41.悪魔受胎
アイテムテキスト
黎明の果実:
グルーパーのバディである水蜜から生成された果実のひとつ。
食した者の傷を癒やし魔力を完全に回復させる。
グルーパーが食べた場合のみ筋力のステータスを上昇させる特性を有している。
アイテム使用後の種子を肥えた土壌に植えることで木を生やすことができるらしい。
「胸がざわつく……気分が悪い」
スキットルを片手にグルーパーは唸るように呟く。
「悪酔いでは?」
すかさずフローレンスがジト目でグルーパーの背中に視線を突き刺す。
「フローレンスさん、流石にこう、たまにはシリアルな感じで行きたいんですが」
「直列な感じですか……?」
「いや、そうじゃない」
「グルーパー……お前、シリアスとシリアルを間違えてんぞ?」
「え、うっそマジで? うわマジじゃん、ダッセーな」
「はいはい、で、何を感じたんだ? お前の直感は?」
モラセスは顔も体も雨粒まみれになりながら前を見据える。視線はブレること無く目的地へと足跡を刻む。
「アッシュとルークがここに来て動き出したこと、そしてシャンスとナタリアをさらったこと、あとはもう一人いる男の素性、なーんにもわからん。それにパラサイトデルタ……フローレンス、あんた誰かに恨みでも買ってんじゃないですかねえ?」
「心当たりがありすぎて困ります。エルダー合衆国とは中立を表層では繕っていますが個人的にはとっととくたばって欲しい国ですからね」
「ほら昔、パラサイトデルタを根絶するとか何とか事件的なこと」
「あー、あれはまだアンバージャックとオルカがエルダー合衆国に収監される前……ゲーム内時間で言うところの730年前の事です。当時アンバージャックとオルカは高難易度クエストを受けておりました。
内容を話すと、とあるエルフが不治の病に掛り、色々なエネミーを狩りアイテムを集め特効薬を合成するというものです。
それの最後の材料がパラサイトデルタでした。むしろこのクエストの為だけにポップしたエネミーとも言えるでしょう。パラサイトデルタは母胎から分裂した個体を他の生物に寄生させる変異させます。そして分裂した寄生体は他の生物を襲いパラサイトデルタを感染させます。
この危険性を察知し、パラサイトデルタがスポーン地点から半径20kmを封鎖したアンバージャックは私にヒーラーとしてパラサイトデルタ根絶の救援依頼を申し出ました。
そしてパラサイトデルタを倒しました。
その際、ドロップしたアイテムに卵と特効薬に必要なアイテムの二つが手に入り、アンバージャックがその卵を扶桑皇国のどこかに隠した」
「どうして隠したんだ?」
「パラサイトデルタの卵を破壊することが出来なかったのです。あのライトニングの最高最強火力を以てしても傷一つ付かないそういうものでした」
「なるほどなぁ、それがエルダー合衆国の連中が掘り当てて、このザマってことね」
グルーパーは怪訝な表情を隠し切れてない。
「ええ、エルダー合衆国の科学者系プレイヤー……ヴィクター……ですね」
「今度はフランケンシュタインかぁ?」
モラセスは鼻で笑うように言う。
「ええ、クラウンドジョブの名前ですからね」
「じゃあそのヴィクターになんかしたの?」
「薬の底で懲役1000年を判決して牢屋にぶち込んでいました。アンバージャックが収監されてからエルダー合衆国と中立協定を結ぶのに彼の身柄を解放しました」
「なーるほどねえ、じゃあ動機は十分、あとは協定を破綻させずに事故を装って国を弱らせるだけか……中々に強かだな」
「全くだ」
「……やられました。何とか首謀者をつるし上げたいですがどうせ蜥蜴の尻尾切りでしょう」
「まぁ、しゃあなしっすな。場当たり的ですが現状をなんとかせにゃならんすな」
馬車がゆっくりと止まる。
「ついたぞ」
モラセスは荷台に収めていた粗製の刀を取り出す。
グルーパーは指を鳴らして体をほぐし始める。
「ここで合ってるのか?」
グルーパーはモラセスに尋ねる。
「直感だがな」
「よりにもよってここか……そんじゃあ、行こうか」
なんの因縁か、モラセスとグルーパーが
教会の前で三人は準備と整え、扉を開く。
だが、まだグルーパーもフローレンス、当然モラセスも知る由もなかった。
既に悪魔がそこに生まれつつあったことを――。




