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最強魔女と狼娘  作者: 双碧
第一章
8/26

遺跡にて

 翌日の昼頃。


「思っていたよりも近くで見ると凄い圧倒されますね……」


 私とシアはフィーに別れを済ませたのち遺跡へと赴いていた。

 遠くからもその様相は窺えたが、いざ近くに着いてみると身の丈の十倍以上の高さがあり上を見ようとすると少し首が痛くなるほどだ。


 全体的に白色の寂びれた石で建築されているように見えるが、それだけ年代が古いということだろう。ところどころ壁や床が崩落しているのもぱっと目に入る。

 そういった外見とは裏腹に古代文字らしき文様が肉眼で難なく分かるレベルでで建物の至る所に記されており、かなり丁寧に管理されているのが分かる。


 観光スポットとして栄えているのか、この寒い中でも人足は途絶えていないようで、入り口では誰かしらが入場の手続きを行っている。


「さ、アズ。そんなところでボケっとしてないで中に入らない?」

「あ、はい!」


 くいくいと手を引っ張られて我に返り、シアに合わせて入り口まで歩く。



「で、これくらいの身長で髪を後ろに纏めた感じの銀髪の少女は来なかったって聞いてるの。あの子が絶対先に来てるはずだし!え?知らない?そんなわけないじゃない!というか聞いてた話と違うんだけど、なんで入っちゃダメなの?許可とか必要って聞いてない……え、お金?お金とるの?危ないんじゃないの?どういうこと?」



 遺跡の入り口のところで揉めている声が聞こえてきた。


 ――割と面倒な雰囲気……


 少し背伸びして見ると短い茶髪の女性が職員の服纏った二人と押し問答をしていた。

 話している内容は全くと言ってかみ合ってないように感じる。

 その影響か、入場できない人や興味本位で見守る人で人だかりができ始めてしまっている。


 あまりのことにしびれを切らしたのか片方の職員が事務所らしき場所に戻っていった。

 職員自身武器を携帯しているものの、その女性も帯刀しており場に少し緊張した空気が走っているのも確か。


「え、えっと……止めたほうがよさそう、ですけど……」


 口で言う反面、そもそも彼女を説得できる気もせず、かといって私では暴力沙汰になったときに対応できるとも思えない。

 女性の立ち振る舞いが武人のそれで、かつ服の装飾が華美なように見えて表面のみで済ませてあり実用性重視なのが見て取れ、少なくとも戦闘には慣れていることが窺える。


 私はシアの方を向くと、シアは。

「ま、仕方ないねこれは。絶対にアズには手に余るし。ここで待ってて」


 シアはそれだけ言うとすたすたと入り口付近まで足を進める。

 周囲の人が止めようかどうか迷っている様子だったが、そうこうしているうちにシアは女性と職員との間に入る。


「知人が迷惑をお掛けしてすみません、入場料ですね。こちらで大丈夫ですか?」

「えっと、そういうことならば……」


 どうやらあまり納得していない様子だが職員としてはそれ以上関わり合いになりたくないらしく、疲れた表情でシアからお金を受け取っている。

 しれっと嘘を吐くシアに女性が困惑して口を開きかけたが、シアが振り向き様に一言二言発したみたいで、女性もおとなしくしていた。


 と、問題が解決したからかさっきまでの人だかりも散っていく。


「アズ、という感じでいいの?」


 シアがこちらに歩いてきて確認するようにそう言う。


「えっと、まあ、はい、ありがとうございます」


 正直、収束方法が分からなかったので、という感じもしなくはないのだけれど。

 私が曖昧に答えながら頷くとシアは少し口角を緩め。


「じゃあ、アズ、中に入る?」


 え。


 恐らく付いて来させたであろう女性を無視してシアは私にそう提案する。

 私も思わず固まるが、その女性はもっと困惑した表情をしていた。


「ちょっ、ちょっとまって!?さっきから状況が掴めないんだけど!?相棒は見つからないし、怪物の存在も皆目だし、なんか行動制限されたし、挙句の果てには知らない人から知ってる認定されて無視って何!?あなた少し説明をしてくれる!?」


