18.チンパン無双
バレット
職業 スナイパー/トレーダー
レベル25
遠距離射撃に特化したビルド。
スキル
狙撃強化Ⅲ :銃による狙撃のダメージを向上
射撃強化Ⅱ :射撃攻撃時の威力上昇
交渉術 :商談が有利に進む
銃ぶっ放すより買い物の方が多い
byバレット
「これどうしたらいいでswようか! 挙兵ってああもう!」
顔面蒼白にして取り乱す第一王女ヨヨは小さな会議室にグルーパー達を呼びつけていた。
「んー、とりあえず逆賊なのでぶっ殺しましょう」
グルーパーはお茶菓子に手を伸ばしながら、はっきりと冷静に言う。
「しかし、私は元々奴隷……とてもじゃないですが軍隊の指揮なんて……家臣に有望そうなのがいませんし……」
「おやおや、軍事担当の大臣とか貴族とかおりませんか?」
「ええ、イジドアと言う者がおりましたが、リオン側に着いてしまったので……」
「あっあっあっ、詰んだわ、軍事持ってかれちゃ無理無理無理蝸牛」
「え、うそ……」
「状況は大体分かったんで、今使える物の状況を整理しましょう」
「え、ええ……まずこちらとして出せる兵士は一万程度になります。リオンが出せる兵士も一万位だと思います」
「国の割りに少ないですね」
「経済悪化に伴って一部の貴族が国外に出たからな、その煽りでお抱えの兵士も一緒に外へ出たという感じだな」
グルーパーの疑問に対しバレットが答える。
「この国オワコンかぁ?」
「どうすんだよ?」
「とりあえずどういう経緯があったか知らんが、挙兵されているのであれば打って出るしかない。俺たちは最前線に出てぶっ殺すしかないですな」
グルーパーはすまし顔で言うが内心は事が予定通り行かずストレスを抱えていた。
「どのみち、こっちは王政内部が腐敗しきっているので余り貴族に幅を持たれても困ります。援助は望めないです」
ヨヨは七人に止めの一撃を入れる。
「リオンは腕利き軍師と兵がいる、こっちは兵はいるものの腕利きがいないと……そして援助も求めにくい……奇策でも何でも試さねえとな」
グルーパーは頭をグシャグシャに掻き毟った。
「じゃあ、次は作戦だな」
「PDCA回さなきゃ……パニック、デッド、クラッシュ、アクシデント……」
「ガバガバじゃねえか」
ハードロックはモラセスに突っ込み入れる。
「んじゃとりあえず、メロカルさん敵の情報を……ってメロカルさんは?」
「挙兵の辺りで出て行ったが?」
シガレットは何食わぬ顔で言う。
「……ほんと、短気だな」
「メロカルさんはどこへ?」
ヨヨは恐る恐る聞くとグルーパーはビスコッティを口に運び、ゆっくりと咀嚼したあと短く「偵察」とだけ返した。
「さてと、相手の兵士は作戦会議中だろう、昨日の今日だ、地の利で有利なのは城がある我々だ」
グルーパーは立ち上がると、五人の方へ顔を向ける。
「モラセスとヴォトカ、敵の兵站に毒を仕込んでくれ、ハードロックはヨヨさんの警護を頼む。俺とシガレットは設備拠点を城に移す準備をする」
全員が頷くと早速行動に取りかかった。拠点にあるアイテムや武具を蒸気自動車に詰め込みシガレットがハンドルを握った。
中世ヨーロッパを彷彿させる町並みで妙にスチームパンクな車が走る様はなかなか奇怪である。
城門に入ると空き離れに案内される。先々代あたりが庭をこさえていたが今は誰も手入れをしておらず、空き家状態となっている場所らしい。空き家の中は普段からメンテナンスが行われている様で小綺麗だった。少なくとも男七匹が自由に寝相をかける程度にはスペースがある。
そこに無線設備や武具、弾薬作成キットなどを展開すると、いつでも戦えるように準備を徹底した。
「鉛がねえな、銅か錫、何でも良い低融点の金属が必要だ」
シガレットはため息をつきながら言う。元々白い森は鉱山資源に恵まれず金属製品はバレットの調達ありきで何とかなっていたということも起因している。
「真鍮は?」
「ギリ及第点」
「確か城内の武器庫に真鍮製の大盾とかが並んでいた。一つくらいパクっても問題ないだろう」
グルーパーの提案にバレットは安易に頷かなかった。
「うーん、そこまでするか?」
「時間が経てばバレットが調達できると思うけど、さてどうしたもんか」
「あんまりこの国に頼りまくるのもどうかと思うぜ」
「そうだなぁ、何とか外交の上では対等な関係だが、こっちは人口七人の集落だし、潰されても自由が利かねえし……うぅ」
「いっそ王女、娶ればよいのでは?」
「え? 寝取る? 王女旦那も婚約者もいねえぞ?」
「耳腐ってんじゃねえか? ついでに脳みそも」
