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プロローグ 竜源刀・七切姫の百年憂鬱

 (わらわ)は運命の主人(あるじ)を探しておりました。

 妾を完全に発動できる主人を。


 七兄弟姉妹(きょうだい)の末っ子たる妾は兄や姉に言わせればどうやらわがままらしいのですけれど、妾は「そんなことなくない?」と思っておりました。


 兄たちは鈍感なのです。


 武器たる妾たちは、そこらへんの単なる竜源刀(りゅうげんとう)のような、竜力を源に発動する武器たちとは一線を画す存在です。


 特別なんです。


 といっても、そりゃあ、竜源刀だってすごいですよ。

 所有者の身体能力を底上げして、魔法を消去できるんですから。

 魔法で作られた真っ黒なツタの塊みたいな魔動歩兵を、鉄の刀じゃ到底斬れないのに、竜源刀ならあらびっくり、ズバズバッと切り裂けるんですから。

 巫女やその部下の守護官たちは、この武器を使って魔動歩兵と日夜戦ってるんですから。


 すごいのはわかってます。


 でもでも!


 妾たちにはその上さらに意識があって会話できるんですよ!

 意識改革です。


 何を言ってるんですか、妾は。


 主人の戦闘を補佐し、感覚を共有し、魔女やら、魔女の使役する魔動歩兵やらの攻撃から主人を守ることができるわけです。戦術だってたくさん知ってる訳です。


 そんな特別な妾たち七兄弟姉妹なのですから、もっと恩恵があっていいと思うんですよ。


 具体的には、感覚。


 だって聞いてくださいよ!


 主人に発動してもらわなければ妾たち五感すらないんですよ?


 ひどくね?


 所有主との相性によっては感覚の一部しか手に入らないこともあります。二番目の所有者の時は視覚すら手に入らなくて地獄でした。そいつ巫女で竜から直接力を与えられているくせに粗暴で突撃馬鹿だったので、思考からなんとか筋力の補佐を行っても防御とか全然できませんでした。


 それでもなんとかやってきたんですよ。




 妾はできる武器ですから!




 でももうあんなの嫌!


 だから妾は運命の、妾を完全に発動できる相性のいい主人を探しているのです!


 それを兄たちに言うと「お前の努力が足りない」だの「無になりなさい」だの訳解らんことばかり言われてしまいます。


 話を聞けばーか!


 あの人たちの頭の中は戦闘のことばかりですし、ちょっと感覚が足りなくても主人の思考から動きを補助できるみたいです。戦うのに苦労はしない、らしいです。


 いやいや、無理でしょ。


 どこの世界に目隠し耳栓鼻栓猿ぐつわをした上で、肌の感覚なし、重力の感覚もなしで戦える戦士がいるんですか。


 お前は何と戦ってるんだって話ですよ。


 とは言ったものの、兄も姉も所有者とともに戦地を駆け巡り、魔女を、そして、魔動歩兵を切り裂いてめざましい活躍をしているようでした。


 あの人たち絶対妾より良い所有者をもっているに決まってます!

 五感だって明確に決まってます!


 ずるい!

 妾も妾の感覚がほしい!


 その願いも届かず月日が経つごとに、所有者が代わるごとに、どんどん感覚が減っているのを妾は感じていました。


 それどころか妾たちを発動できる人間が少なくなっていったのも事実です。


 竜と巫女が魔女の親玉である妖精たちを滅ぼして、国がある一定の平和を手に入れてしまったからかもしれません。


 魔女や魔動歩兵は残っていますがそれでも、身を切るような緊迫した毎日は終わりを告げ、魔動歩兵が未だあちこちを歩いているにもかかわらず、戦闘は徐々に減っていきました。


 戦えよ!


 と、妾も思ったのですが、仕方がないのです。


 というのも、役目を終えた竜たちはさらなる安全のために街の周りに堀を作って囲い、街同士を運河でつないでしまったからです。


 最初妾がそれを見たときには、何やってんだこいつらそんなので魔動歩兵の侵入を防げるわけないだろ、とか思ってました。ジャブジャブ水に入ってきたら終わりだろって。


 それだけじゃなかったんですね。


 全ての竜が、山の上で眠りにつき骨を埋めることで、山からの湧き水が竜の血へと変わり、流れ込む堀も運河も完全に防御されてしまったんですよ。


 魔動歩兵は竜の血でドロドロに溶けてしまいますし、魔女も竜の血のそばでは魔法を使えません。竜たちはそれを利用したわけです。


 なんてことするんですか!


 いや、この台詞は魔女側の台詞ですね。


 と言うことで、街は竜の血によって防御され、街から街への移動は運河を船で渡ることで行われるようになり、街はいつしか島と呼ばれるようになりましたとさ。


 めでたくない、めでたくない。



 妾は!?


 島と呼ばれるようになったあたりで誰も発動できなくなったんですけど!!

 そのうえ妾の存在すら忘れ去られてしまったんですけど!


 ひどい!



 それから数年後、意識すら保つことができず妾は埃をかぶったまま眠りにつき、





 気がつけば百数十年が経ってしまったようです。


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