『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品集
最悪のルームメイト
「あれ……? なあ健一、冷蔵庫にあった俺のプリン知らねえ?」
定期試験明けに食べようと楽しみにしていた期間限定数量限定のプレミアム生プリンが見当たらない。ルームメイトの健一に尋ねたのだが――――
「ん? ああ、ずっと入れっぱなしだから食べないのかと思って俺が食ってやったぞ」
――――な、なんだと……く……食ってやった……だとっ!?
心の温度が急激に下がってゆくのを感じる、鼓動がうるさいほどバクバクと跳ねまわる、頭の冷静な部分が、これは正当防衛になるだろうか? 殺人ってどれくらいの量刑だったっけと考え始める。
「てめえ……あれはな……定期試験明けに食べようと楽しみに取っておいたプリンなんだよ!!」
「まあ怒るなって、後で買って来てやるからさ?」
「あれはな、期間限定数量限定なんだよ!! もう二度と買えないんだ!! もう……二度と……手に入らないんだよっ!!」
「ああ、なるほど、たしかに滅茶苦茶美味かったぜ」
「ふざけんな!」
俺は視線で殺せるものなら殺してやりたいと睨みつけるが、コイツは平気な顔で受け流す。
俺たちは全寮制高校の二年で、新垣健一は同室のルームメイト。背か高くスポーツ万能、彫りの深い日に焼けたイケメンだ、唯一勝ってるのは成績くらい。当然モテる。
「なあ健二、いい加減機嫌直せよ、男らしくないぞ?」
おまけに俺が健二でコイツが健一、名前かぶりで数字まで負けているのが地味に嫌なんだよな。
「男らしくなくて悪かったな、どうせ俺はインドア派だし運動も苦手だからな!! そもそも食った張本人が開き直んじゃねえ!!」
「はいはい、男らしさにインドアとか運動とか関係ないと思うけど……まあ……俺が悪かったよ、頭冷やしてくる」
部屋から出て行く背中を見送ると――――ようやく少しだけ気持ちが落ち着いてきた。
「……ちょっと言い過ぎたかな」
たかがプリン、されどプリンだ。まあ……悪気があったわけじゃないのはわかってる。大人げないのも男らしくないのだって――――
でもさ――――あの野郎、四葉さんと仲良いんだよな……畜生!! 俺の四葉さんとペラペラ喋りやがって!! やっぱり許せねえ……ぶん殴ってやりたいけど……良い奴なんだよな……はあ……。
突然メッセージが届く。
え? 四葉さんから?
『事情は健一君から聞いたよ、プレミアム生プリン二つあるから一緒に食べよ?』
健一からもメッセージが届く。
『頑張れ応援してる』
健一くん、君は最高のルームメイトだよ。