「お?」
「娶るって言ってんだ」
「あー、めとる方ね、すまんすまん」
「怒られろ」
「どこにだよ、運営か?」
「急にメタいこと言い出すんじゃねえ」
「お、そうだな、じゃけん……あっ」
「どうした?」
「いや蒸気自動車の熱交換器に銅管使ってるわ」
「あ、それだ。んでも、あれ取り外すか?」
「それなぁ、まぁ、様子見で行こうか」
「オーケー」
ため息をついてシガレットとグルーパーはテラスに出ると一服し始める。
十分ほど煙に舌鼓を打ち、これからの作戦や自分たちの行動、杞憂することが山積みだった。
「……ちょっと散歩に行ってくる」
「いってらー」
シガレットはそう言うと庭から外に出て行った。
「よぉ、戻ったぞ」
メロカルが意気揚々と帰還する。
「お疲れ様です、首尾は?」
「上々、グルーパーの方は?」
「こっちは弾薬不足っすね戦闘するなら充分ですが戦争するには心許なさ過ぎる」
「ああ、それなら帰りがけに敵の武器庫制圧したからそれを使えばいいんじゃね?」
「流石っすね、あとは、敵拠点の位置と部隊配置、敵指揮官、参謀とかの居場所が分かれば動きが取れそうっすね」
「ああ、それなら、ほい」
メロカルは懐からメモ帳を取り出しグルーパーに手渡す。メモ帳には敵陣の正確な配置と敵将のリストが載せられていた。さらには武器庫、食料庫、補給部隊のルートなども細かく記されている。
「でかした!」
「まぁ、斥候としてはいい働きできたんじゃねえかな」
「最高っすね、この食料庫とか燃やしたら敵の顔が真っ青になりそうっすね」
「ああ、燃やしておいたぜ」
「え、ああ、はい、えっと……ちなみになんですが、うちのこの獣人自治区にある食料庫とか狙われそうなんですが」
「あー、それ俺も思ったから既に兵を回すように伝えてあるわ、敵さんの動きも城から西に構えているし、食料庫とか貯蔵庫が密集している獣人自治区は格好の的だからな。住民にも情報は流してあるからかなり警戒しているな」
「わーお、チンパンジーが人間になってるぅ!」
「ああ? なんだやるのか? うきゃうきゃうっきーとか言えばええんか?」
「おう、黙ってりゃ最高だったのに台無しじゃねえか」
「草、あ、敵の動きだけど、リオンを中心に全部隊が一斉に城に突撃万歳してくるっぽいな、敵としてはヨヨの首さえ取れりゃいいって感じだからな」
「うーん、リスク管理ガバガバじゃねえか?」
「部下は具申しているらしいんだがな……」
「自分の部下の無知無能は許容する主義ですが、これが部下だったら顔面グーから始まる調教生活ですわ」
「ほんとそれ」
「さぁて、一気にレベルが低い戦いになってきたのであとは被害を抑えるために全力を尽くせば良いわけですな。リオンはできることなら生け捕りにしたいですね」
「お、やってやろうか?」
「変に従属してくれなさそうなのできっちり戦争でボコってから相手から降伏して頂くような形でお願いします。無理そうなら即殺でいいです」
「おう、じゃあ行くわ」
「おいおいおいおい、もちつけ!」
「ペッタンペッタン」
「ツルペッタン……じゃなくて! しばらくは休んでもらって良いっすよ」
「そうか、じゃあちょっと一眠りするわ」
「了解です」
メロカルはそう言うと布団を並べた場所に寝転がると直ぐに寝静まった。
「ただいま」
モラセスとヴォトカが二人揃って戻ってくる。
「おかえり、首尾は?」
「今頃下痢に苛まれているだろうな、三日四日は腹痛で動けねえだろうな」
「流石だなモラセス」
「まぁ、実際仕込んだのはヴォトカだけどな」
「楽勝」
「ありがとうヴォトカ、さて準備は揃った。果報は寝て待てということであとはバレット待ちだな」
「オーケー」
「ロボの散歩がてらなんか食い物買ってくるよ」
「頼んだわヴォトカ」
「おう」
ヴォトカはそう言うと足下で跳ねているロボを連れて拠点を後にした。
決戦の火蓋は間もなく切り落とされるばかりだった。
夕方までグルーパーはメロカルのいびきの中、眠りにつく。
「なんか忘れてる気がする」
おもむろにそう呟くと、外に通じる扉が開かれる音がした。
音の方へ向うと、シガレットが庭で一服していた。足下には赤黒い布袋が無造作に置いてある。
「お帰り」
「ただいま、手土産だ」
シガレットはそう言って布袋を軽く蹴る。
「それは?」
「リストにあった敵将の首、作戦会議中に雁首並べてたからなつい手榴弾を、な?」
「爆竹投げ込む感覚でやりやがって」
「死んだところでここにリスポーンするだけだからな」
「違いない、ナイスだシガレット」
おひさ!