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ex.親心、母心

「……本当なの?」


 ミカの言葉がとても信じられず、()は思わず聞き返す。

 先ほど息子のカインドを起こしに行ったミカが険しい顔をして帰ってきたと思ったら、私に小声でこう耳打ちした。


 カインド様の適性属性が変わっている、と。


 魔法の適性は生まれながらの才による部分が大きいが、修行で適性を伸ばす魔法使いもいるにはいる。でもそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というのが常識だ。


「はい。

 確かに昨日、カインド様の適性属性を確認した時は火と風のみでした。

 しかし先ほど、カインド様を起こしに行く時に確認した所、()()()()()の魔力が確認できました」


「ろ、六属性全て!?」


 ミカの言葉に思わず大きな声が出る。適正属性が増えたというだけでも驚きなのに、ミカの授業の翌日には六属性全部使えるようになってました〜、なんて言われて声が出ない人なんているわけがない。


「……見間違い、なわけないわよね」


 私の言葉に、ミカは静かに頷く。

 ミカと私は魔法師団の同期だ。私とストワルドよりも、ミカとの付き合いは長い。だからこそ、当然ミカのことは信用している。


 それでも、今回はミカの言葉を疑いたくなるような話なのだ。


 光と闇の適正は生まれた時に決まっている。これは修行や努力でどうにか出来るものではなく、生まれ持った才能で使えるか使えないかが決まっているものだ。


「……午後からの講義、私も参加するわ」


 見たところで納得できるかはさておき、この目で見てみないことには考えようもない。ミカが嘘をついているとは微塵も思わないが、自分の息子に何が起こったのか、確認しなければならない。


 それにもし、ミカの言うとおり六属性全てに適性があるとすればそれは……


「アンフィ様の生まれ変わり、とでも言いたいのかしらね……」





――――――――――――






 ミカの講義を嬉々とした顔で受けるカインドとは真逆に、私の表情は苦虫を噛み潰したようなものだった。


 見間違いじゃない。間違いなく、カインドの身体には六属性全ての魔力が流れている。


 本当にミカは見逃していなかったのか?僅かでも火と風以外の魔力が流れていなかったのか?

 そう言いたげにミカの方をちらりと見る。私の視線に気づいたミカは、目を閉じ静かに首を横に振った。


 でも、それならこの現象をどう説明すればいい?


『たった一夜にして、息子の魔法適正がまるっと変わってしまいました~』なんて、改めて言葉にしてみたら余計に信じられなくなってきた。


(はぁ……どうしたものかしらね……)


 さまざまな疑問が私の頭の中を駆け巡るが、どれだけ考えても答えのようなものが出てくるとは思えない。


 ならばと、私は頭を切り替える。過去から原因を探るのではなく、これからどうするかを考えるために。

 六属性持ちの魔法使いは、デナミーズの歴史を遡ってもアンフィ様以外存在しない。史上二人目の六属性持ちとなれば、王国や世界が黙っていないだろう。アンフィ様の生まれ変わりとか言ってはやし立て、魔王討伐なんて面倒な仕事を押し付けて来るに決まっている。


 ならせめて、最低でも光と闇だけは隠し通さなければいけない。四属性くらいなら、相当珍しいがいないわけじゃない。"息子の将来"と"危険な仕事を任せられる可能性"を私の天秤にかけた結果、『四属性の適性がある魔法使い』として生きていくことがギリギリのラインだろうと、そう判断した。


 そうと決まれば……


「カインド、ちょっといい?」


 ミカに魔力の扱い方を教わっている途中だったカインドを手招きする。


「どうかしましたか?母さん」


 純粋無垢な顔で私を見るカインド。ストワルドと同じ青く澄んだ目は、見ているだけで愛しさが湧いてくる。髪の色は私に近い金色で、青い瞳によく合っている。


 どうか、このかわいい息子の未来に祝福を……


「……母さん?」


 呼びつけるだけ呼びつけておいてカインドの顔を見ているだけの私を心配してか、カインドが不思議そうに私を呼ぶ。


「ああ、ごめんね。

 今のうちに、カインドに話しておかなきゃいけないことがあるの」


 表情を引き締め、真面目な口調でカインドへと語り掛ける。

 カインドも私の真剣さを察してか、真面目な表情で私の話を聞く体勢になった。


「カインド、今あなたの身体にはある変化が起こっているの。ミカから話は聞いた?」


 私の問いかけに、カインドはこくりと頷く。


「偉いわ。

 正直、何故あなたの適性が変わったのかは私たちにも分からない。でも、現実として変わっている以上あなたは()()()()について考えなくちゃいけない。それは分かる?」


