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本人自身は天国も地獄も信じていないが、死者はそのどちらかにいてもらった方が安心だ。
――まあ、そう邪険にするなよ。
心の底からそう思う。
――残念だな。
近くに父が付きまとうからだ。
――おれはおまえの想像の産物だよ。
言われなくとも、わかっている。
――だったら、別にいいじゃないか。
声が勝手に聞こえてくるから、他に対処のしようがない。
――想像力が旺盛過ぎるってか。
医者に行って薬を貰うが、それで消えてくれるわけでもない。
――頭が動かなくなるからって、すぐに止めたせいだろう。
確かにそうだが、知り合いに薬漬けがいて恐くなった方が大きいな。
――しばらく身を任せればいいんだよ。
しばらくって、どれくらいだ。
――楽に思えてくるまでさ。
それじゃきっと長く掛かる。
――掛かって何がいけないんだ。
話を書くことが出来なくなる。
――ならば、いい加減に諦めたら……。
よく言うよ。
――その方が精神のためだ。
余計なお世話。
――ハイハイ、じゃ、黙ろう。
ところで今回は、いつまでいる気だ。
――それはおまえ次第だろう。
案外、そうではないかもね
――おれはおまえの想像物だよ。
限りなく近い元はあるけどな。
――元のない想像物など滅多にないさ。
二次創作か。
――詳しいことはわからんな。
設定を借りてくるなんて安直過ぎるだろう。
――それはおまえが理系だからだ。
関係あるのか。
――オリジナルが大好きだから。
それは理系に限らないだろ。
――そうともいえる。
一部は認めるよ。
――そうか。
特許を取ることが最初の夢だった。
――そういえば、いくつか取ったんだってな。
わずかの興味も示さなかったくせに……。
――おまえが話さなかったからだろう。
話したところで、ああ、良かったな、で終わっただろう。
――確かに。
娘が勝手に理系に進んで困惑したのか。
――それはないが、自分の子ではない気はしたな。
わたしはあなたの創作物ではないよ。
――それは、もちろんそうだろう。
だけど、いろいろ押し付けてきた。
――いきなりだな。
事実は事実。
――というより、おまえにとっての真実だろう。
真実なら、いくらでもあるからか。
――自分で本当にそう思えるのか。
逆恨みだという気もするが、きっかけがあなたなのは間違いない。
――作家を目指せとは言ってない。
すべてを言葉で説明できるように、と教育したのはあなただろう。
――そして受け入れたのはおまえなんだ。
幼い子供に逃げられる訳がない。
――歴史的にも、世代的にも、逃げた子供はいくらでもいる。
遺伝子が違う子供ばかりだ。
――おれも逃げられなかった口だからな。
別の刷り込みが欲しかったよ。
――おまえはアヒルじゃないだろう。
残念ながら父親の娘だ。
――おれの背中なんて見ていなかったくせに……。
見たい背中じゃなかっただけさ。
――子供の頃は慕ってくれたのにな。
せめて刺青でもあれば、また違ったかも……。
――チャンスはあった。
また嘘だ。
――嘘じゃないさ。
計り知れんな。
――でもお母さんが嫌がるだろうと思って止めたんだ。
意気地がなかっただけだろ。
――物事を決める理由は一つではないよ。