2. エルフのサニー
ウキャキャウキャキャウッキー!
by メロカル
「ああ!! ゴミカスゥ、死ねえええええ!」
チンパンジー並の語彙力に退化したメロカルは寝室で叫んでいた。と言うのも、探索中にエネミーの不意打ちを食らいあっさりリスポーンする羽目になったからだ。良い具合に温まってきた時、メロカルの咆哮が寝室木霊した。
「あ、クソ、ほんとクソ、死ねマジであのサルぅ! っぽいやつ」
「チンパンがチンパンディスって笑う、不意打ちですか?」
茶化すようにキッチンからグルーパーはメロカルを煽る。
「ああ、そうだ、いきなり頭上から来て目をやられた」
「うわーエグい」
「グルーパー、手は空いてるか?」
「今空きました。報復ですか、私も同行しよう」
「いくか」
「あ、うん、はい」
グルーパーは身支度をすると、メロカルが死んだ場所まで移動する。
「この辺りの森は倒木が多くて中々見通せないですね」
「フットワークが全然ダメだった」
「戦闘スタイルと相性最悪っすね」
「逆に格闘ジョブのお前なら楽か?」
「どうでしょうね……ストップ!」
グルーパーは森の中で急停止するとしゃがみ込む。
「何かあったのか?」
「ツタですね、殺された時、転びませんでした?」
「ああ……クソ!」
「先輩がすっころんだ後があったので、そうなのかなと、意外とここは厄介ですね」
ここでメロカルが襲われたと言うことは、既に敵エネミーのテリトリーに入っているということだ。
「うーん、地形も予想以上に不利ですし、やっぱ戻りましょう」
「ここだとキツいか」
「落とし物があれば回収して戻りましょう。地面の足跡から察するに群れのようですし」
「何体かいた気がするな、パニックでよく覚えてねえな」
「そうですね、やはりここは引きましょう」
周囲を警戒しながらメロカルの落とし物を回収し、二人は拠点に戻った。夕方と言うこともあって辺りは暗くなりつつあった。
結局拠点についた頃には夜になっていた。
居住スペースに入ると、残りのメンバーが丁度夕食をテーブルに持って行くところだった。
「お帰りなさい、新しい場所はどうでした?」
頭に子犬を乗せた男、ヴォトカがウイスキーを飲みながら聞く。この子犬、実際は狼でヴォトカのバディである。
「クソだったわ」
メロカルは即答して席に着く。グルーパーは空きの席を探してテーブルを見回す。
「あれ、メロカル、ハードロック、バレット、モラセス、ヴォトカ、幼女の……エルフ、シガレット……何だ七人いるから席に空きは無いな」
そんなことはない。ここにいるメンバーは全員で七人、そして椅子は七つ、つまり椅子が足りないと言うことは絶対にない。
「お、そうだな」
「いやぁ、追加の椅子がひつよ……おいおいおいおいおい、どこでその幼女を誘拐してきたんだ? ヴォトカ?」
グルーパーは呆れた表情で幼女エルフを見る。
「何で俺なんですかねえ?」
「いや、他のメンバー見てみろよ」
「いや、うん、俺だな?」
「じゃけん、ムショにぶち込みましょうね」
シガレットは悪乗りして陽気な声を出す。
「違う違う!!」
「はいはい、じゃあ、自供して貰おうか」
「はぁ……おそらく捨て子だ。睡眠薬で眠らされて森の中で放置されていた。姥捨て山みたいにな」
「ふむふむ、なるほど」
グルーパーは何度も頷いて、納得したような声を出しながら、幼女エルフを見つめる。
「お嬢ちゃん、誘拐されたなら素直に言いなさい、コイツしばいてお家に帰してあげるから」
幼女エルフは首を左右に振る。
「な?」
「は?」
「お?」
「あ?」
絶妙な掛け合いでお互いを罵りながらグルーパーとヴォトカはアイコンタクトを取る。どうやら本当に捨て子であるとグルーパーは確信。というか元からそこまでヴォトカを外道と思っていないため八割はジョークでやっている。八割は……。
「お嬢ちゃん、名前は?」
幼女エルフは首を横に振る。
「そうか、名前が無いのか……帰る場所は?」
またしても幼女エルフは首を横に振る。
「名無しの家なき子、でも言葉はわかるんだな」
幼女エルフは首を縦に振る。
「はぁ……この子を保護するのに異論ある人は?」
グルーパーの言葉に対して全員何も言わなかった。
「さて、名前はどうする?」
「アンジェリカ」
「おう、モラセス、表出ろ」
「いやだって金髪エルフだし」
「しばくぞカス!」
シガレットがド直球な暴言を浴びせる。
「妥当すぎてぐうの音も出ぬ」
「じゃねえよ、名前だよ、おまえらのねえ脳みそからひねり出せ」
「おう、グルーパー、お前の偏差値なんぼだよ」
「32だ」
「ダントツの最下位じゃねえか」
メロカルは笑いながら突っ込む。
「世の中には偏差値だけでは測れないこともいっぱいあるんだぜ?」
「おう、偏差値で日本の学力は決まるんだぜ」
「たしかに…………ヴォトカ天才か?」
「オメーがアホなんだよ」
「いや、草」
「ほんと草」
「はい、と言うわけで君の名前はサニーだ」
埒が明かないため、グルーパーはド低脳な頭でひり出したそれっぽい名前を幼女エルフに付けた。
しかし、幼女エルフはそんなこともつゆ知らず、名前を与えられたことを心なしか喜んでいるようだった。
「サニー……!」
小さくて、耳の尖った可愛らしいエルフはか細い声で呟いた。