ーミッション開始ー
「3階の奥から3つ目の部屋が手術室だから」
耳につけた通信機から社長の声がする。流石に実行場所ぐらいは覚えている。
「ああ違うって奥からって言ってんじゃんそこ手前からだよ」
社長がいてくれて良かったよ、ありがとう。俺は支給されたセキュリティカードをカードリーダーに通す。ピッという音がして扉が開く。
「ざるすぎんだろ」
この世の全てが信じられなくなるな…。部屋を開けると少年が手術台に横たわっており、その横に明らかに仰々しい鞄が置いてあった。
「それね」
「これか」
俺は鞄に手を伸ばし、外に出ようとするが、身体が動かなかった。
「あーやっぱり止まるよね」
社長が耳元で言う。やっぱり?
「おい、暗示はどうなったんだよ。困るぞこんなところで切れてもらったら」
「暗示なんてあるわけないじゃん。わかってたんでしょ?」
社長は冷えた声で言う。
「あれはさ、ただ電流を流しただけ、君がそこにいるのは君の意思だし、実行しきるにも、君の意思がいるよ。だからそこで止まってるんでしょ」
暗示が…嘘…じゃあ俺は…自らの手で…この子を…。
手術台を見る。手元の鞄を見る。少年を見る。健やかに眠っている。きっと、元気になって、色んなことをしたいと期待を夢に抱いて眠ったんだろう。そんな彼の命を、彼の家族を、父親を苦しめるためだけに、奪っていいのか。俺がこれを奪わなければ、この子は、幸せになってー
「いいなあ、君は。治る病気で」
俺は鞄を手に取った。出口へ向かう。後ろは、一度も振り返らなかった。