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剣に魔法にトレーニング!

 結局あの後、父さんは俺を肩車しながら1時間近く走った。


 家に戻ってきた俺たちを待っていたのは、父さん考案の筋トレメニュー。

 これも俺からしたら尋常じゃないほどの量とペースで、俺は予定されていたメニューの半分もこなせずにリタイアとなってしまった。


 こんな化け物みたいなメニューにもついていくアシュレイとロエン。顔は2人とも満身創痍だが、それでもついていけるだけ本当にすごい。


 そこから、父さんたち3人は木剣を使った剣技の練習を始める。俺はまだ身体ができていないため見学だ。


「アシュレイ、腰が入っていないぞ!腕の力だけで斬ろうとするな!」

「はい!」


「ロエン、お前は剣先がまだぶれている。素振りからやり直せ!」

「っ、はい!」


 アシュレイとロエン、2人を同時に相手しながらそれぞれに的確な指示を出す父さん。騎士団に所属していたのはもう5年前の話なのだが、その技量や眼、騎士としての戦いぶりはいまだに第一線級なのだろう。ここまでのトレーニングで殆ど息を切らしていないところや、5年経っているにも関わらず無駄のない引き締まった身体がそれを物語っている。


 そんな父さんに剣を教えて貰える、恵まれすぎた環境だ。


「カインド、初めてのトレーニングはどうだった?」


 兄さん達の特訓を眺めていると、後ろから母さんに声をかけられた。

 母さんはそのまま俺を抱き上げると、父さんと同じように肩に乗せた。


「母さん、身体強化の魔法は俺を肩車するために使うものじゃないよ」

()()を忘れない為にも大事なのよ」


 母さんは、父さん同様この国の元騎士団だ。

 と言っても父さんと同じように剣を振るって前線で活躍していたわけじゃない。母さんは騎士団の中でも魔法師団という、魔法使いのみで編成された部隊の所属だった。


 デナミーズにおける魔法使いとは、その名の通り『魔法だけで魔物を単体で討伐できる人間』のことを指す。

 自分の身体に流れる魔力について理解し、親和し、操ることが出来るようになって初めて魔法使いとしてのスタートラインに立てるようになる。要するに、簡単な魔法なら誰にでも扱えるが、魔物とを殺せるレベルの魔法を使うには人並み以上の知識と鍛錬が必要なのだ。


 母さんはその鍛錬を積み、理解を深めた結果、晴れて魔法使いとなり魔法師団への入団を叶えたという訳だ。


「カインドは、魔法についても勉強したいんだっけ?」

「うん。出来る選択肢は増やしておくに越したことはないから」


 身体が出来上がるまでは時間が余る。俺はそれまでの時間を魔法の勉強に費やすことにした。

 もしかしたら、来人の身体に傷をつけることなくエレムズの魂を引き剥がす方法があるかもしれない。


「それじゃ、ここからはお勉強の時間にしましょうか」


 そう言って、母さんは俺を肩車したまま屋敷の方へと向かって行った。







――――――――――――






「それでは、本日から私―――ミカ・エルスタードがカインド様の教育係として仕えさせていただきます」


 ミカは軽くお辞儀をすると、俺を後ろから抱っこするような形で座り、俺も読めるように俺の前で本を開く。


 ミカはうちのメイド長を任されている女性。その立場とキリッとした顔立ちのせいで自身の年齢よりも上に見られがちだが、まだ18歳の若々しい娘なのだ。

 しかし、本人の実力は大人顔負けの程で、とにかく仕事の効率がいい。常に2つ3つのことを同時並行でこなしながら、それでもクオリティを落とさない。仕事ができる女性ってミカのような人のことを言うんだろうな。


 加えてミカは礼節もしっかりとしている。普段の所作もさることながら、俺のようなクソガキに対しても上の人間に対する礼節を忘れない。

 そのおかげか母さんからの信頼も厚く、俺の出産に立ち会ったのもミカらしい。そりゃ、若くしてメイド長に抜擢されるわけだ。


「それではまず、魔法とはなんたるかから始めていきますが……本当に宜しいのですか?」


 ミカには予め、『子どもだと思わず普通に教えて欲しい』と頼んである。こちとら累計27歳の大卒男性だ。学習能力は人並みにあるし、こういうことはちゃんと理論から分かっていないと独り立ちした時に応用ができなくなる……気がする。


「大丈夫です。厳しくお願いします」

「承知しました」


 そう言うと、ミカは手のひらを上に向ける。それとほぼ同時にぽぅ、っとミカの手のひらに小さな炎が灯った。


「『魔法』とは魔法の祖『マナ』によって発見された力です。私たちの身体に流れる魔力を変換し、魔法という現象へと具現化させて使うことができます。

 魔法には属性があり、主に火、水、土、風の4つと、人によっては光や闇という特殊なものも使われます。どんな属性の魔法が使えるかはその人の適性によって決まってきます。

 ……折角なので、今からカインド様の適性を見てみますか?」


 ミカはそう言うと、手の炎を消し本を閉じて俺をひょいと膝の上から持ち上げる。

 そして俺の体をくるりと回転させてミカの方へ向くように向きを変えて座らせると、手を俺の目の方へと持ってきた。


「少しピリッとしますが、大丈夫です。私がいいと言うまで目を閉じていてください」


 俺はミカに言われた通りに目を閉じる。俺の目元にミカが手を当てるのとほぼ同時に、目にピリピリとした痛みが走った。


「―――っ」

「これはカインド様の眼を作り替え、『魔力の流れ』を見えるようにするために必要な魔法です。痛いかもしれませんが、少しだけ我慢してください」


 痛いというよりも目が熱くなるような感じがする。熱さの上から弱い電流が走っているような感覚が20秒ほど続いた後、ミカは手を外した。


「カインド様。もう目を開けても大丈夫ですよ」


 俺の頭を撫でるミカ。俺は恐る恐る、瞼に力を込めて目を開く。


「……!」


 最初に俺の目に飛び込んできたのは、ミカの身体を流れる赤と青の光。

 周りの風景はそのままなのに、ミカの身体だけが半透明に避けるように映っている。そしてその代わりに光の方が濃く見える。レントゲン写真とはまた違った、不思議な透過写真を見ているような気分だ。


