4話 蠢くものたち
結城天真が日本に来て学校に転校してから既に3日以上経っていた。
その中でも一番驚いたのは、日本の飯がうまいということである。
軍の中では、干し肉や硬いパンなどが普通で、そこにスープがあるかないかの違いだった。
特に任務中ではそれが当たり前すぎ、軍部に戻っても、美味い飯を食べれるのは上層部のみで、《ゼロ・セフィロト》は強化兵士として研究に研究を重ねた訓練によって育成された軍の所有物であるため、食べることすらできなかった。
天真の場合は、大佐達からもらって食べていた時があったが、それでも毎日ではなかった。
それ故か、日本の店で食べるご飯は美味しく、更にはそれは誰でも食べれるというのがとてもあり得なく、それでいて、とても尊いものだと感じているのだ。
「日本はいいな……」
そう呟いて弁当を食べていると
「おっ、日本を気に入ってくれたのかい?転校生」
そう言って話しかけてきたのは一人の茶髪のイケメンだった。
「転校生じゃない…俺は結城天真だ
天真でいい」
「それじゃあ、俺は黒川龍馬
龍馬でいいぜ」
「ああ、よろしく頼む。龍馬」
そう言って挨拶をする天真と龍馬。
そして、龍馬は先ほど、天真が呟いたことをきいた。
「日本ってそんなにいいのか?
俺は海外に憧れがあるんだけど?」
「確かに、外国に憧れるもの達がいることは知っているが、日本と違って、あまり治安が良くない
それに、日本の飯は海外よりも遥かに上だ
俺はそういう意味では日本が好きだ。
(本当に……あの殺し合いの日々よりも遥かにいいよ……)」
そう笑みを浮かべて話す天真に、これは本心だと嫌でも理解できてしまった。
そして、龍馬は思ってしまった。
「(なんで、そんな辛そうにも見える笑顔を見せんだよ……)」
龍馬は人を見る目がある。
本心なのか、嘘なのか、顔色や声、目でわかるのだ。
天真が言っていることは全部本心だと理解している。だが、時より、自分でも辛いと思ってしまうほどの顔色になるのだ。
龍馬が思わず、天真に声をかけてしまったのはそのせいなのだ。
話してみたいと思っていたが、それは徐々にするつもりだったのだが、それでも、声をかけられずにはいられなかった。
それほどまでに辛そうな顔をしていたから。
「(あの二人が声をかけてしまった理由がよくわかるな……)」
そう呟きながら、横目で明星と希空を見る。
「なっ、さっさと飯食ってよ、ちょっとだけ運動しようぜ
次は体育だからよ」
「ああ、そうだな……」
そう楽しく弁当を食べてそう話していくのだった。
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……………………
…………
希空視点
初めて彼をみた時、私は、悲しげな表情をする彼をみて、どこか、私を彷彿とさせた。
私は親から言われた通りの人生を歩んできた。自分のことなんて考える暇なんてなかった。
彼も同じように人生に何の価値を見出していないような退屈そうな顔をして私は安心してしまった。
自分だけではないのだと、そう思うだけで、ちょっとだけ心に余裕を持つことができたのだ。
我ながらなんて最低だと思ってしまう。
彼も苦しんでいるのに、本音を隠して、人と接する生活に何の意味があるのか……
でも、彼と私は違う
私には明星がいる。私の苦しみを理解して、私と一緒にいてくれる大切な友人
彼にも、私にとっての明星が現れることを願うしかなかった。
そう思いながら彼の席を見ると、彼の傍に黒川くんがいた。
誰とでも仲良くできる彼の存在は、彼にとっていい影響を及ぼしてくれると思っている。
けれど、どこか、モヤモヤとした感情がある。
それはわからない。彼の苦しみを一番に理解できるから……?同じような境遇の彼をみて、本音を言えるようになるかもしれないから?
この感情はよくわからないけど、彼が、黒川くんを中心に仲良くなってくれることを祈るしかなかった。
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………………………
…………
昼休みが終わり、体育の時間
男子はバスケ、女子はバレーをしていた。
天真はバスケのルールがよくわからないため、ただ、ボールを入れることだけを考えていた。
「フンっ!!」
ダンッ!!っと大きな音がすると、その音の正体は天真がダンクシュートを決めていた姿だった。
「これでいいのか?」
「お、おおう……お前…何かスポーツやってたのか?」
一人のクラスメイトがそう聞くと天真は淡々と答えた。
「昔、格闘技を少々齧った程度です。
それ以外は特に何も……」
「へえ、そうなのか!!すげえな天真!!」
そう言ってやってきた龍馬は天真の背中を思いっきり叩いて、激励をした。
天真は初めての感覚すぎてわからないことが多かったが、それでも、この感じは好きだと思っていた。
そんな彼を忌々しげにみているものがいた。
「何楽しそうにしてんだよ……コード・ZERO
人殺しの殺戮者の分際でよ」
そう言ってその人物はクラスメイトの波の中に消えていった。
そして、その一瞬の殺気にも似た何かを天真は感じ取った。
「(今のはなんだ……?
