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そういうところですよ、聖女様。  作者: 石動なつめ


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混乱したり焦ったり 中


 アルヴィンとの面会の機会は、だいぶ早くやって来た。

 カウフマンを通して依頼してみると、三日後にぜひ、という答えが返って来たのである。

 というわけでノエルとカウフマン、それから侍女に扮したクロテッドの三人が王城へ向かった。

 クロテッドが同行しているのは万が一、トライフルから吸血種の力を使われた時の対策だ。彼女の方が一緒にいても違和感がないだろうとのカウフマンの考えである。クラナカンはもしもの時のために誓言の館で待機している。


「ノエル! 来てくださって嬉しいです!」

「お久しぶりです、アルヴィン王子。急な面会依頼を快く受け入れてくださってありがとうございます」

「いえ! あなたから会いに来ていただけるなんて幸せです」


 そういってアルヴィンはにこりと微笑んだ。

 それから彼はカウフマンに視線を向け、


「カウフマンも一緒なのですね。ですがこの部屋は安全ですので、外してくださって構いませんよ?」


 なんて少々棘のある言葉を言った。

 以前と比べてカウフマンに対しての当たりが強くなっている気がする。

 そんな事を思っているとカウフマンは笑って、


「私はノエルさんの護衛を務めておりますので。いついかなる場所であっても、離れる事は致しません」


 と返した。

 ノエルの部分を強調した辺り、カウフマンもカウフマンで迎え撃つ気満々である。

 目に見えない何かが二人の間でバチバチしている。

 後ろにいたクロテッドが「面倒な事になってるぅ……」と呟いた。その気持ちはよく分かるとノエルも心の中で同意する。


 どうしようこれとノエルが思いながら、周囲を見回すと、ふと少し離れた場所に立つメイドに気が付いた。

 艶やかな黒髪を一つにまとめた泣きボクロが特徴の美人だ。その顔立ちを見て、ノエルは彼女が誰かに似ている気がした。

 人の顔は山ほど見るノエルだが、強く印象に残っている人物はそう多くない。見覚えがあるという事は、その少ない中の誰かだろう。

 誰だっけ、と考えて、ノエルが思いついたのはトライフルだ。


(あの人、トライフルさんに似てる)


 そんな感想を抱いていると彼女と目が合った。

 ノエルと目が合ったメイドはにっこり微笑み、そして。


 ――――ぼうっと、その目が赤く光り始めた。


 吸血種が力を使う特徴だ。

 あ、まずい。そう思って目を逸らそうとしたが遅く、ノエルは彼女から目が離せなくなってしまった。

 金縛りか、何かその類の力なのだろうか。指の一本も動かせない。

 続いて思考も寝起きのようにぼうっとし始めた。視界にも靄が広がり始める。

 ただ、その中でアルヴィンだけがキラキラと輝いて見えた。見ているとすごくドキドキしてくる。


(アルヴィン王子、綺麗で、すごく素敵で、どうしよう何だか心臓が……ああ、でも)


 カウフマン様の時の方がもっと、と思った、その時だ。


 パンッ、とノエルの背中が強く叩かれ、視界がクリアになる。

 同時に身体に感じていた不可解な違和感がはじけ飛ぶ。

 ハッとして振り返るとクロテッドが少し焦った顔でノエルを見ていた。


「ノエルさん、大丈夫!?」

「だ、大丈夫です。ありがとうございます、クロテッドさん」


 恐らく彼女がメイドから向けられた何らかの吸血種の力を阻んでくれたのだろう。


「二人共、どうしました?」

「あの後ろのメイドさん。ノエルさんに吸血種の力を使っていたのよ」


 そう言ってクロテッドはメイドを指さす。

 視線が集まった時、彼女は「信じられない」というような顔をしていた。


「ど、どうして……何で、そっちにもいるのよ……!?」


 あまりに予想外だったのだろう。動揺するメイドに、アルヴィンが「シェリー?」と声をかけた。


「あの、彼女が何か……?」

「その人、ノエルさんに『魅了』の力を使おうとしていたのよ」

「魅了!?」


 アルヴィンがぎょっとした顔になる。カウフマンも目を剥いた。

 当のノエルは「ああ、あれそういうのなんだ」と驚きは少なかったが。

 カウフマンは直ぐにノエルの顔を覗き込む。


「ノエルさん、大丈夫ですか? 体調や、気分が悪いとかはありませんか?」

「あ、はい、ええ。クロテッドさんのおかげで大丈夫ですよ、カウフマン様。さっきちょっとぼうっとなりましたけど、今は全然」


 両手を軽く振って見せたが、カウフマンは心配な顔でクロテッドに尋ねるように視線を向ける。


「大丈夫だよ、カウフマンさん。完全に効く前だったから、後遺症とかも残らないし」

「後遺症があるんですか?」

「精神に作用するものだからねぇ。あれかけられると、解けても結構長い事、思考がぼーっとするんだよねぇ」


 たぶん先ほどノエルが感じたあれが、ずっと続くという事だろうか。

 直ぐに気付いて止めてくれたクロテッドにノエルは感謝した。あとでしっかりお礼をしよう、そんな事を思っていると、青褪めた顔のアルヴィンがシェリーを見る。


「シェリー、君は一体何を……!」

「だ、だって! アルヴィン様、誓言の聖女様の事、お好きなんでしょう!? だから……!」


 シェリーと呼ばれたメイドは慌てて弁解する。

 アルヴィンや彼の従者は青い顔をしているし、カウフマンの表情を見る限りだいぶ怒っているし、クロテッドも顔をしかめている。

 ノエルだけその空気に乗れず、とりあえずこの場を落ち着けるにはどうしようかと考えていると、


「危ねーって思ったら、やっぱりやってんじゃねーか!」


 男の声が響いたかと思うと、何もなかった空間からフッとトライフルが現れ。シェリーの頭に拳骨を落とした。

 ガチン、と音がしそうなくらいの勢いだ。


「痛ぁい! 痛いよ、おにーちゃん!」

「痛ぁいじゃねぇんだわ」


 トライフルは半眼になってシェリーを見下ろすと、ノエル達の方を振り返った。


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