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51. 襲われた二人

 その晩、オディールとミラーナは早めに眠りについた。


 二人はセントラルに近い居住棟の最上階で、ピュルルとピーリルに警護してもらいながら暮らしている。


 夜半にドガッ! ガスッ! という衝撃音が響き、二人は目を覚ました。ミラーナは慌ててオディールの部屋にやってくる。


「な、何があったの?」「さぁ……? なんだろう?」


 目をこすりながら顔を見合わせる二人。


 直後、ガチャガチャという音がしてドアのカギが開けられ、誰かが入ってくる。


 開けられるはずのないドアが開けられた。


 ここに来て二人は深刻な事態に陥ったことを理解し、青い顔をして震えあがる。


 ピィッ!


 侵入者に飛びかかるピーリルであったが、あっという間に腕を斬られ、怪しい魔道具で殴られるとズン! という音とともに吹き飛ばされた。


 ぐぅぅぅ……。


 力無いうめき声をあげたピーリルは、倒れてきた食器棚の下に埋もれて動かなくなった。


 直後、寝室のドアをバンと蹴破ってリーダー格の男が入ってくる。男は黒装束に短剣を構え、無駄のない動きでオディールに迫る。


「きゃぁぁぁ!!」「ひぃぃ!」


 想定外の賊の侵入に慌てて逃げようとする二人。


「どこへ行こうというのかね?」


 男はいやらしい笑みを浮かべながら短剣をちらつかせ、オディールを威圧した。


「い、いやぁ……」


 逃げ道をふさがれたオディールは首を振りながら後ずさる。


 男はオディールにすっと駆け寄ると、一つも躊躇することなく眼にもとまらぬ速さで頭を蹴りぬいた。


 ガスッ!


 鈍い音がしてオディールは崩れ落ちる。


 続いてミラーナに迫ろうとする男だったが、オディールが朦朧(もうろう)としながらも必死になって男にしがみつく。


「ミ、ミラーナ……、逃げて……」


「邪魔すんな!」


 男はオディールの顔を蹴り上げ、鮮血が飛び散って真っ白のシーツに赤い点のしぶき模様が描かれた。もんどり打って転がったオディールはキャビネットに激しくぶつかり、衝撃音が部屋に響きわたる。


「きゃぁっ!!」


 いきなりの惨劇に慌ててドアから逃げようとするミラーナ。


 しかし、ドアの向こうには他の男がニヤけながら立っていたのだった。


「残念でしたー! クックック……」


 絶望のあまり後ずさりするミラーナ。


 男はニヤッと笑うと、無慈悲にもミラーナのお腹を思いっきり蹴り抜き、ミラーナは吹き飛んで床に転がった。


 ぐふっ……。


 何とか立ち上がろうとするミラーナだったが、さらに男に頭を蹴られ、意識を飛ばされる。


「よーし、お仕事完了! ターゲットはこの娘だったかな?」


 リーダー格の男はオディールの金髪をむんずとつかむと乱暴に持ち上げた。鮮血がオディールの白い肌に赤い筋を描いている。何とか足掻(あが)きたいオディールだったが、脳震盪(のうしんとう)で体が言うことを聞かず、ただ、うつろな目で男を眺めるばかりだった。


「うんうん、違えねぇ。上玉だがまだちと青いか」


 リーダー格の男はオディールの顔をいやらしく舐めるように見る。


 その時だった、入り口の方で、ギャッ! グハッ! と悲鳴が響く。


「何だこの野郎!」


 ミラーナを制した男が短剣を取り出すと駆けていったが、すぐにゴフゥ! と悲痛な声を上げながらもんどりうって倒れ、静かになった。


 リーダー格の男は息をのむ。もう何年もこの稼業をやっているが、仲間がこんな簡単に倒された事はない。それなりの腕利きを揃えて万全の態勢で来たはずだったのだ。


「まさか、プランB……か?」


 男の額にはじわっと脂汗が浮かぶ。


 ふらりとケーニッヒがベッドルームに入ってきた。手にはホウキの柄を持ってゆらゆらと揺らしている。


 男は得意の短剣術で乗り切ろうとしたが、すぐにその考えが無謀であるということに気づく。ケーニッヒには全く隙が無かったのだ。その完成された所作、気迫にはどんな技も通用するイメージが持てなかった。一体どこまで鍛えたらここまでになれるのだろうか? 男はケーニッヒの冷徹な視線に射すくめられ、固まってしまう。


 ギリッと奥歯を鳴らすと男は攻撃をあきらめ、オディールをベッドに転がしてのど元に短剣を当てた。


「動くな! この娘がどうなってもいいのか?」


 フゥフゥと男の荒い息が部屋に響く。男の額には脂汗が浮かんでいる。


 ケーニッヒはチラッとオディールを見る。


「私はこの街の者じゃない。その娘が誰かも知らん。ただ、乱暴するのは……いかがなものか……」


「なるほど……。そういう事なら金貨百枚出す。だから見逃してくれ。こいつは多くの人を苦しめる大悪人、正さねばならんのだ!」


 ケーニッヒは目を細めてオディールの様子を見ながら少し考える。剣聖とは言え短剣がのど元にあるうちは動けない。


「ほら、金貨だ!」


 男は巾着袋をポケットから出すとケーニッヒの足元に放った。


 慌てて巾着袋を叩き落とすケーニッヒだったが、その瞬間ボン! と、爆発音とともに激しい閃光が部屋を埋め尽くす。


 くっ!


 ケーニッヒは目をやられ、何も見えなくなった。男の巧みな戦術にやられたケーニッヒは、現役から離れていたブランクの大きさにギリッと奥歯を鳴らす。


 その隙に男はオディールを担ぐとダッシュで部屋を抜け出していく。


「くはは、逃げるが勝ち。あばよ!」


 男はオディールを担いだまま階段をダッシュで駆けおりていった。後は待たせてある船に乗って逃げるだけ。これで金貨三百枚が手に入る。それは三年は働かずに済む大金だった。


「しばらくは豪遊だぜ! ハッハーイ!」


 任務達成の高揚感が男を包んでいく。


 だが、三階まで降りてきた時だった。薄暗がりの中、誰かが立っているのを見つけ、慌てて急停止する。


 それは目をつぶり、夜風に長髪をたなびかせている男、ケーニッヒだった。ほのかなランプが照らす渡り廊下で、彼は闇に溶け込むかのように静かにたたずんでいた。



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