殺気?しかも、かなり………
大佐にあとで連絡してみるか)」
天真はそう思いながらも外面だけは崩すことなく、笑顔で接していた。
その顔に誰も違和感を感じない。
ただ一人
「………なんで、そんな辛そうな顔をするの……?」
白星希空以外は……
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…………………
………
学校が終わり、天真は移動する。
今回は一人で帰るつもりだったため、校舎裏で連絡する。
「俺です……お久しぶりです。大佐」
『あら?どうしたの?あなたから連絡なんて
なに〜もうホームシックにでもなったの?』
「いえ、久しぶりに声を聞きたかったのと、学校で何者かの殺気を感じました。」
『!!!敵からの接近は?』
息を呑んだ大佐と呼ばれた女性は、すぐさま、状況確認に入る。
「いえ、感じたのは一瞬、敵はその後、クラスメイトに紛れるように消えました。
目的は恐らく……」
『あなたの抹殺でしょうね……(ジジイどもめ……軍から出さずに殺し屋にでも依頼したのかしら……
いえ、それなら、他の上層部からなにかしらのアクションがあるはず………)
まあいいわ、貴方は引き続き、学園生活をエンジョイしなさい。
こっちの方でも調べるから』
「了解」
そう言って電話を切る
そして、軽く笑みを浮かべる。
「あの人も元気そうで良かったよ……」
そういうと、歩き出す。
「やはり、奴がコード・ZEROか……」
学校の屋上に立っている一人の青年。
その存在は学校のクラスメイトだった。そのクラスメイトは憎しみを込めた表情をして天真を見ていた。
「奴は必ず殺してやる……この俺が………!!」
青年はそう言ってどこかに消えていった。
「(消えたか……気配しかわからなかったが、あの悪意……
ゼロ・セフィロト時代の関係者か………)」
ゼロ・セフィロト……
構成員は12人。セフィロトの樹に準えた特殊改造兵士部隊。
隊長はコード・ZERO。メンバーは《ゼロ・アイン》、《ゼロ・ケテル》、《ゼロ・コクマー》、《ゼロ・ビナー》、《ゼロ・ケセド》、《ゼロ・ゲブラー》、《ゼロ・ティファレト》、《ゼロ・ネツァク》、《ゼロ・ホド》、《ゼロ・イェソド》、《ゼロ・マルクト》、《ゼロ・ダアト》というセフィロトの名を冠するもの達
そして、唯一無二ZEROのコードネームは最強の軍人の名を貰っているのは《最強》という証明なのだ。
「既に俺は、消えている……
俺は殺す……敵対するのなら………」
天真はかつてのコード・ZEROの時の冷たい目をしていた。
「あれ?結城さん?」
「?貴方は…白星……さん?」
天真の目の前には白星希空が存在していた。
「まだ残っていたの?」
「ああ、少し電話していてな」
天真がそう話すと、天真も希空に話しかけた。
「白星は御神と帰らなかったのか?」
「はい、少し用があったので…」
「そうか……」
希空は驚いたような顔をした。
あの悲しい顔をしていた彼とは思えないほどに優しい顔をしていたのだ。
「一緒に帰りましょう?」
「ああ…」
そう言って希空と天真は一緒に帰っていった。
「結城くんはもう慣れたのですか?」
「少しだけだが、慣れたもんだ。」
天真がそう呟くと希空は若干嬉しそうな顔をしてみていた。
すると
「お嬢様」
執事服を着た女性が現れ、希空の前に現れた。
希空は驚いたような顔をする。
「未来?」
「お嬢様、お迎えにあがりました。」
そういうと、天真を見る。
そして、執事の女性は驚愕した表情をする。これには希空も天真も驚く。
「お嬢様をここまで連れてきてくださってありがとうございます。」
「いえ…(なんだ……?この女とはどこかで会ったことがあるような気がする……)」
天真はその執事の女性を見てどこか懐かしい記憶が蘇る。
懐かしく、それでいて、悲しいあの頃の記憶が………
『君は……いつか、記憶を取り戻せるといいな……
そしたら、《日本》にきてくれ
娘達の友達になって欲しいんだ……嫁にはやれんがな!
ハハハハ!!』
俺がコード・ZEROとして活動して、6年……
当時の俺は11歳……その時出会った依頼人
その時、傍にいた……!!?
「………それでは、白星さん
また……」
「えっ?う、うん
また明日……」
突如、悲しそうな顔をした彼に驚きながらも、「また明日」と返し、そのまま帰宅した。
そんな彼女の車を見送りながら彼は小さく呟く
「…………遅くなってすみません……
最期の依頼を完遂します……」
そう呟く彼の言葉を聞くものは誰一人としていなかった。
……………………………………
………………………
…………
???
どこかの執務室。そこには希空を迎えにきた執事である未来がいた。
「社長……彼が希空お嬢様と同じ学友であることが判明しました。」
「!!そうか……彼の様子は…?」
そう聞く男性に未来は小さく笑みを浮かべて話した。
「昔よりも感情豊かでした。
記憶が蘇り、学校生活に入ったのでしょう。」
「そうか……彼をここに呼ぶことはできそうかい?」
「分かりませんが、私のことに気がついていた様子でしたので、話をすることは可能かと」
未来はそう話すと男性は椅子から立ち上がりいった。
「では、彼をここに読んでくれないかい?
私は彼と話をしたい………」
「かしこまりました。」
未来はそういうと執務室から出ていった。
「………機密特務軍・ジ・アルケー特殊部隊・ゼロ・セフィロト隊長・コード・ZERO……
君は………どんな答えを出したんだい……?」
そう呟く男性に返答するものなど誰一人としていなかった。
今日はここまでです。
この作品では今までで長く書きましたね
ゼロ・セフィロトも書くことができてよかったです。