自分たちの見分けがつく人を彼氏にしたい双子をまったく見分けられない俺が必死に口説いてみたら実は4つ子で『全員』と付き合うことになった。
超短編投下します!
「「ごめんなさい」」
また1人男性生徒が玉砕した。
うちの高校一の、いや、同率一位の美少女である双子、花咲華凛と真凛の二人に告白した男性がフラれたのだ。
『二人に告白』というのは、そもそも彼女たちが『私たちの見分けがついたら付き合ってあげる』ということを公言しており、しかも『二人とも』であっても付き合ってくれると言うのだ。
「服のしわとかで見破られても困るから、スマホの写真見せるね」
運良くなどありえないように、何枚もの写真を見せられるそうだ。
ただでさえ瓜二つなのに、顔だけの写真で見分けるとかほぼ不可能。
今まで大勢の男性が討ち死にしていた。
そんな俺も彼女たちに惹かれる男の1人。
1度失敗したら2度目は無いらしく、彼女たちへの告白が減ったタイミングを見計らって校舎裏に呼び出した。
「話しかけてきたことも無い結城くんが告白してくるなんて思わなかったわ」
「じゃあ、『テスト』を始めるわよ」
そういって双子の片割れがスマホを取り出す。
「俺はテストは受けないよ」
「「え?」」
双子らしく綺麗にハモるふたり。
「だってせっかく瓜二つの双子なのに、見分けがつくとか『もったいない』じゃない」
「もったいない?」
「どういう意味よ?」
「誰にも見分けがつかないくらいそっくりなら、むしろそれを活かさないと。デートしていたら知らないうちに入れ替わっていたとか」
「いやよそんなの。私たちの見分けがつかないのに彼氏面するなんて」
「そうよね」
「じゃあ聞くけど、それだけそっくりな君たちの見分けがつく男性って、君たちの内面を見ていると思わないか?」
「それは…」
「そうかもしれないわね」
「つまり、君たちを見分けることができるということは、君たちの内面を全て見透かせる男性だ。そしてそういう相手と付き合うということは、君たちは秘密を持てなくなるんだぞ」
「それは大げさよ」
「よねー」
「いや、断言できるね。君たちはいつか君たちの見分けがつく男性と出会うだろう。最初は自分たち一人ひとりの区別をつけてもらって嬉しいかもしれない。でも、『ちょっとふざけてみようかな』と思って入れ替わっても彼は絶対に驚かない。『双子らしいサプライズ』の一切が封じられる」
「そんなサプライズしないわよ」
「しない…かな?したいかも」
「華凛?!」
「見分けてほしいなら髪型とかアクセサリーで見分けてもいいと思うんだ。そして入れ替わりたいときだけそれを替えればいい。でも、君たちを完全に見抜く男性相手にその手は通じないぞ」
「「うーん」」
ついには二人ともうなってしまった。
「何だかうまいこと丸め込まれている気がするけど」
「ちょっとこの話は『持ち帰って』いいかしら?」
「いいよ。良く考えてみて」
3日後。
俺は逆に双子に校舎裏に呼び出された。
「答えが出たわ」
「私たち」
「「あなたとお付き合いするわ」」
「おおっ!」
やった!やったぞ!
「すごく嬉しそうね」
「宝くじ当った時の顔ってこんなのかしら?」
「宝くじ以上なんだけどな。君たちと付き合えるなんて最高だから」
「そう。そう言ってもらえると嬉しいけど、さっそくだけど私たちは名前で呼んでね」
そう言って彼女たちは色違いのヘアピンを頭に付けた。
「赤いヘアピンが華凛よ」
「青いヘアピンが真凛ね」
なるほど、区別がつくようにしてくれたんだ。
「じゃあ俺のことも小太郎って呼んでくれ」
「小太郎君」
「小太郎さん。呼び方もちょっと変えるわね」
華凛が君付け、真凛がさん付けで呼んでくれるようだ。
「じゃあさっそくだけど…一緒に帰れる?」
「登校の時に見かけるから、帰る方向一緒よね?」
通学路は一緒ではあるけど、彼女たちの家は知らない。
住所を聞いてみると、俺の家より2キロくらい遠かった。
両側に華凛と真凛を連れて歩いていると、周囲から殺気交じりの視線が飛んでくる。
「あいつ、あのテストを突破出来たのか?!」
「どこで区別したんだろ?」
「カンで100問連続正解とか不可能だからな」
「くそっ!別れてしまえ!そしてもう一度俺にチャンスをくれ!」
そんな声を聴きながらも俺は彼女たちと他愛ない話をしながら下校する。
「俺の家はそこだから」
「ねえ、このままうちまで来ない?」
「家族に紹介したいの」
いきなり?!