「……?」


 カインドが難しそうな顔をして首を傾げる。どうやら、何が問題なのかを理解できていないようだった。

 まあ、それもそうよね。適性が変わって六属性使えるようになりました、って言われたら、普通は嬉しいものよね。その後のことを一切考えなければ、の話だけれど。


「いい?あなたの今置かれている状況は―――」





――――――――――――







 私はこの世界における六属性持ちがどんな意味を持つかや、アンフィ様について、この世界の歴史からしっかりと教え込んだ。

 教えている途中で(まだ二歳の息子には早すぎる話だったか?)なんて思ったが、私の息子なだけあって頭がいいのか、カインドは私の話を一回で理解してくれた。


「そういうことだから、これから外に出ても光と闇の魔法は一切使わないこと。そして、自分が六属性持っていると口外しないこと、いいわね?」


「それは分かったけど……僕の魔力を見られたらバレちゃうんじゃないの?」


 カインドが困ったように言う。もちろん他人に魔力を見られたら、いくらカインドの口が堅くても意味はない。

 しかし、その程度のことにまで気が回らない魔法師団長じゃないのさ。


「大丈夫よ。ね、ミカ」


「はい」


 ミカと私はアイコンタクトを送り合い、再びミカにカインドを預ける。


「元々はカインド様が今ご自身の置かれている状況をしっかりと理解してから……とマリア様と話していたのですが、もうその時が来てしまったみたいですね」


 クスクスと笑いながらカインドの頭を撫でるミカ。


「カインド様には、これから外の世界に出るまでの間に魔法の使い方の他にもう一つ、”魔力の隠し方”についても学んで頂きます」


 そう、魔力は隠すことが出来る。


 火と水、風と土、光と闇といったように、属性には対になる組み合わせが存在する。身体を流れる魔力の上から対になる属性の魔力を薄く流すことで、互いの魔力が反応し他人からは魔力の流れが見えなくなるのだ。

 これは自身の使える属性を隠せるだけでなく、魔力量も小さくすることが出来るので魔法師団のような"魔法を戦闘で扱う人間"は皆、習得させられる。

 流す魔力もほんの少しでいいので、対になる属性の適性が無くてもこの”隠匿魔法”は習得できる。


 ただこの方法は、地水火風の四属性にしか当てはまらない。というのも光と闇の両属性を持ち合わせた人間は、歴史上でもアンフィ様以外存在していないからだ。


 逆を言えば、光と闇の両属性を持ち合わせていれば"隠匿魔法"を使うことが出来るという訳。


「カインド様、隠匿魔法は微力な魔力調整が難しく、習得には時間を要すると思います。

 なので今日からは座学の他に魔力の調節についても学んで頂き、反復練習の時間を設けることとします」


 ミカがサラッとハードなことを言っている。


 正直、二歳の子どもにやらせることじゃないよな~、っていうのは私も思っている。

 でも、あの子自身が望んでいることなのよね。


『母さん、僕は出来るだけ早くこの家を出て冒険がしたいです。

 家族が嫌いとか、家に居づらいとかそういうことじゃないけれど、兎に角いち早く強くなりたいんです』


 一歳の誕生日、まだ舌っ足らずなカインドが言った言葉だ。

 とても一歳になったばかりの子どもの発言とは思えない。物言いも、とても子どものものじゃない。


 私はその言葉を聞いたとき、驚きよりも先にカインドの覚悟を感じ取った。高々一歳の子どもに覚悟って……と思うかもしれないが、私は当時のカインドの"目"が頭から離れないのだ。


 カインドの中に、何か大きな目的がある。そしてそのためには強さがいる。そう感じさせる"目"をしていた。




「もしかしたらカインドは、本当に……」


 こんなバカげたことを本気で考えている自分がなんだか可笑しくなり、つい鼻で笑ってしまう。

 本当にカインドがアンフィ様の生まれ変わりだなんて、そんな神話みたいな話があるわけがない。


「まあ、私は親としてやれることをやるだけよね」


 真剣に、しかしどこか楽しそうにミカの授業を受けるカインドを見ていると、生まれ変わりとか目的とか、そんなことがどうでもよくなってきた。


「カインド」


 名前を呼ばれ、カインドが振り向く。


 私はカインドの方へと行き、頭をわしゃわしゃと撫でてやる。


「ちょ……どうしたの母さん」


「何考えてるか分かんないけど、楽しく生きなよ」


 そう言うと、カインドは少し間を置いて「うん」と答えた。

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