ばけもの子供の物語 竜
それはもう、過去の話。
とっくに終わった昔の話。
しかし人々はその話を忘れないように、定期的に子供達に語り聞かせていた。
なぜなら、それは二度とおかしてはいけない過ちの物語なのだから。
あるところにばけものがいた。
それは「はじまりのばけもの」だった。
ばけものは人と違う姿をしている。
だからばけものと呼ばれていた。
固い皮膚と、するどい爪。
ぎょろっとした目。
自分達と違う部分がとても多いので、人間達はその生き物をばけものと呼び、虐める事にした。
なかには生きていてはいけない物だと考えて、殺そうとする者もいた。
しかし、その「はじまりのばけもの」は彼等を憎む事なく、許していた。
やがて時が流れた。
その時代では、各地で「はじまりのばけもの」のようなばけものが多く見られた。
人々は混乱した。
それが何か悪い事の始まりなのではないかと思った。
だから人間達はそのばけものたちを虐めて、時には殺してしまう事があった。
ばけものたちはとても怒って、大きな戦いもいくつか起こした。
その影響で、たくさんの生き物達が死んだ。
それからまた時代は移り変わる。
色々な要因が重なって、星の環境が激変した。
人間達はその変化に耐えられず、数を減らしていった。
しかし、ばけものたちはその変化に耐えきれたため、自分達の命を守る事ができた。
人間達はばけものに今までの事をあやまって、どうか助けてほしいとお願いした。
ばけものたちはすぐには聞き入れなかった。
しかし悩んだすえに、これから生まれてくる罪のない子供達まで死なせるわけにはいかないと思い、人間達を許すことにした。
ばけものは人間を守るために、色々な工夫を行った。
自らが脱皮した皮で、寒さに強いコートをつくったり。
はえかわった爪で、狂暴な獣に勝つための武器を作ったり。
固い鱗で、狂暴な獣から身を守る盾を作ったり。
遠くまで見通せる目で、近づいてくる危険を察知したり。
そんな事が何度もあった後、人々とばけものは和解して、仲良く暮らすようになった。
そのばけものは、竜と呼ばれる存在だった。
竜とは、星が環境変化する事を本能的に察知して生まれた種、新しい生き物だった。
かつてはたくさんの争いとわだかまりがあった人間と竜。
けれど今は、その過ちを許し、反省して、仲良く暮らす事ができている。