「これは……?」

「見えますか?これが魔力です。

 血と同じように、私たち人間の身体に流れている魔法の源です」


 部屋の中はいつもと変わらない風景なのに、ミカの身体だけに光る波が流れている。つまりこの世界における魔力とは、大気中には存在せずに各個人が自身の体内で生成するものということになる。


「カインド様も、ご自身の適性をご覧になってください」


 ミカに言われるがまま、俺は視線をミカから自分の手へと移す。

 俺の身体を流れているのは、赤と緑の波。多分赤は火属性なんだろうけど、緑は風属性ってことなのかな?


「カインド様は火と風に適正があるようですね」


 ミカは俺の頭を撫でながら、笑顔でそう言った。だけど俺の頭には、自分の適性よりも重要な一つの疑問で頭がいっぱいだった。


「ミカさん、一つ聞いてもいいですか?」

「はい、なんでしょう」

「適性のない属性は、扱うことが出来ないんでしょうか?」


 俺が疑問に思ったことは、どうやってこの身体は魔力を生成しているのか、ということ。食べ物に魔力が宿っていて栄養のようにそれを摂取しているのか、はたまた魔力を生成する器官がこの世界の人間には備わっているのか、それは分からない。


 でも、俺の見立てでは魔力を作るための器官があるんじゃないかと考えている。

 無から有は生まれない。大気中に魔力は存在しないのに人間の身体にはこれだけ沢山の魔力が流れているということは、つまりそういうことなんだろう。


「一応適性のない属性の魔法は、地水火風の4属性であれば誰でも扱うことが出来ます。

 但し、その威力はとても戦闘で使えるものではありません。薪に火をくべたり指先からちょろちょろとした水を出したりと、せいぜい生活魔法レベルです。魔力変換効率が悪すぎるので、あまり使う人はいませんが」


 生活魔法とは文字通り、生活をするために用いる魔法のこと。家のランプに火を付けたり、コップ一杯の飲み水を出すくらいなら適性がなくても出来ると言えば出来るらしい。ただミカの言う通り、魔力を魔法に変換する際に発生する魔力のロス、俗にいう『魔力変換効率』が異常なまでに悪いため、生活魔法ですら適性がなければ普通は使わないとのこと。


「カインド様は魔法だけでなく剣術の鍛錬もしていますし、魔法と剣術を組み合わせた剣魔術を学ぶといいかもしれませんね」


 ふっと笑いかけながらミカは言う。

 剣魔術か……地球に戻った後のことを考えると、剣よりも魔法に力を注ぎたいんだけどな。






「魔法は座学より、実践的に覚える方が習得が早いと思います。

 ここからは、実際に魔力を魔法に変換する特訓をしていきましょう。立ち上がって目を閉じ、自分の身体を流れる魔力に集中してください」


 ミカの膝の上から降ろされた俺は、ミカに言われた通りその場に立ち上がって自分の魔力の流れを感じ取るために目を閉じる。

 身体を流れる魔力に意識を向ける。俺の間隔にはないものだけど、血液を意識してみたら同時に魔力も意識することが出来た。


「手のひらを上に向け、その上に炎を灯すイメージをしてみてください」


 言われるがまま、手のひらを上に向けてそこに炎をイメージする。

 すると、心臓の鼓動が早くなった気がした。血液が身体を巡るスピードが速くなり、身体が熱くなっていく。額から汗が流れるのが目を瞑っていても分かる。少しでも意識を逸らしたら魔力の流れがつかめなくなりそうだから、必死に集中する。

 それでも、手のひらの炎のイメージは絶やさない。さっきミカが出したような揺らめく炎を、熱を、強くイメージする。


「……目を開けてみて下さい」


 ミカの声が酷く遠く感じる。集中だけは切らさないように、ゆっくりと瞼に力を入れて持ち上げる。




「―――うわぁ……!」




 俺の手の上には、小さな炎があった。


 当然ミカの炎に比べれば小さく、吹けば消えてしまいそうなほど儚く燃えている。

 それでも、俺からしたら奇跡が起こったくらいに嬉しかった。


「あっ……」


 内心で喜んだせいで集中が切れてしまったのか、手の上の炎は一度大きく揺らめくとそのまま消えてしまった。

 同時に俺を吊るしていた緊張の糸もふっと切れてしまい、その場に崩れ落ちる。


「初めてにしては上出来です。今日は魔力の流れと魔法について理解できたと思いますので、明日からはこの魔法を"当たり前"にしていきましょう」


 横に寄り添って頭を撫でながらミカは言う。あの程度の炎を生み出すのでさえこんなに大変なのに、これを当たり前に、か……


 先は遠そうだけど、俺に与えられた時間も後18年しかない。泣き言は言っていられないよな。

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