ルンガ飛行場
飛行場が見えた
野村が小高い丘の上からジャングルの先を見ている。
「あ、中隊長! 飛行場です。飛行場が見えます」
「見える?」
早坂と佐々木(幽)は草むらで顔を見合わせる。
佐々木(幽)が、
「見えた?」
痩せた兵士達があちこちから頭を出し、
「在ったか?」
「在った!」
徐々に高揚して来る兵士達。
野村が、
「オレ達の造った飛行場だ!」
泣いている福原。
「やっと着いた・・・」
早坂が、
「よ~し! 川口支隊の残兵が居るかもしれない。援護に行くぞ」
兵士達の気合いの入った返事。
「はいッ!」
士気が揚がる兵士達 。
丘の向こうのジャングルから数発の銃声が聞こえた。
早坂が、
「お? あれは38銃の音だ。先行隊が居るぞ!」
佐々木(幽)が、
「心強いですね。行きましょう」
早坂は傍に付く佐々木(幽)の身体を再度、舐める様に見て、
「キサマ、本当に生きてるのか?」
「そんな事はどうでも良いです。とにかくルンガ(空港)を奪還する事です。先に行きます」
納得行かない早坂。
「うん?・・・うん・・・」
佐々木(幽)が走って丘を下って行く。
早坂は気迫みなぎる佐々木(幽)を呆気に取られて見ている。
「ヨ~シ!」
早坂が右手を高々と上げ、気合の入った声で、
「前進~ッ!」
兵士達十八名(内・ 四基が幽霊兵)が早坂の号礼一下、丘を駆け下りて行く。
痩せた兵士達が泥まみれの軍装と、真新しい軍装で早坂の後に続く。
聞きなれた友軍の銃声音が迫って来る。
早坂が、
「あそこだ! あそこに居るぞ。散開、散開! 野村、右。右に五! 早く行け。佐々木(幽)ッ! 左五! 行け、行け・・・」
早坂は必死に手と指で合図する。
佐々木(幽)が右手を上げる。
五人の兵士に手指で命令を指示する佐々木(幽)。
野村達四名が右を一目散に走って行く。
最後に菅井が「銃剣」を振り上げて走って行く。
「菅井! 銃を奪え。銃剣では戦えぬ!」
菅井は振り返り、
「はいッ!」
岩陰では先行部隊が猛然と軽機銃を撃っている。
十メートルほど先に「火炎放射器」のボンベを背負った米兵が出て来る。
機銃兵を狙って火炎放射器の炎が飛ぶ。
火炎に包まれた二名の日本兵。
断末魔で逃げ惑う日本兵に向けて、米兵が容赦なくカービン銃を撃つ。
傍に居た日本兵が軽機銃の射撃を代わる。
早坂は手指で兵士達に合図している。
「背後に回れ」
前進した関元と斎藤が米兵達の背後に手りゅう弾を投げつける。
米兵は驚いて、岩陰から一目散に逃げる。
狙い撃つ先行隊の軽機銃。
米兵の一人が何かを叫んで倒れ込む。
必死に地を這い樹の影へ隠れる米兵。
菅井は樹の影の米兵に飛びかかる。
米兵から銃と弾を奪う菅井。
菅井は急いで早坂の近くに来る。
逃げた米兵が岩陰から早坂を「狙撃」する。
銃弾が早坂の顔を掠め、近くに居た菅井の顔面に当たる。
「うッ!」
菅井の呻く声。
早坂はその声に振り向く。
菅井の顔面から血が吹き出す。
早坂が叫ぶ。
「菅井ッ! スガイ~・・・」
早坂が転がりながら菅井に近づく。
必死に菅井を呼ぶ早坂。
忠魂碑に刻まれた名前
菅井信次郎 陸軍上等兵
ガダルカナル島にて戦死
「スガイ~!・・・ダメだ・・・クッソ~!」
早坂は菅井が奪った米軍の自動小銃を取り、猛然と突進して行く。
菅井の死体に近づく『鉄帽の幽霊』。
鉄帽の幽霊は菅井の顔に手を触れる。
菅井の目が開く。
菅井信次郎は再生された。
傍に「殻の鉄帽」が置いてある。
兵士達は敵の背後に回る。
早坂の絶叫の声。
「ブッ殺せ~!」
背後の銃が一斉に火を拭く。