 シアに掴みかかろうとした女性だったが、ひらりと、その手は宙を切る。


「え、嘘」


 私からは純粋にシアは私の手を掴むように動いただけに見えたが――。

 その女性にとっては違うのか、あまりにも衝撃的だったようで。


「貴女、何者……?」


 シアをその淡い金の瞳で貫くように見つめる女性。

 えっと、よく分からないけど……。


「あの、とりあえず名前を聞いても大丈夫ですか?」


 その女性や私の言葉を脇にシアは涼しい顔で遠くを見ているようだった。




 あの後遺跡から近い丘の平原の上まで移動した後。


「――というわけなのよ」


 その女性――イズクは語気を強めて私たちに話をする。

 余計な言葉やどうでもよさそうな話もちょくちょく混ざっていたような気はするけれど、大まかにまとめると。


 モンスターの討伐を依頼されたけど、仲間と合流できず、しかも指定された場所は入れない(勘違い)、でどういうことか確認しようにも話は噛み合わなくて、といったところだろうか。

 なんか誇張とか曲解とか勘違いが多いせいでどこまで本当かも結局よく分からなかったけど。


 私が返す言葉に困り苦笑いを浮かべていると、イズクは真剣な瞳でシアを見る。


「で、実は貴女が怪物、が変身しているとかではないわよね?」

「単独で出るモンスターならそんなまどろっこしいことしないでしょ?統率が取れている軍隊でもあるまいし」


 シアは至極どうでもよさそうに淡々と答えてイズクに質問を投げ返す。


「さっきあたしの侵入を拒んでいたのやこの子と合わせて軍隊のようなら――」

「ならなんで私とあなたが今ここでこうやって話しているの?」

「それはあたしを騙して後で不意を打つつもり、とか?」

「そこまでする理由あるかしら?そもそもどうして私をモンスターだと思ったのか聞いてもいい?」


「理由はともかく、貴女なんかとんでもないやつでしょ。あたしの第六感がそう言ってるもの。只者ではないって」

「じゃああなたの勘は只者ではない以外に私についてどう言っているかしら?それと受付やアズも同じように感じているかしら?」

「えーと……違うし、勝つのは無理……?ううん、不可能では……?いや、うーん……。受付やこの子はともかく、貴女だけは油断してはいけない気がするのよ!それ以上でもそれ以下でもないから!」


 そう、と微笑むシアを見て、一瞬イズクは毒気を抜かれたような表情をする。

 その後気を取り直したように私たちのお弁当の中から彼女はサンドイッチを取り口に運ぶ。


「あ、これ、とても美味しい。何処で売ってるのかしら」

「手作りですよ」

「手作りか~うん、後で何個かいただいても?」

「挟んでいるものがあまり日持ちしないのでやめたほうがいいと思います」

「うーん、そっか。残念」


 たはは、とイズクは笑いながらも次々とサンドイッチを手に取り頬張っていく。


「そんなに急いで食べると喉に詰まらせますよ」

「大丈夫、こういうのは慣れて育ってきてるから」


 言われてみると、運ばれていく量に対して口の中はそこまで一杯になってないように見える。


「あ、味わってないわけじゃないから、そこは心配しないでね。癖みたいなものだから」


 あらかた食べ終わりパタパタと弁当箱を閉じる。

 シアは私が閉じた箱を受け取り自分のローブの袖口に閉まっていく。


「イズクさん、話を聞く限り多分、違う場所だと思うのですが……」

「うーん、やっぱりあたしはあの遺跡を一通り見てから考えようかな。何回かそう思ってほかの場所に当たった時に最終的に最初の場所だったってことも多いから」


 イズクは伸びをしながらそう返答し、少し鋭い視線でシアを見る。

 やっぱりまだシアに対する印象はそこまで変化してみたいだけど。


「一緒に見て回りますか?私たちも中を見学する予定だったので」

「いや……そうね。そうしようかしら」


 私の提案に少し嫌そうな表情を仕掛けたイズクだったが、途中で何か思いついたのか不敵に笑みを浮かべながらそう言う。


「それじゃあ行きましょうか」


 シアはそんなイズクのことなど何処吹く風といった様子で先に歩き始めていた。 



 

