22.男旅しようぜ
肉を欲のままに食うのはいい。
byグルーパー
「焼き加減はどうする?」
シガレットが分厚い肉に塩を振りながら聞く。
「え、いや、え?」
ヨヨは首を捻った?
「月白のマグメル回収祝いとヨヨさんが仲間になったのを記念して簡単だけど飲み会をね」
グルーパーはジョッキビールを喉を鳴らしながら飲む。
「それで肉の焼き方は? レア、ミディアムレア、ウェルダン、それともローか、ブルーか?」
「えっと、ミ、ミディアムレアで」
ヨヨはシガレットの質問に答える。
「ミディアムレア? 気取り屋め」
グルーパーは間髪入れずに呟く。
「またグルーパーがなんか言ってるよシガレット!」
甲高い声でシガレットの頭上をくるくる回っている妖精はケタケタと笑っている。一見すると襤褸切れに身を纏ったおどろおどろしい出で立ちだ。青黒い髪に赤い瞳が煌びやかである。彼女はシガレットのバディのバンシーである。
「バンシー、黙ってろ」
シガレットは肉の焼ける音を聞きながらバンシーに強く当たる。
「酷いよー、肉焼いてるだけじゃん」
「いいから黙ってろ」
「はーい」
そう言うとバンシーはシガレットの頭の上に乗っかる。シガレットは肉をこんがりと焼き上げると皿の上に乗っける。
「持っててやれ」
シガレットがバンシーに指示を出すと両手で抱えるように皿を持ちヨヨのいるテーブルまで運ぶ。
「私はバンシー、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「ふえ……」
「ふえ?」
ヨヨが挨拶した瞬間、バンシーは表情をどんどん曇らせ始める。
「やべえ、ヨヨさん耳塞げ!」
慌ててモラセスがヨヨさんに怒鳴るように言う。
次の瞬間――
金切り声、もはやフラッシュバンが炸裂したと言ってもいいだろう。
「モラセスと俺で行く」
「オーケー、ラプター!」
モラセスは名前を呼ぶと自室から一匹の恐竜が現れる。中型犬ぐらいの大きさで尻尾と頭が長く二足歩行の恐竜が飛び出してくる。
その姿は本来のヴェロキラプトル(映画などでディノニクスと間違われているが実際は小さい)。
モラセスとグルーパーは武器を手に取り外に出る。と言ってもグルーパーは相変わらず素手で戦っている。最近では話すより殴った方が話は通じるとか言い出している始末だ。
暴君は名君とかいうが、あればタイラントか何かだろう。
「今の音は」
「すまんなうちのバカは危険が迫るとああやって泣き出すんだ」
「泣き……泣き?」
「炸裂音に近いだろ、前にメロカルさんがうっかり食らって数十分は耳が戻らなかったそうだ」
シガレットは淡々と話をすると人数分のステーキを運ぶ。モラセスとグルーパーを待つことなくナイフを肉に差し込んだ。
「とりあえず食っとけ、すぐ戻る」
シガレットとハードロックは無造作に肉を咀嚼する。それからほどなくしてモラセスとグルーパーが戻ってくる。
「すまんね、雑魚がちょっとな」
モラセスは軽口を叩きながら、食卓に座る。それを追いかけるようにグルーパーも席に着いた。
「さて、じゃあほかの面子は仕事だのなんだので、かなり遅れるらしいし遠慮なくっと」
大きく切った肉をグルーパーは詰め込むように口の中に入れる。
「で? どうするんだ?」
シガレットはナイフとフォークを皿に置くとグルーパーに聞く。
「一応儀式は完了。これで七つ中ひとつが終わり、んで、二個目のアイテムの話だが既にバレット宛に、連絡が来ている」
「連絡?」
ハードロックが小首を傾げる。
「ああ、昨日、俺とバレット以外ログアウトしてから連絡が来てな、次は†トワイライト†連邦だ」
「†トワイライト†連邦……†はいるのか?」
「お国柄がわかるからつけているんだと」
「ああ、なるほど」
グルーパーの回答に対しハードロックが頷いた。
「さて、これ食ったら移動しなきゃな」
グルーパーは懐から手紙を出す。テーブルに放り出すと思いのほか滑りがよく、床に着陸した。
「だっせえなぁ」
シガレットは呆れる。グルーパーもそれには同意せざるを得なかった。
手紙をハードロックが拾いなおし内容を読み上げる。
「えっと、新しき冒険者よ貴殿らの活躍しかと見届けた、緑青のアヴァロンは†トワイライト†連邦にある。求めるのであれば玉座に来たれ。差出人ライトニング」
「ライトニングは†トワイライト†連邦の実質的なボスであり冒険者だ。あと二週間でログアウトしてしまうため距離を逆算してもそろそろ出なきゃならん」
グルーパーはため息をつく。
「すまん、ちょっとこれから用事があってな」
「俺もだ」
モラセスとシガレットは断りを入れる。
「仕方ない、先にハードロックと俺で出向く」
「グルーパーと二人旅かぁ……」
先が思いやられる。こいつは次何をしでかすのだろうか。ハードロックの悩みはつきないばかりだった。




