に傾倒していたあなたは、その張本人に創作力のなさを看破されたんじゃなかったのか。

 ――あの人もばあさんと同じで、ズバズバとモノを言う人だった。

 それで諦めたくらいだから、指摘事項は事実だったんだろう。

 ――代わりに紙芝居の演者を薦められたよ。

 見抜いていたとは、すごい才能だな。

 ――ああ言う人を天才と呼ぶんだ。

 わかる。

 ――それにしても、おまえは誰かに言われたことはないのか。

 基本的にはないよ。

 ――というと。

 わからない、難しいと評されたことはあるが、才能云々を否定されたことはない。

 ――言っても無駄だと思われてたんじゃないのか。

 あるいはそうかもしれないが、それがわたしにわかるわけがないだろう。


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