 どうやら入場口は建物の裏口だったようで、遺跡の中に入ってみると思うより広いのか人はまばらといった様子で、内装が見やすい。

 お城や砦、とも少し様相が違う変わった建築で、石の壁の至る所に絵なのか文字なのか区別がつかない紋様が散りばめられている。

 紋様が壁そのものに刻み付けられているように見えたが、触ろうとしても触れられない。

 よく見ると溝を透明な何かで埋められているようで、光の加減次第で光沢があるのがわかる。


「こういう場所にありがちな魔術的な何かで固定されてるのよ、それ」


 イズクが私の不思議そうに壁を触っていた事に反応してか不機嫌に答える。

 振り向くとイズクは周囲を見回しながらカタカタと腰に下げた武器の柄を弄りまわしている。

 さっきからこの調子なのは多分。


「ただでさえ予定狂ってるのに何で本当に何の兆候もないし、平和そうなの?!いいことだけど!」


 イズクはあまりの呑気さにやられてしまっているようだった。

 まず人の手が入っているところなんだし、そういった怪物などがいるほうが問題だと思うんだけど……。


「あの……やっぱりここじゃないんじゃないですか?」

 おずおずと私がイズクに意見すると、イズクは少し考えた風にし。


「……いいえ、もしかしたらこことか……そう、ここら辺とかに入れる道があるとか」

 少し力加減を間違えば壊しそうな勢いで入念に壁やわき道を調べ始める。


「お客様、流石にそういったことは……」


 すかさず近くにいた職員が、またか、といった表情で止めに入る。

 それに対しなんでそう言われたのか分からないのか不服そうなイズク。


「貴女、壁を崩して生き埋めになりたいの?」


 今まで黙って私とイズクの後ろを歩いて様子を見ていたシアの発言に、イズクも手を止め、職員がほっとしたように息を吐きだす。


「何かしないように止めておきますので、気にしないで大丈夫ですよ」

「ちょっと、あたしは別に貴女に止められる筋合いないんじゃないの?」

「そう?たぶん貴方だけならここには入れなかったんじゃないかしら?ここは観光施設みたいなものだしね」


 イズクがシアの言葉を聞いてきょとんとする。

 その間にもさきほどの職員はシアに一礼した後そそくさと仕事に戻っていった。


「ちょ、ちょっとまって。観光施設?観光施設って言ったの貴女?」

「何回も言っていたはずだけど、職員の方も、私もアズも。それに看板とかそういったものにも書かれていたよ」

「え、初耳なんだけど。え、あ……」


 イズクは近くにあるパンフレットに今更気づいたのか、視線を彷徨わせた後その場で唐突にしゃがみ込む。


「……嘘、また全部あたしの勘違い……」


「だ、大丈夫ですか……?」

 私が傍に近づくと、イズクは切なそうな表情をしてこちらを見てきた。


「……アズリエナはいい子だね……ありがとう……」

「ど、どういたしまして……?」


 ふらふらと立ち上がるイズクにどうしたらいいのかわからずおろおろしながら返答すると。


「ちょっと外の空気吸ってくる。好きに見てて大丈夫だから」

「は、はあ……」


 イズクは肩を落としてとぼとぼと外につながっている扉を通っていった。

 本当に大丈夫か心配になるほど落ち込んでいるように見えたけど、いうてそこまで親しいわけでもないから、これ以上はお節介になりそう。

 それにしばらくして問題なければ戻ってくるだろうし……。


「あの、説明お願いしてもいいですか?」


 それまでしばらくこの遺跡の説明を聞こうと思ってシアに話しかける。

 説明の看板などあるのだが、知らない単語が多くほとんど読めない。

 シアから学んだ語学はほとんどが日常用語だったから、仕方ない。


 シアは微笑み私の隣に来て。

「『この遺跡の壁面は特殊な材質により守られている。この特殊な材質というのは刺激を受けると硬化するという性質を持っており、この材質を物理的に撤去することは難しい。壁面に使われているため壁の補強かと一時期考えられていたが、壁自体は容易に崩落することから単純に壁面の文字の保護をしているものと思われる。』……まあ、確かに大方そういったところかしら」


 私はほえー……と右から左に流れかけている言葉を必死になって理解しようとして、ふと興味が沸いてシアに尋ねる。


「えっと、この材質自体は何なんですか?」

「これはまあ、今の時代だと殆ど手に入らない……正確には作れる人は殆どいないから名称も無くなっているけど、ギフト、なんて呼ばれてたこともあった物ね」


 シアが声のトーンを私にしか聞こえなさそうなぐらいまで落として話し始める。


「ギフトって、そのままの意味ですか?」

「ええ。精霊と対話して、結果的に良好な関係を結んだ場合に偶発的に発生するもの、としての認識が強かったから。実際の話、精霊とまともに会話ができるのは魔法を使える中でもごく一握りだけだったしね。今は……正確には何人いるか分からないけど、迫害やその他儀式的な問題で数を減らしてたりするからこれを意図的に作るのは無理でしょうし」


 えっと……。

 なんかもやもやとした疑問が頭の中に渦巻くのだけれど、言語化できない。

 それをシアは察してくれたのか話題を次に進めてくれる。


「ま、そういう歴史とか製作の問題点は置いておいて。これの作られる原理は精霊が集まりその素材をその場所に固定化すると出来上がるっていうものなの。素材はアズも何回か見てると思うけど」

