63.逃走
ただ、走る。それだけで楽しい。
by騎馬神マッハ
マッハはただの騎馬として偽装し、鞍やメンコを装備させてパッと見ただけではマッハと見分けることが出来ないようにした。
現在はエルダー合衆国を出るために国境へ向う準備をしている。
「グルーパー、なんだこのかぶり物は?」
「マッハ被ったこと無いのも当然か……これはメンコだよ。本当なら競走馬に使うものだけど今回はただの偽装だ」
「なんで緑色なのだ?」
「知らねえのか? 緑のメンコは不撓不屈の証だ」
「不撓不屈……」
「ま、あやかりに過ぎんけどな」
「こっちは準備出来たぞ」
「おうそれじゃあマッハ、乗るぞ」
「嫌だ」
「え?」
「嫌だと言っている」
「どうしても」
「……悪いがこればかりは無理だ。私は見た目こそ馬だが種は神だ」
「矜持かぁ……しゃーないじゃあ牽引する感じでいこうか」
「すまない」
マッハはしおらしく謝るだけだった。
****************
それからしばらくは村や街、行商や他のプレイヤーを利用してエルダー合衆国国境付近まで移動する。
国境には検問所があり、朝早くに到着したが長蛇の列が出来ていた。
「うわ激混み」
「商人連中だろうな」
「昼過ぎには出られるか?」
「揉めなきゃそんなもんだろ」
「入るのは楽なのに出るのは楽じゃねえな」
「それだけ持って行かれたらまずいものがあるってことだろ?」
「そうだな、身分証は?」
「あるぞ」
「後は待つだけだな」
グルーパーは一息つこうと葉巻を咥える。ポケットからライターを取り出すとすぐに全てをしまい込む。
「吸わないのか?」
「気乗りしない」
モラセスはグルーパーの目がマッハの方に一瞬移ったのが見えた。
「そうだな気乗りしないよな」
「そうだな」
グルーパーは酒も飲まず煙草も吸わずに順番が来るのを待った。
検問所に入ると、身体検査と荷物の確認が行われた。
グルーパーとマッハは先に入り、すぐに検査が終わり出国を許可された。
「これでようやっとおさらばだな」
「あとはモラセスという男が来ればよいだけか?」
「そういうこと、と言っても国境はまだ跨いでないからここもエルダー合衆国だけどな」
「国境とはまた人は面倒なもので線引きをする。自由に歩けば良いでは無いか」
「それもそうだな……でも人間ってのは強欲なものなんだ」
「ではお前はどうなのだ?」
「俺?」
「お前は無欲の聖人であるかと問うている?」
「強欲さ。心の底から欲しいと思ったものは手に入れる」
「それにしては大人しいようにも見えるが?」
「欲しいと思うものがあんまり無くてなぁ」
「今欲しいものはあるのか?」
「うまい飯、美人の女、それから――」
グルーパーは一拍間を空ける。
「サニーが元気にはしゃいでる姿が見たい」
「そうか、まるで親だな」
「そうだな俺たちはサニーを娘みたいに可愛がっているが血は繋がっていない……ごっこ遊びと言われたらそれまでだな」
「児戯でそこまで熱心になるのか?」
「遊びこそ本気でやらねえと人生つまんねえよ」
「そういうものか」
グルーパーは笑ってそれ以上は何も言わなかった。
「あっ! お前は!」
鎧を着たプレイヤーがグルーパーに詰め寄る。
「え? どちらさん?」
「随分世話になったなぁ!」
「だからどちらさんって聞いてんだよ」
「モルドレットだよ! 白い森!」
「マジでどちらさん?」
「……グルーパーだろお前?」
「え? 違うけど?」
「……本当か?」
「マジマジ、ていうか白い森の連中はレースするとかで風の渓谷にいるって噂に聞いたが」
「なんだよ似てる奴かよ~脅かせやがって」
「まぁまぁ、そういうこともあるさ」
「まったく……それじゃあな」
モルドレットがその場を去る。それと入れ違いになるようにモラセスが出てくる。
「よおグルーパー待たせてすまなかった!」
その言葉の聞いた瞬間、モルドレットが振り向くと同時に剣を引き抜いた。
「円卓だ。伏せろ」
モラセスは膝を曲げて垂直に体を落とすと頭上に切っ先が通り過ぎる。
「チッ、騙しやがったな!」
「まぁまぁ、今回は特に悪さしてねえからな見逃してくれや」
「今回はってことはこれからなんかするんじゃねえか!」
「……ナンノコトカナ?」
「露骨じゃねえか!」
「まぁいいや、牢屋にぶち込んでやる」
モルドレットは二撃目を放つべく剣を構え直すがモラセスがスキルを発動させて強酸を浴びせた。
「グルーパー先に行け!」
「それは! できねえよモラセス!」
「いいから!」
「考えがあるのか?」
「……ある」
「帰ってこいよ」
「わーってる」
グルーパーは国境を越えるべく体を返す。
「マッハ悪いんだけど乗せてくれ!」
「……嫌だ」
「このままだとまた足を折られるぞ」
「……そこまで言うのなら好きにしろ」
グルーパーはマッハに騎乗する。メニュー画面がポップして必要なステータスを確認すると度肝を抜くことになった。
「必要筋力120!? 生命力100!?」
「だから言ったではないか、私に乗るには相応の能力が必要だと」
「俺両方180ずつあるから行けるわ」
「……それを先に言わぬか」
「よっしゃあ! マッハちゃんGOGO!」
「掴まれ――ッ!」
グルーパーの視界が一気に下へ沈み込む。直後に大地が跳ね上がるような感覚と空気が顔を通り過ぎていた。
流れる視界はさながら新幹線で、蹄鉄が地面を蹴る度にそれは止まること知らない。
「あばばばばば!」
「気分どうだ?」
「速いな」
「まだ本調子では無いが、準備運動にはこのぐらいが丁度良い」
「無茶するなと言いたいが好きに走ると良いんじゃね?」
「昨日今日で思ったが、お前以外と適当ではないか?」
「懐が深いだけだ」
「それっぽいこと言いおって……」
「まぁ細けえことは気にすんな。このまま目的地の風の渓谷まで行こう」
「任せよ――」
マッハはさらに足を加速させて始め、数千キロの道のりを易々と走破したのだった。




