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4.嵐の前の静けさ

ヨーグルト? いいえ、ケフィアです。


byモラセス

「ねえ、グルーパー」

「なんだい?」

 サニーと出会って一ヶ月が経過したある日、グルーパーに思わぬ質問が飛んできた。

「グルーパーはなんでグルーパーって言うの?」

「どうしたんだい?」

「メロカルは好きな飲み物を二つ合わせた名前って言った」

「ああ、そういうことか」

「あと、なんでサニーなの?」

「えっと、まず俺の名前は、好きな食べ物の名前さ、そしてサニーっていうのは太陽っていう意味なんだ。明るく元気に育って欲しいという願いが込められている」

「そうなんだ、グルーパーってどんな食べ物なの?」

「魚さ、そうだなあ、もしも海があるならきっといるかもしれない。そのときは獲ってきてあげるよ」

 サニーは嬉しそうに森の中をぴょんぴょん跳ねていた。元々おとなしい子であったためか心を開くまで少し時間が掛かったが今では随分とグルーパーを始め全員と仲良くしている。

 意外にも狂人の皮を被った鬼畜外道ことモラセスにも懐いてしまうのは驚きだったが、モラセスも身内認定した瞬間、案外デレデレになっているのは仲間内で笑い倒した。

「うれしいね」

「まぁ、グルーパーの種類によってはサニーを一口で食べてしまうほど大きなやつもいるけどね、タマカイって――」

 自分を食べる魚を想像していたサニーは、顔が真っ青になって怯えていた。

「一口でお魚、食べる」

「うーん、冗談だよ、そのくらいのサイズはいるけど冗談だよ」

「そ、そうなの?」

「それに、そのぐらいデカくないと男七人の胃袋に収まらないさ」

 グルーパーは森で木の実や薬草、毒草、薪などを採取しながらサニーと話をする。拠点から近い場所で採取を行っているため安全には充分気を遣う。

 この世界においてプレイヤーは生き返るがNPCは蘇らない。それ故に注意しないとキャラクターが永久ロストすることになる。

 一応、激レアアイテムに蘇生できるアイテムがあるとか噂に聞いたことがグルーパーからしたら眉唾ものである。

 何よりゲームとは言え、他者を無闇に傷つけるようなことは避けるべきである。

「さて、サニー、この辺りの採取は終わった。帰るとしよう」

「はい」

 鬱蒼とした森の中はもうこなれたものでどこにいるのかも手に取るようにわかる。

念押しではあるが、拠点周りの木には赤い布を巻いた木があるためそれを目印にして自分たちがどこにいるかがわかるように仕組みを作っている。

 サニーにもそのことは教えているため、彼女も容易く森をあることが出来る。

 拠点に戻ると、グルーパーは採取物をより分けて食材はキッチン、薬草毒草は工房に保管した。

 一通りの仕分けが終わる頃にバレットがエアロの足に捕まった状態で空から降下してくる。背中のバッグには限界まで荷物を詰め込んでいるのか今にもはち切れそうだった。

「お帰りバレット」

「ただいま、頼まれてた熱交換器用の銅の細いパイプと弾丸用の金属インゴット、それと廃品業者からタダで貰ってきた道具、全部揃えてきた」

「いくらだった?」

「銀貨三枚」

「おお、相場的に銀貨七枚は見ていたが、やるねえ、プレイヤースキルも上がってきてるんじゃないか?」

「こっちの商人にも慣れてきたからな」

「僥倖、工房に持って行ってくれ」

 バレット、手で返事をすると、荷物を工房に持って行った。

「ああ、それと」

 バレットは立ち止まり、上半身だけを翻し、瓶を投げる。グルーパーはそれをキャッチする。

「ビール」

 そう言って上半身を戻し、工房へ再び足を向ける。

 グルーパーは瓶の王冠を手で捻り外すと、中身を口の中に入れる。

 強い苦みと麦芽の香ばしい香りが口に広がる。

「こりゃあいい」

「それ美味しいの?」

 サニーは興味津々でビールを飲みたそうにしている。

「いや、くっっっっっっっそ不味い」

「えー、でも、グルーパーはいいっって」

「子供には……ああ、ここは、ゲームか……舐めるだけだ。約束な?」

 サニーは嬉しそうに瓶を受け取ると恐る恐るビールに口付けてちょっとだけ口に含む。

「おいしくない……」

「はっはっは、そんなもんさ」

「グルーパーこれ好きなの? うそ?」

「いや、大好きさ、サニーも成人したら……わかるかもな?」

「ほんと?」

「さぁてね」

 グルーパーは適当にはぐらかすとサニーは少しだけグルーパーを疑った。

 そんなやりとりをしていると、バレットとシガレットが工房から出てくる。

「どうだったビールは?」

「最高」

「それは良かった、さて本題だ、シガレット見せてみ」

 シガレットは布に包まれた金属の塊を見せる。

「これは……拳銃か」

「錆びてボロボロだが、間違いなく四十五口径のオートマチック拳銃だな、意匠はアメリカ製に近い」

 シガレットは嬉々とした表情で説明する。

「ガバメントか」

「最高だろ?」

「あそこは好かん」

「差別は良くないなぁ」

「違う、日本かそうでないかだ」

 はっきりとゆっくりとした声音でグルーパーは嬉しそうに言う。

「残念だがここに日本はない、ログアウトして、どうぞ」

「はいはい、じゃあ、レストアしていこうか」

「私もやりたい!」

 シガレットはしゃがみ込み、サニーと目を合わせる。

「興味あるのか?」

「うん、工房入ってみたい」

「そうか、付いてくるといい」

 シガレットはそう言うと、サニーを連れて工房に向った。

「サニーも成長しているな、そう思うだろバレット」

「そうだな」

 朗らかな表情でグルーパーはサニーの楽しそうな笑顔を遠目から見ていた。

「それで、この白い森エリアにエルフの集落は」

「答えはノーだ。エルフがいるのは隣国のフライト王国」

「フライト王国、たしか東の鎖国しているところか」

「行商は通れるみたいで噂は色々聞くが、最近じゃその行商人も通りが少なくなっている」

「主要な道がエネミーにやられたか?」

「経緯は不明だ、俺は手形を持っているから自由に入れるけどな」

「手が早い」

「トレーダーだからな」

「さて……隣国にはエルフ、そしてはぐれて白い森に来る」

「白い森は現状どの国も手を出していない場所だ、しかも、インフラも整備されていない」

 グルーパーの視界にログアウト勧告のウィンドウが立ち上がる。

「そろそろリアルは朝か……落ちる」

「わかった」

 ログアウトの手続きをして、その日のゲームは終了した。


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