「あ、あの時配ってて精霊が食べた……?」

「そ。いや、食べてるように見えても食べてはいないんだけどね。まあ、あれは厳密には違うんだけど、やり方という点では同じだから。後は精霊が偏向性を持って一か所に集まってそして意図的にその素材を変換して使うとできるの。だから殆どは特定の精霊が淀みやすい場所での疑似的な天然物としてしか作られないの。ここもそうだけど」


 シアが指さす先には確かに複数種類だけれど精霊が偏って集まっている場所がちらほら見かけられる。


「ま、素材がないから今はすでに生成されなくなってるし、これを作るための素材も貴重だし、そもそも素材だけあげてもどうこうなるものじゃないから。それに壁や床が抜けてるせいで精霊の流れも変わってしまっているみたいだし」


「……え、っと素材をあげるのと同じ、とか色々前に言っていたことと矛盾してたりしないですか?」


「ああ、そこなの。一番難しいところは。精霊たちも行動に傾向があって人から見ると自然現象に近いんだけど、彼らも意思があって動いているからそう思い通りに引き起こせないの。そこに関してはアズも何となく気づいてたとは思うけど」


「確かに、シアが精霊たちとおしゃべりしていたりしたのでそういうことなんだろうなとは思っていましたが……」


 それはそれとしてやっぱり少し理解しがたい気分になる。

 理屈はなんとなく分かるのだけど。


「何よりいくら精霊といえども素材を変換するっていうのがとても大変なの。だからよほど説得されない限り自らそんなものは作らないわ。で、さっきも言った通り会話できるだけでも人数が少ないんだから交渉できるだけの能力を持った人はほぼいないと思ってもいいくらい」

「つまり凄い能力の人が昔ここでこの作業をして壁の文字を保護してもらってたってこと、ですか?」


 私がざっくりとした所感を述べると、シアは壁を見ながら呆れたように笑い。


「まあ、色んな意味で凄い人だったってことかしら」

「??」


 私はシアの言葉の意図が分からず思わず首を傾げる。


「えっと、そんなに凄い大変な手間や条件があって保護されてる文字ってなんて書いてあるんですか?読めない、とかそういうことが看板には書かれていますけど、やっぱり歴史的に重要なこととかですか?」

「やっぱり、それ、聞いちゃうよね。うん」

「???」


 シアは大きく一息吐き出すと、本当に私だけに聞こえるような小さな声で。


「これ、全部創作の物語よ。正門のあたりが物語の始まりで、私たちが入ってきた辺りが終わりの」

「そうなんですか……え?」


 ちょっと言われたことを理解できず素っ頓狂な声を出してしまう。

 そんな私を片目にシアはそのまま説明を続けていく。


「単純な古代語、ならば多分解読できたでしょうけど、まさか軽く文字もアレンジ、単語もアレンジ果てや文法もところどころアレンジされ、そしてどういう順番に読めばいいのかも分かりにくい構図になってるから致し方ないと思うわ。よほどのこだわりがあったのでしょうけど」

「え、ちょっ、ちょっ……創作ですか?これが?全部?」


 あまりのことに半信半疑で聞き返してしまう。

 こんな明らかに防衛にたけてそうな建物の内壁で。

 明らかに魔術的な陣のような書かれ方をされていたりして。

 その上この城の至る所隅々まで書かれていて、そしてシアの言っていた素材で覆われ。


 それがただの創作の物語だなんて。

 まだ聖戦時代の遺物で天使や悪魔と闘争を繰り広げられた結果といわれたほうが納得がいく。


「そ。アズの想像している通りだったら良かったんだろうけど。時代的にはまあそれぐらいではあるんだけど……まあ、極端に魔法を使える人にこういうタイプは少なからず一定層居たから不思議じゃないの」

「そ、そうなんです、か?」


 明らかに魔法を極端に使える側にいるだろうシアがいうのだからそうなのだろうけど……

 さすがに納得がいかないというか、私が理解できないから謀っているとも思えてしまう。


「まあ、信じる信じないは好きにしていいレベルだから。もういくつかかけちゃってるから読めなくなってるところも多いし」


 シアはあっけらかんにそう言うと、近くの庭園まで出ていき背を伸ばす。

 私もついていこうとして。


「よ、ようやく見つけた~……」


 息が上がったようなイズクの声が後ろから聞こえてきた。



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