そういうところですよ、聖女様
あの後、ここ最近の騒動はようやく終息を迎えた。
騒動自体はアルヴィンとノエル絡みの話だったが、原因となったのは一部の人間の行動だった。
その事を知ったアルヴィンは直ぐに動き、証拠を集め、陛下へ報告したのである。
理由はともかく王子の手紙や贈り物を勝手に捨てたのだ。しかも贈り物に至っては、換金可能なものはそうして懐に入れたというのだから、どうしようもない話である。
他にも叩けばホコリが出そうだなと、カウフマンも協力して調べた結果「なかなか面白いものが集まりましたよ」とにっこり笑って言っていた。
カウフマンとアルヴィンが二人揃って何だかちょっと怖い雰囲気で楽しそうにしていたのが印象的だった。
それを見たノエルは、仲良いのは良い事だなと現実逃避する事にした。
まぁ、それはともかくとして。
あのカウフマンが協力したと聞いて、たぶんこれは裏があるなとノエルは思った。
箱入りだの天然だの鈍いだの、ここ最近知った自分への評価にノエルは若干気落ちしていたが、カウフマンの行動に関しては多少分かる。
何と言っても付き合いが長いのだ。それと相性が悪そうなアルヴィンの手伝いを進んでするようには思えない。
という事を本人に聞いてみると、
「実は今回の事を利用して、誓言の聖女関係の計画を一気に進めようと思いまして」
と言った。
聖女と騎士団長に仕組まれた結婚の話とか、そういう類のあれである。
「と言いますと?」
「聖女様の気持ちを無視して都合よく利用しようとする魂胆。それはアルヴィン王子の件とも似ている部分が多いです。陛下は子煩悩なところがありますからね、自分の子供にそれが降りかかってきたとなると、どうお思いになるか」
ふふ、と笑ってカウフマンは言った。実に楽しそうである。
「アルヴィン王子も聖女と騎士団長の事についてはご存じでしたから。ノエルさんのためならと協力していただける事になったのですよ」
「ですが私、王子の事を振った形ですので。アルヴィン王子から、そこまでしていただく理由は……」
「迷惑をかけたから、と。あとシェリーさんの件に目を瞑った件のお礼でもあるそうです」
シェリーの件と言うと『魅了』をかけられた事だろう。
クロテッドのおかげで何とかなったし、本人もアルヴィンを想っての事であったので、ノエルとしては特に怒る気にはならなかった。
なので目を瞑ったというのとは少し違う気もするが、そう考えてくれたのならありがたく受け取っておく事にする。
「それと吸血種に関する話ですが、あれも少しずつ変えて行けると思いますよ」
「本当ですか?」
「ええ。トライフルやシェリーさんからの妨害があるたびに、クラナカン君とクロテッドさんが阻んでくれたでしょう? 傲慢な考えになってしまいますが、危険性より安全性や有用性を示した形になります。上手く説得が出来れば遠くない将来、きっと。……これはアルヴィン王子の望みでもありますが」
「私もお手伝いできることがあれば何なりと!」
「誓言のお仕事で縁を作るのが一番ですね。頼りにしていますよ」
「はい!」
目を輝かせるノエルに、カウフマンはにこりと笑ってそう言った。
それから彼は少し間を空けて、
「……ですがあの時、ノエルさんに『魅了』がかからなくて良かったです。……本当に身体の調子は問題ないのですね?」
「はい、大丈夫ですよ。強制的に人を好きになりかけるのは、なかなかない経験でしたし。それに……」
「それに?」
「カウフマン様よりドキドキしませんでしたからねぇ」
「――――」
本気で恋をすると魅了の効きも鈍くなるんですね、とノエルが笑うと、カウフマンが真っ赤な顔で固まっていた。
あれ、とノエルは首を傾げる。
「どうしました、カウフマン様?」
「聖女様は本当にそういうところですよ」
「え? 何がです?」
「意識していただいた時は可愛らしいのに、無意識だと格好良くなるところです」
ハー、と長く息を吐いてカウフマンはしゃがみ込む。
何だか珍しい様子だ。疲れが出たのだろうかと思って「だ、大丈夫ですか、カウフマン様?」と聞くと、彼は顔を上げて、
「……少しだけ抱きしめても?」
と上目遣いに聞いて来た。
今の流れでどうしてそうなるのだとノエルは目を丸くする。
「ええと、はい、ええ。……ど、どうぞ」
特に断る理由もなかったので、ノエルは少し照れながらも軽く手を開く。
カウフマンは「ありがとうございます」と微笑むと立ち上がり、ノエルをそっと抱きしめた。
片方の手は背中に、もう片方の手は頭に。ぎゅう、と以前より少し強く抱きしめられている。
「……魅了の話を聞いた時、背筋が冷たくなりました。あなたが私以外に恋をする姿を見たくなかった」
「でもカウフマン様は以前に、結婚したら自由に恋をして良いと言っていませんでしたか?」
「言いましたね。……こうなるなんて、思いもしませんでしたから。あなたが幸せに過ごせるならば、私はそれで良かったのです」
ですが、とカウフマンは一度言葉を区切ってから、少し切なそうな声で続ける。
「想いが届いたら、心が狭くなった事を自覚しました。欲深くもなりました」
「カウフマン様もですか」
「私だって人間ですからね。いついかなる時も完璧な騎士団長というわけにはいきません」
「本当にさりげなく高い自己評価を混ぜてきますね」
「事実ですからねぇ」
ふふ、と笑いながらカウフマンは手を放す。
感じていた熱がなくなると、何だか寂しいなと思ってノエルはカウフマンの服を手で掴んだ。
「ノエルさん?」
「え、ええと、あの……後でもう一回……」
「もちろんです、あなたのお願いでしたら、何度でも」
真っ赤になりながらノエルが頼むと、カウフマンは嬉しそうに笑って頷いた。
そうしていると、
「おーい! ただいまー! ただいまー! 何か忍び込もうとしていた不審者捕まえてきたぜー!」
「アルヴィン王子とエミリア様とトライフルさんとシェリーさんだよー!」
なんてクラナカンとクロテッドの言葉が聞こえて来た。
何だか捕まえてはいけない人物が混ざっている気がする。
ノエルとカウフマンは顔を見合わせると、
「何しているんでしょうかねぇ」
「忍び込む理由はもうないのですけどね。……まぁ、とりあえず行きましょうか、ノエルさん?」
そう言ってカウフマンは手を差し出してくる。
ノエルはその手を見つめたあと、
「はい、カウフマン様」
と笑ってその手を取り。
そのまま二人は賑やかな声がする方へと向かったのだった。
了
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