米兵達が戸惑い機銃を回す。
側面の浅田が手りゅう弾を投げる。
爆発音と同時に他の兵士達が猛突撃を駆ける。
同時に前方から先行部隊(川口支隊)の兵士達が突撃して来る。
錯乱した米兵達。
高橋が銃剣一つで飛びかかる。
高橋の右腕に米兵の短銃が火を拭く。
銃剣を持った高橋の手首が飛んで行く。
手首を失くした高橋は断末魔で地にもがいている。
すると一基の『鉄帽の幽霊』が近づく。
高橋の手首に触れる鉄帽の幽霊。
高橋竜吉の手は再生している。
高橋の手の傍にはやはり「殻の鉄帽」が。
短い時間の戦闘が終わる。
早坂部隊と先行の川口支隊の兵士達が、倒れている米兵達の周りに集まり武器を奪う。
早坂が兵士達に集合を掛ける。
「全員、集まれ~!」
兵士達は早坂の周りに集って来る。
兵士が減らない
そこに川口支隊の『将校』が早坂の前に現れる。
挙手の敬礼をする将校。
早坂が、
「おまえは?」
「 川口支隊 相澤中隊、木原猛雄です」
早坂は襟章を見て、
「おお、川口支隊の少尉か。大変だったのう」
「はい。残念ながら、中隊長はやられました」
「そうか・・・。東海岸に上陸したのか」
「はい!」
早坂は相澤中隊の残兵を見て、
「・・・これだけか」
「はい! 私を入れて六名です」
「六名? 中隊が六名?・・・全滅だな。我が中隊も合流部隊を入れて十三名だ」
早坂は振り向いて中隊の兵士達を見る。
「?」
中隊の兵士の数が減ってない。
「?、菅井! キサマ、やられたんじゃないのか」
「やられました。でも・・・生き返りました」
早坂は不気味な表情で菅井(幽)の全身を見て、
「ナンダ? ソレは・・・」
木原は早坂と菅井(幽)の会話を聞いて振り向く。
「どうしたのですか?」
早坂が、
「分からん。中隊の兵士が減らないのだ」
「兵士が減らない?」
「そうだ。撃たれても死なない。いや、生き返る様だ」
「イキカエル?・・・」
早坂は菅井(幽)を見る。
菅井(幽)も早坂を見て、
「分りません。 ただ・・・」
「ただ何だ」
「死んだ事は事実です」
「そんなバカな・・・」
信じられない顔で聞いている木原。
早坂は集まった残兵の中の高橋(幽)の「手首」を見る。
「高橋! キサマはさっき米兵に手を撃たれたな」
「はい!」
「ハイ? ・・・怪我をして無いじゃないか」
高橋(幽)は自分の手首を見る。
「・・・あれ?」
「アレだと? その手はなんだ」
「分りません。ジブンは、・・・自分は夢中で」
「ワカリマセンだと? ・・・」
全く納得行かない早坂。
『鉄帽の幽霊』達が早坂中隊の負傷兵に次々に入れ替わって行くのである。
早坂は集まった相澤中隊の残兵(六名)を見回し、
「・・・ヨシ、相沢中隊木原少尉以下六名を早坂中隊に再編する。全員、目的完遂まで死しても百鬼と成り? ・・・朝敵を撃つ。良いな!」
「はい!」
士気が上がる早坂中隊。
早坂が、
「佐々木(幽)准尉!」
「はい!」
「オマエは木原少尉を補佐しろ」
「はい!」
佐々木(幽)が木原の前に一歩進み出て、挙手の敬礼をして、
「佐々木は木原少尉を補佐させて頂きます」
木原も軍装の汚れてない佐々木(幽)を見て、怪訝な顔で、
「?・・・、ヨシ!」
残兵達二十二名が踵を返し、早坂と木原に挙手の敬礼をする。
第12師団久留米歩兵第48連隊橋本部隊・相澤中隊
○木原猛雄(陸軍少尉)
西山 徹(陸軍軍曹)
市村金太(陸軍上等兵)
山本権助(陸軍上等兵)
木村武治(陸軍一等兵)
野々宮 博(陸軍一等兵)
早坂は佐々木(幽)の身体を納得ができない視線で見詰めている。 つづく