でも俺の返事は決まっていた。
「いいよ」
二人と付き合うのなら、彼女たちの家族にもそのことを了承してもらわないと。
彼女たちの家は俗に億ションと言われる高級マンションだった。
さすがに緊張して中に入る。
そして俺はリビングに通された。
リビングの広さだけでうちの全間取り合わせたくらいあるんだけど。
彼女たちってすごいお嬢様だったのか。
「いらっしゃい。母の凛音よ」
出迎えてくれたのはとても母親とは思えない20代に見える美女だった。
胸もものすごい大きさで、彼女たちも将来ああなるのだろうか?
「ふーん、この子がそうなんだ」
振り向くと華凛?真凛?
いや、そうじゃない。
緑色のヘアピンを付けた『瓜二つな誰か』が俺の顔を覗き込んでいた。
「もしかして…三つ子?」
「ぶっぶー」
リビングに4人の少女が集まる。
「全員同じ顔…4つ子?!」
驚く俺の前で自己紹介が始まる。
「華凛よ」
「真凛よ」
「音々よ」
「汐音よ」
そしてどういうことか俺に説明がなされた。
彼女たちは4つ子で二人ずつ別々の高校に通っており、テストに使っていた写真は4人の顔を写したものだった。
だから、絶対に当たるはずが無かったのだ。
いや、『この二人は君たちと違う』と言ってもらったなら『合格』となったのだろう。
「その場合は、うちに来て『最終テスト』を受けてもらうけどね」
「当たるはずないと思うけど」
「あのテストに通った人は『私たちの秘密』を当てたら合格になるのよ」
「わかるかなー?」
ええっ?もしかして俺も最終テストを受けないといけないの?
むぎゅっ
その時俺の後ろから誰かが抱きついてきた。
5人目?!
いや、違う。
この背中に当たる胸の存在感。
「凛音さん?」
「そうよ。私が『最後の秘密』なのよ」
どういうこと?
というか、そもそもどうして俺に抱きついているんだ?
「あなたはここにいる全員と付き合ってくれるのよね?」
「許されるならそうしたいですけど」
「それなら、私もいいわよね?」
「え?!」
何で母親まで恋人になろうとするの?!
「あの、旦那さんは?」
「私は未婚だし、処女よ」
「は?!どういうことですか?!」
そして俺に最後の秘密が開かされる。
「華凛たちは私の『クローン』なのよ」
「ええええええっ?!」
想定外の話に目を見開く俺。
「わあ。すごく驚いてる」
「この表情って、私たちのことを見抜いていた男性なら見られなかったわよね」
「やっぱり『私たちを見分けられない人』にして正解だったわ」
「これからもサプライズいっぱいできそうね」
と、楽しそうに言う4つ子たち。
凛音さんはクローンを作る実験に参加し、その結果4人の子を授かったそうだ。
「実験当時、私はまだ初潮が来たばかりの10歳だったわ。なるべく若い卵子を使わないといけなかったから」
つまり、凛音さんはまだ27歳。
16歳の娘が居るように見えないわけだ。
「というわけで、私も付き合ってくれるかしら?」
「は、はいっ。喜んでっ!」
自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。
「やっぱりこういうリアクションしてくれる人のほうがいいわね!」
「そうね。私たちの事『全部見透かしていた』なんて人だったらすごく冷静に対応されそうだもの」
「これからもよろしくね、小太郎!」
「よろしくね!コタちゃん!」
そうやって呼び方変えてくれるのか。
「ふふっ、よろしくね。小太郎ちゃん」
「は、はい。みんな、よろしくお願いします!」
そして俺にいきなり5人の彼女ができてしまった。
でも、俺は後悔はしていない。
この5人を幸せにするために自分にできることをするだけだと誓ったのだ。
マンションから出ると、小学校低学年くらいの女の子とぶつかった。
「ごめん。大丈夫?」
「大丈夫なのっ!」
そう言って女の子はマンションに入っていった。
あの子、どこかで見たことあるような?
そんなことより、いきなり5人の恋人ができたから、今後どうやって彼女たちと付き合っていこうかと考えつつ帰宅することにした。
「あの人が『わたしたち』の恋人なの?」
「そうよ。これからいっぱいサプライズしてあげましょうね、音葉」
「はいなの!愛凛お姉ちゃん!」
「あれがそうなんだ」
「あたしたちはいつ頃会おうっかな?」
「ふふふふ。楽しみですわ」
「おほほほ。そうですわね、お姉さま」
マンションから立ち去る小太郎を見つめる『レジデンス・リンネ』の住人達。
これから連日のように彼女たちに驚かされることになることを彼はまだ知らない。
お読み下さりありがとうございました!