第1話~年上の怜さん~
「今日はありがとう、まろ君」
美味しいご飯とケーキを食べ、会計を済ましたあと、怜さんは僕を真っすぐ見つめてそう言った。
もうすっかり夜の空になり、浮かぶ月の光が、怜さんを少し冷たく包み、風でなびく髪をキラキラと輝かせていた。
「夜ご飯を食べようと誘ってくれて、本当に嬉しかったよ」
怜さんはいつもの楽しそうなニコニコ顔ではなく、初めて見せる泣き笑いのような笑みを浮かべていた。
根本的な問題が解決したわけではない。今日もまた家に帰れば、怜さんは広い家で独りぼっちだ。明日の夜ご飯は独りで食べなくてはいけない。
僕らは家族ではないのだから。その人にとって、母親は1人しかおらず、父親も1人しかいない。
怜さんの寂しさを、悲しみを紛らわすことができるのは今日だけだ。
だから、僕は何もしていない。何もできない。
そう言おうと思って口を開こうとしたが、怜さんに目で静止された。
僕がなにを考えているのか、それを理解した上で、怜さんは僕に感謝してくれている。
「私が勝手に助かっただけだ。救われただけだ。だから勝手に礼を言わせてもらうよ。ありがとう」
今度は晴れ晴れとした笑顔を浮かべ、いつもよりも軽い足取りで帰っていった。
いつもの、放課後の部室で会う怜さん。
ものすごい美人で、お金持ちのお嬢様。学園の憧れの的でもある。
けれど性格は猪突猛進という四字熟語がぴったり。
暴走しすぎるのが玉に瑕だけど、心の底から楽しんでいる、あの笑顔を見ると許せてしまう。
そんな自分の楽しいことを、ただただ追及しているような、僕らの部長。
しかしその内面は、寂しがり屋で独りぼっちが嫌いな、ただの少女。
そんな怜さんの意外な一面を見たことで、更に僕たちは怜さんのことを好きになってしまい、怜さんに無理難題を押し付けられても、振り回されても、それでもいいと思ってしまう。
だってそれは、寂しいことが大嫌いな少女が、自分だけでなく周りも、寂しい想いをしないようにと考えた結果なのだから。
やはり怜さんは、ほかの人のことも考えられる大人だ。
周りの人を笑顔にする力を持った怜さん。そんな彼女に僕は前よりも強く、1歳の差を感じたのだった。
僕と優衣、ふぅの帰り道。
僕の隣をふぅ。そして、少し後ろを優衣が歩いている。
この並び方は、決して優衣の機嫌がまだ悪いわけではない。昔から、いつもこの並びなのだ。
あかね色に染まる空の下、まだ帰りたくないと駄々をこねながらの帰宅。それが僕たち3人が小学生だった頃までの日常だった。
そういえば、小学生のときまではふぅがツインテールだったな。優衣は髪の毛を結んでいなかった。
いつからだっただろう。優衣が髪をツインテールにするようになったのは。