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第1話~独りじゃない夜ごはん~

 しばらく怜さん以外の4人で話していると、怜さんが戻ってきたのだが……様子がおかしかった。

 部室を出るまではニコニコと上機嫌だった怜さんだったのに、戻ってきた今はションボリと黙って椅子に座り、赤く染まった空を眺めていた。

 心配そうに怜さんを見つめるけれど、先ほどの綾ちゃんと同様に、深く追求しない、できない僕たち。

 そんな僕たちに気づいた怜さんは、窓から目を離して何でもないことのように、


「一緒にご飯が食べられなくなっただけだよ」

と言った。それが怜さんにとって何でもないことだということは、急激なテンションの変化でひしひしと伝わってくる。

 今の怜さんは、さっきまでのハイテンションとは真逆。僕が怜さんと出会って以来1番のローテンションだった。というより、そもそもローテンションの怜さんなんて見たことがなかった。

 そのため、何も良い言葉の浮かばず、無言の僕たち。

 そんな僕たちは悩んだ結果、なにも気にしていない風を装っている怜さんを見習ってみた。

 


 しかし、そんなポーカーフェイスのようなことは出来ない子供な僕たち。結局、いつもより早いけれど、もう帰ろうという結論に至った。

 怜さんのションボリが移ったように、静かに廊下に出る僕たちを包んだのは、夜の訪れの赤紫色。

 このまま帰るのは嫌だ、とそう思った。

 僕たちのリーダー的存在である怜さん。怜さんには、周りのみんなを笑わせる力がある。いつも笑顔で猪突猛進の怜さんが落ち込んでいるのは、見ているだけで辛くなる。こんな怜さんは見ていたくない。

 そして、どうにかしようとして出た言葉。


「みんなでご飯食べに行きませんか? さっき話していたレストランにでも」

 果たして、それを聞いた怜さんは少し驚いて、そして申し訳なさそうな顔のあと、嬉しそうに微笑んだ。

 いつものニコニコ笑顔ではなかったけれど、大人な笑みにすこし見とれてしまう。


「ありがとう、まろ君。広い部屋で食べる独りの夕食は、美味しくないからね」

 感謝の後に、少しの本音を吐露した怜さん。

 良かった、僕の言葉は間違っていなかった。心の中でホッと息を吐く。

 それはみんなも同じだったようで、落ち込んでいた僕たちを取り巻く空気が緩んだ。

 そんな中、1人申し訳なさそうに手を挙げる少女。


「ごめんなさいっ! 親が……寄り道とか厳しくって」

 私のことは気にしないで怜先輩を笑顔にしてあげてください、と言うような顔で笑う綾ちゃんだった。

 行きたい気持ちを押し殺しての言葉だということがすぐにわかった。

 すると僕が口を開くよりも先に、


「大丈夫」

気持ちはちゃんと伝わってるから、と優しい笑顔を浮かべたのは、ふぅだった。

 優衣と同様に滅多に笑わないふぅの、あんなに優しそうな顔は本当に珍しい。

 そのことがわかる綾ちゃんは、それゆえに、その笑顔にとても安心したようだった。

 深く一礼をしたあと、いつも通りのダッシュで帰っていった。



 学園の最寄り駅に行く途中に通る大通りから、少し路地に入ったところにあった、レンガ造りの趣あるレストラン。

 3時のおやつよりは遅く、夜ごはんの時間よりは少し早かったので、店内はあまり混んでいなかった。

 少しメイド服に似た、可愛い制服ウエイトレスさんに案内されて席につき、まず僕とふぅはメニューのデザート欄を確認して、美味しそうな写真に涎が垂れそうになる。


「おにぃ、今日の夜ご飯はこれなんだから、デザートだけは許さないからね」

と、デザートしか頼みそうになかったとふぅに釘を刺した優衣。通常メニューにも目を通す。

 しかし、おにぃは見逃さなかった。優衣がウエイトレスさんの服をじっと見つめていたことを。

 優衣は、コスプレチックな洋服が大好きなのだ。私服はいつも軽めのゴシックロリータ。まぁ、見た目の可愛さで全くコスプレらしさは出ず、普通に似合っているけどね。さすが、我が妹。

 僕がそんな兄馬鹿全開のことを考えている中、1つの料理から目を離さないでいるふぅ。(無表情のままだけど)キラキラとした目で呟いた。


「オムライス……」

 このレストランの人気料理らしく、大きな写真付きで載っていたのは、ふぅの昔からの大好物であるオムライスだった。


「風香はオムライスが好きなのか?」

 普段はあまり言葉から感情が読み取れないふぅが、嬉しそうに言った言葉に反応する怜さん。それに珍しくかすかな笑みを浮かべて、コクコクと頷くふぅ。

 そんなふぅを見て、久しぶりに僕もオムライスが食べたくなってきた。そして、それは2人も同じらしく、結局みんなオムライスを頼むことになった。

 しばらくしてからテーブルに届いたのは、黄色のふわふわそうな卵と、その上にかけられた真っ赤なケチャップのコントラストが見事な、オーソドックスなオムライスだった。

 キラキラとした幼い子供のような目でスプーンを手に取り、準備万端のふぅに僕たちは笑いを堪えながら手を合わせた。

 それは、4人にとっても、久しぶりの大勢での夜ごはんだった。


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