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邂逅

 父さんに散々しごかれ、ミカに魔法を初めて教わった日の夜。


 俺の、2歳になる誕生日会が開かれた。


「「「カインド、誕生日おめでとう!!!」」」


 俺の目の前には地球では見たことのない鳥や豚に似た何かの肉を使ったロースト肉、野菜と肉を一緒に煮込んだビーフシチューのようなスープ、新鮮なサラダと豪華な食事が目の前にずらりと並んでいる。


 前々から思っていたが、この世界の食事はとても美味い。

 日本人は世界的にみても舌が肥えている、なんて言われているが、小さい頃に知らない国に遊びに行った時に食べたご飯が不味かったことを朧げに覚えている。

 

 肉の味は言わずもがな。サラダもドレッシングこそないものの野菜の甘みを感じられて美味い。

 スープに関しても濃すぎず薄すぎず、上品な味わいになっている。そんな高いスープホイホイと飲んだことがあるわけではないが……


「美味いか?カインド」


 ロースト肉を頬張る俺を笑顔で見ながら父さんが話しかける。


「はい!とても美味しいです!!」


 俺は口の中の肉を急いで飲み込み、父さんの問いかけに笑顔で答える。なるべく上品に、と思ったけどこれは無理だ。やめられない止まらない。


「そうか、それは良かった。

 明日からは今日みたいな甘やかしはないから気を引き締めろよ?」


 今日の走り込みやトレーニングのキツさが脳裏をよぎり、寒気が走る。


「ま、任せてくださいよ父さん……」


「剣術だけじゃないわよ?カインド」


 目線を父さんから斜め前に座る母さんへと動かす。そこには、ニッコニコの笑顔で俺を見る母さんがいた。

 母さん、今その顔は恐怖でしかないです。


 明日からのハードスケジュールから逃げるように、俺は目の前の食事に集中することにした―――







――――――――――――







「ふぅ……」


 豪勢な料理を食べ終えた俺は、新しい自室に戻ってベッドの上に腰を掛ける。

 2歳になったと同時に1人部屋を与えられた時は一瞬言葉を失ったが、この世界では成人年齢が15歳なことも起因してかこの年から1人部屋を貰えるのは割と当たり前らしい。


 ただ、これは俺にとっては好都合だった。


「……さて」


 折角貰った1人部屋だ、予定を早めることにしよう。

 俺はミカから魔法を教わった時にふと思った疑問を解決するため、とある()()をすることに決めた。



 適性の無い魔法はなぜ使えるのか。



 ミカは生活魔法くらいなら使えると言っていたが、魔力を魔法に変換するときの仕組みを考えると少しおかしい気がする。

 俺が魔法で炎を灯した時、俺の掌には赤い色の魔力が強く流れていた。ミカも俺には『火』と『風』の適性があると言っていたから俺が火を灯せるのは当たり前と言えば当たり前になる。


 ミカは生活魔法程度であれば誰でも出来る、と言っていた。それはつまり、デナミーズの人間には大なり小なり4属性すべての魔力が流れていて、その中でも一定以上の魔力量を見込めた属性を『適性』と読んでいるのではないか。


 ここからは俺の考えた仮説だが、もしかして適性がない属性の魔法も、反復練習を行えば適性のある魔法と同じように使えるようになるんじゃないだろうか?

 ミカは炎の魔法を当たり前のように使っていた。さっきの授業だけでなく、料理を作る際に使う火もミカは自分の魔法を使っていた。

 そして俺の方はと言うと、ロウソク程度の火を灯すだけでも膝から崩れ落ちる程の魔力を消費した。

 これはミカに言わせれば「魔力変換効率がまだ悪い」らしい。


 俺が明日から行うのは「魔力変換効率を上げるための反復練習」だ。つまりは―――




「適性がない属性も、反復練習さえすれば適性がある属性と同じように扱える、はずだ」




 そう思ったからにはやるしかない。変に可能性を捨てて来人を助けられなくなるくらいなら、使える時間をフルに使って試せることは試していきたい。

 そうじゃなきゃ、この世界に来た意味がない。


「フーッ…………よし」


 大きく息を吐き気合を入れ直した俺は、昼間と同じように手のひらを上にして自分の身体を流れる魔力に意識を向ける。

 血液と同じように流れる魔力の流れを意識し、今回は更に深く、更にか細い流れを意識する。


「…………」


 大きな流れの中に潜む小さな流れ。その流れを手のひらに集めて()へと変換するイメージを強く想像する。

 早鐘のように鼓動が早くなり、額だけでなく全身から汗が噴き出る。少しでも気を抜けばその場に倒れてしまいそうな感覚に襲われるが、必死に堪える。


「…………!」


 呼吸が荒くなる。汗が止まらない。身体も震えて来た。頭がガンガンする。耳鳴りがうるさい。目の前が―――







―――――――――――――







 目を開けた時、俺は見知らぬ大地の上に立っていた。


 空は赤黒く染まり、地面は焦土かと思うくらいに真っ黒。空に浮かぶ太陽と月が溶けあい、異様な空と大地が広がる。

 そして、もう一つ異様な光景。


 地面に、知らない()がいくつも転がっていた。


 肉が焼ける匂いが酷く気持ち悪い。気持ち悪いはずなのに、不思議と吐き気はない。それどころか、何処か冷静に目の前の光景を受け止めている自分がいる。


「……行かなきゃ」


 何処に?自分の口から出た言葉のはずなのに、自分が何を言っているのか理解できない。まるで自分の意識と身体を動かしているものが別になってしまったかのような、そんな違和感がある。


 俺の身体は歩き出す。向かう場所は分からない。建物も、生き物も、草木さえも何一つない大地を、只ひたすらに歩き続ける―――



 光景が切り替わる。



 焦土と化した大地が消え、俺は家にいた。

 大学を卒業してから3年間暮らし、今なお住んでいる俺の地球での家。


 ワンルームの部屋にベッドとパソコン、パソコンを置くためのテーブルと座るための椅子しかない、そんな簡素な部屋だ。


 俺はベッドの上に座り、もう一人の()がパソコン用の椅子に座ってこちらを向いている。


「…………なるほど夢か」


 ここまで来てようやく、状況が理解できた。こんな突拍子もないような現象、幾ら何でも夢以外で説明がつかない。


「■■■■■■■」

「え?」


 椅子に座る()が何か言っているようだが、()が口を開くたびに酷いノイズがかかってなんて言っているのか聞き取れない。


「■■■■■■■■■」

「なんて言ってるんだ……?」


 唇の動きで何を言っているか読み取る……なんて高等技術、俺は持ち合わせていない。

 何か大事なことを言っているのかもしれないが、俺には何て言っているのかわからない()のノイズ音を、ただただ聞いてやることしか出来ない。


「■■■■■■、■■■■■■■」

「…………」


 俺が聞いても分からないし、どうせ夢だから覚えておく必要もないか。

 でも、もの凄く必死そうな表情―――






―――――――――――――







「―――ンド様、カインド様」


 身体を揺すられる感覚で目が覚める。

 気がつくと外は明るくなっていた。どうやら本当に寝ていたらしい。アンフィの時みたいに夢と見せかけて現実、とか思ってたのに、マジで夢だったのかよあれ。


「カインド様起きてください。既に朝食は出来ています」


 俺を見るミカの表情はとても冷たい。確かに昨日厳しく教えてほしいとは言ったが、こんな日常生活でさえ厳しくしなくてもいいのに……

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