野村伍長(幽)の伝言
小休止が終わり、先頭に木原、後ろに関元、河野、大宮が麻袋を担ぎ、シンガリに福原が付いて行く。
五人の兵士が周囲を窺いながら、足早にホラ穴兵舎に向かう。
木原が、
木原「おい、木村の薬は有ったか」
河野「分からないから薬箱ごと全部カッパラッテして来ました」
木原は感心して、
木原「オマエ等プロの泥棒に成れるぞ」
大宮「いやあ、早坂中隊長殿のお陰ですよ。俺達を最後まで見守っててくれる」
木原「あの中隊長は、本当に死んでるのかなあ」
関元「死んじゃいないです。俺達が普段見えないだけです。あの人達は国の為に、この島で永遠に戦っててくれるんですよ」
木原は未だに納得が行かない様子。
木原「何とか生き延びて、彼らの最期を家族に伝えなくてはのお」
福原「その為に、あの人達は俺達を見守ってくれてるんですよ」
木原はしみじみと、
木原「オマエ等死ぬなよ」
河野「木原少尉も」
木原「バカ者! 俺は死んではいけない兵隊だぞ」
河野は木原を見て、
河野「あ、失礼しました」
ホラ穴営舎が見えて来る。
木村と森がホラ穴兵舎から出て、外に立っている。
木村は咳き込み、苦しそう。
木原は木村を見て心配そうに、
木原「アイツは、寝てなくて大丈夫なのか?」
関元が遠目で、
関元「おお? 木村の隣に兵隊が立ってるぞ」
福原「あれは森だ」
関元「いや違う。その隣」
大宮「誰だ?・・・あッ! あれは野村伍長殿です」
関元「ええ!・・・あッ、野村さんだ!」
兵隊達はどよめく。
木原が、
木原「有り難いのお。皆、俺達を草場の陰から見守って下さる」
ホラ穴兵舎の前で木原は立ち止り、「不動の姿勢」で敬礼をする。
それに倣って四人の残兵達も荷物を置いて、挙手の敬礼をする。
野村(幽)が優しい笑顔で軽く敬礼を返す。
木原が野村に近づき、
木原「ご苦労様です」
野村は木原の前に出て、
野村「何をおっしゃいますか。私はもうこの世の者ではありません。苦労などは有りません」
木原は驚いて、
木原「え?」
すると野村が、
野村「もう少し我慢して下さい。『エスペランサ岬(希望岬)』に援軍が到着します」
六人「エングン?」
関元達六人がどよめく。
木原「それはいつですか?」
信じられない顔の木原。
野村が薄笑いを浮かべて、
野村「また、知らせに来ます。それまで頑張って下さい」
野村はそう言い残し、七人の前から陽炎のように消えて行く。
木原が、
木原「あ! 野村伍長」
七人は呆気にとられて周囲を見回す。
諦めた様に全員が俯く。
七人は野村の立って居た場所に合掌する。
つづく




