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あらたなる決意

 どうも、雄一です。私はこの異世界『デナミーズ』にやってきて2年が経ちました。


 生まれた時は不安でいっぱいだったし、今でも残りの時間を考えると焦る気持ちが大きくなります。

 しかし、急いては事を仕損じるという言葉もあるように、今は自分にできることを精一杯やっていこうと思っています。






 ―――なんて実況者みたいに語ってみたが、あまりにも自分に合って無さ過ぎて思わず笑いそうになってしまう。


 今日は俺の2歳の誕生日。1歳の頃に比べて食べられるものもだいぶ増えたことで、我が家のメイドさんたちが朝から張り切っていた。


 俺が転生した世界の名前はデナミーズというらしく、地球とは何もかもが全く異なる世界だった。


 まず、1番大きく異なる点として魔法や魔物が存在する。

 魔法は誰でも扱えるらしく、血と同じように身体に流れる『魔力』を使う。

 そしてその魔力に『火』『水』『風』『土』『光』『闇』のいずれかの属性を付与しながら呪文を唱えることで魔法が使える、と俺が読んだ書物には書いてあった。


 そして魔物。魔物は大まかに2種類存在する。


 ひとつは俺たち人間や動植物が無意識に体外に放出してきる魔力が空気に溶け込み『魔素』となり、その魔素が凝縮して形を成した者。

 ゴブリンやスライムなど、地球ではおとぎ話のような存在の生物はこっちに分類され、死んだ時に『魔石』と呼ばれる魔素の結晶を残して霧散する。

 

 もうひとつは、本来取り込むことのできない魔素を何らかの方法で体内に取り込んだ結果、変異してしまった動物。こいつらは元が動物なのもあり、倒した後に死体が残る。


 どちらのパターンの魔物も普通の野生生物よりも凶暴で、現れれば即駆除の対象となる。


 そしてこの魔物を狩るために『冒険者』という職業もあり、それに付随して武具屋やポーション屋なども各地に存在しているらしい。


 え?何で俺がこんなにこの世界に詳しいかって?




 ―――そりゃ、めちゃめちゃ勉強しましたから。


 別にスキル的なものをゲットしたとか、急に天からの使者が来て言語がわかるようになったとか、青いロボットから特殊なこんにゃくを貰ったとかではない。


 1歳になる少し前から母さんやメイドさんたちから言葉を教えて貰い、そこから読み書きの勉強をしてうちの書斎にある本が補助ありで読めるようになったのが半年くらい前の話。

 そこから読んだ本の内容を覚えつつ更に読み書きの勉強を進め、つつがなく会話ができたりひと通りの文字が読み書きできるくらいにはこのデナミーズの言語を習得できた。


 正直、かなり大変だった。

 いかんせんとっかかりがなさすぎる。地球で第二言語を覚えようとする時は、日本語を基準に単語毎に翻訳したり文章を翻訳して覚えるのが基本的な方法だ。


 しかし、デナミーズの言語を日本語に翻訳した本や記録が無い為、この手法は使えない。だから1文字ずつ音を聞いて文字を理解し、単語になった時にその意味をジェスチャーや相手の表情などから推察して両親やメイドさんに答え合わせ………

 みたいな感じで、とにかく時間の全てを使って必死に言葉の理解に努めた。こうしてある程度理解できるようになった今でも翻訳スキル的なものくらい欲しいと思っている。あるのか知らないが。


 ただ、俺が言語の勉強ができたのは転生先に恵まれたというのがかなり大きい。


 俺が転生したのは『テルグレス家』という辺境の領土を治める貴族の家庭だ。デナミーズには爵位制度が存在し、うちは騎士団時代の父さん―――ストワルド・テルグレスの功績のおかげで辺境伯の地位を頂いている。


 ありがたいことに金銭的な余裕もあり、壁一面の本棚が埋まるくらいの本を買うことやメイドさんを雇うことができている。本当にストワルド様様だ。


 そんな恵まれた環境で勉強に励むことができたおかげで最低限の教養を身につけられた俺は、2歳になる今日から勉強だけでなく身体も鍛えることにした。


 言語の習得はデナミーズで生きていく為の『道具』であって、俺の目的には必要ない。

 だからこれからはトレーニングに比重を置き、アンフィに課せられた課題をクリアしなければならない。


「カインド、準備はいいか?」


 そう言って、すでに支度を終え俺を待つ父さん。 俺も今日から体づくりに参加するということで、今日は我が家の男組が揃った初めてのランニングである。

 父さんの後ろには俺の兄にあたる長男のアシュレイと次男のロエンが、父さんと同じく準備運動を終えて俺を待っている。


「あなた、本当に大丈夫?まだ家に居させた方が……」


 俺の後ろで母さん―――マリア・テルグレスがものすごく心配そうな顔で父さんに問いかける。


「大丈夫だよ、母さん。もうこうして普通に歩けるし。

 それに、僕は1日でも早く冒険者になりたいんだ」

「そうは言うけど……」

「まあまあ、カインドがやりたいと言うならやらせてやろうじゃないか。

 何、いざとなったら俺がついてる、問題ないさ」


 尚も心配そうな母さんを、父さんが宥めに入る。

 それを聞いて、母さんは渋々といった表情で引き下がった。


「よし、なら行くか。

 アシュレイ、ロエン、2人も準備はいいか?」

「勿論です、父さん」

「いつでも行けます」


 父さんの呼びかけにアシュレイとロエンの2人は即答で頷く。よし、社会人になってからもジムに通って体型を頑張って維持していた俺の実力、見せてやるぜ。






――――――――――――







 ごめんなさい、めちゃめちゃ調子こきました。

 ビールっ腹にならないように定期的に運動していた地球人の運動量なんて鼻で笑うレベルだ。この3人は、短距離走かよと言いたくなるスピードでかれこれ10分以上は走っている。


 5〜6キロは走ったんじゃないか?何でこの人たちはちょっと息が切れるくらいで済んでるんだよ。こっちは吐きそうだよ。


「やっぱり、カインドについてこれるわけなかったんだ」

「父さん、もうこんなやつ置いて行って先に行きましょう」


 アシュレイとロエンの2人は俺に蔑むような視線を向けてくる。俺が今日初めてだからペースは多少合わせてくれると思ってたけど、初めからこんなにハードだなんて……


「そう言うな。お前たちだって、トレーニングを始めた初日は酷いものだっただろ?忘れたとは言わせないぞ」


 父さんの言葉に、アシュレイたちはバツが悪そうに顔を背ける。


「カインド、最初はこんなものだ。徐々に慣れていけばいい」


 父さんは四つん這いでうずくまる俺の頭をぽんぽんと叩くと、そのまま俺を持ち上げ肩の上に乗せた。


「うわぁ!?」

「今日だけは特別だぞ?そら!」


 そう言って、父さんはまた走り出す。

 身体が落ちそうになり慌てて父さんの頭を掴むと、それを確認したのか父さんはもう一段階スピードを上げた。


 俺を肩車しているから走りづらいはずなのに、なんでまだスピードが上がるんだ……

 この人、本当に底が知れない。


 チラリと後ろに視線を向けると、アシュレイもロエンもしっかりとついてきている。2人とも凄いな、俺と2〜3歳しか変わらないのに。


 …………違うな、俺も頑張らなきゃいけないんだ。

 2人がこうして追いつけるようになるまで努力したように、俺も努力しなきゃいけない。身体づくりも、魔法も、勉強も。

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