歪み
初投稿です。
拙いところが多々あると思いますが、お付き合い頂ければ幸いです。
――それは、たった数分の出来事だった。
その日、私はいつも通りに騒がしい教室で授業を受けていた。
先生が騒ぐ生徒を何度も注意しながらゆっくりと進む授業に私は溜息をつき、ふと顔を上げた。すると、教室の真ん中、その空中に黒い点のようなものが見えた。
見間違えかと思い、何度か瞬きをしたり目を擦ってみてもその黒い点は消えず、それどころか少しずつ大きくなっているような気すらした。
不安になった私は、隣で居眠りをしている幼馴染の「彼」の肩を叩き声をかけた。
「ねえ起きて、あそこに黒い点みたいな、変なのが浮いてない?」
「んん……?あぁ、本当だ。黒っていうか赤っぽいけど……なんだろ、あれ」
目を覚ました「彼」が目を擦りながら私の指差す方を見ると間抜けな声を漏らした。「彼」には赤っぽく見えてるらしいけど、とにかく見えてるのは私だけじゃないことに安心した。
もうすっかり目が覚めた様子の「彼」はきょろきょろと周りを見渡すと私の肩を叩き、耳元に口を寄せた。
「これ、他のみんなは見えてないのかな。誰もあそこを見てる感じしないし」
そう言われて、私も周りを見渡してみた。私と「彼」は一番後ろの列だから他にも誰かがそこを見ていてもおかしくないはずだけれど、「彼」の言う通り1人も気づいてないみたいだった。
視線を戻すと、黒い点――いや、球体はどんどん大きくなってきていて、気づくとサッカーボールほどの大きさまで膨らんでいた。
「ねえ、あれどんどん膨らんでる……大丈夫かな?」
私が「彼」にそう問いかける間にも球体は加速度的に大きくなっていく。サッカーボールからバランスボールほどに。バランスボールから形容できないような大きさに。
あっという間に、ちょうど真下の席に座る男子の頭に触れるギリギリの大きさまで成長していた。
何故かはわからない。だけれど、言いようのない不安感に襲われ、冷や汗のようなものが全身から出てくる。
(何あれ、怖い、怖い、怖い――)
どうやらそれは「彼」も同じなようで、真っ青な顔をしながら、震える唇をゆっくり開いた。
「これ……もしかしてやばいんじゃ」
「彼」がそう言った直後、唐突に球体は肥大化して私たちは飲み込まれた。視界が真っ暗になって、なにか大きなものが軋むような音が聞こえるのを最後に、私の意識は途切れた。
ここまでが、私の覚えている限りの記憶。
そして、私はこの石畳の上で目を覚ました。
薄暗い辺りを見回すと、どうやらここは広い祭壇のようなつくりで、私の他にも多くの人が倒れ伏していた。
顔までは見えないが、みんな日本ではほとんど見ることの無いような髪色をしている。
その中でひとり、既に立ち上がっている人がいた。
男の人、だろうか。華奢な体つきで少し長めの金髪が綺麗な人だ。
私は、何故か軋むように痛む身体に鞭を打ってふらふらと立ち上がる。
「ねぇ、ここは……」
どこ。そう問いかけようとすると同時に振り向いた彼の碧眼と目が合った。そして、彼のその顔を見て、私は何故か安心した。
見たことの無い、綺麗な顔立ちをした美青年。
全然、前と違うけれど、私にはわかる。
そう、「彼」は、私の幼馴染の――
「レン……?」
そして私は、全く覚えのない名前を口にした。